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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2002/02/25 毎日新聞朝刊
[社説]考えよう憲法/30 地方自治 抽象的な条文が分権阻む
 
◇「上からの改革」では画餅に
 地方自治が大きな転換期を迎えている。「民間で出来ることは民間で、地方で出来ることは地方で」をスローガンに小泉純一郎首相が進めようとしている「改革」でも、見直しを迫られている主要分野の一つとなっている。
 高度成長のもと社会資本は下水道を除きナショナル・ミニマムはほぼ達成された。「公共事業は削減」の声は半数を超えている。低成長やゼロ成長が日常的になりつつある昨今、戦後を支えてきた従来のシステムは見直されてしかるべきだ。
 地方自治改革の柱は分権だ。戦後を主導してきた中央集権的官僚制のアンチテーゼとしてとらえるならば、国のシステム改変にも極めて有効なはずだ。住民一人一人の自己決定権、自己責任の拡充を図る分権は、地方自治の処方せんだけではとどまらない。新しい生き方、考え方に結びつく要素を持っている。
 現に、地方自治は国の政策を先取りするさまざまな試みを続けてきた。公開、参加を求める最近の政治意識の変化も、発火点は各自治体が制定した「公文書公開条例」であり、原発の是非などを問う住民投票だった。
 世論の盛り上がりを背景に地方分権推進一括法が99年に成立、国からの機関委任事務は廃止された。地方自治法の冒頭部分に総則的規定が追加され、「住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本とし」など、国との役割分担が明記された。
 
◇GHQ案が起源
 憲法では「第8章 地方自治」が設けられている。冒頭の第92条では「地方公共団体の組織および運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」と、記されているだけだ。肝心の「地方自治の本旨」については具体的な言及はない。いまだに地方自治が確定しない要因だ。
 憲法制定に携わった佐藤達夫法制局長官は住民に身近な公共サービスを「住民の意思に基づきその構成する組織を通じて自主的に処理する、ということが中心の概念」と、後に説明した。地方自治と中央政府との関係は依然不鮮明だ。
 「地方自治」は「第2章 戦争放棄」と並んで、明治憲法には該当する章はない。日本に対するGHQ(連合国軍総司令部)の占領政策の基本は非軍事化と民主化であった。民主化への一つが分権化だった。そこで憲章(チャーター)を持つ米国の地方政府をモデルとしたGHQの「ローカル・ガバメント(地方行政)」案が起源となった。
 具体的には、警察、地方行政権を握り、中央集権的統制の中枢に位置する内務省の解体と知事を含む首長の公選制の導入だった。公選制には内務省が「現状では困難」と反対したが、民意は逆だった。戦後間もなくの毎日新聞の調査ではすでに知事の直接選挙を支持する声が5割を超え、間接選挙支持を圧倒していた。
 GHQ案に対して、日本側はタイトルを「ローカル・セルフ・ガバメント(地方自治)」に修正することを要求。さらに県や市町村などの団体を個別に明記することを避け、地方公共団体という訳語で統一することでまとまった。さらに、第92条に総則的な意味合いを持たせ、「地方自治の本旨」が書き込まれた。しかし、抽象的過ぎて意図するところは明確ではない。
 自民党の山崎拓幹事長が著した「憲法改正」では、地方自治体の公共サービスに国が関与し、地方の自治権を奪っている状況を作り出した要因として、このあいまいな「本旨」を挙げる。憲法を改正し「地方自治は地方自治体及びその住民の自立と自己責任を原則とする」と明記するよう求めている。
 憲法65条では「行政権は、内閣に属する」とうたっている。地方自治体の行政権までが内閣に属するとなると、地方自治体は国の下請け機関と位置付けられる。
 
◇「地方行政権は別」が定着
 96年12月の衆院予算委で、民主党の菅直人氏(現幹事長)が質問に立ち、この点を突いた。大森政輔内閣法制局長官(当時)は、地方の行政権は内閣からは独立したものとの見解を初めて示した。分権への動きは加速した。
 各自治体は未曽有の財政危機に直面している。しかも、介護保険をはじめゴミやし尿処理を充実していくには、広域行政に転じざるを得ない。自治行政の一段の効率化を促進するため、「平成の(市町村)大合併」が進行中だ。現在約3200の市町村を政府、与党では1000程度にまとめることを目標としている。
 こうした効率優先の中央主導の合併計画に反発し、県境をはるかに超えた合併や「合併拒否宣言」を発する自治体も出ている。多様な自治が展開されようとしている証しととらえたい。民主党は「将来的には都道府県に代わる道州制を導入、分権国家に」と、システムの転換を提案している。
 憲法での「地方自治の本旨」が勝手な解釈を生み、分権促進の阻害要因になってきた。地方自治基本法を制定し、それを補完すべきだとの見解も出されている。
 分権となれば、各自治体は従来のような国が用意したメニューで行政は進められない。税財源の地方への移譲を含めた大改革を覚悟しなくてはならない。各自治体間だけでなく、時には民間との競争も強いられよう。
 分権の時代を構築するには、住民の意識変革が何よりも求められよう。一人一人が、自己決定・自己責任の原則に立たなければいけない。「上からの分権改革」では、すべてが画餅(がへい)に帰してしまう。


 
 
 
 
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