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2001/09/23 毎日新聞朝刊
[特集]憲法世論調査 首相公選・国民投票制に高い支持――改憲43%、護憲14%
 
 「改憲タブー」はほぼ完全に取り払われ、オープンな議論ができるようになった半面、日本の代議制民主主義の機能不全に対する不信が噴出してきた。改憲に期待する国民が求めているものは首相公選制、国民投票制など、いずれも有権者が政治に直接参加するための手段だ。この傾向は昨年の調査で浮かび上がったが、選出過程の不透明さが批判された森喜朗首相から、公開の選挙で選ばれた小泉純一郎首相に代わった今年も基調は変わらない。KSD汚職や外務省不祥事、不合理な公共事業など政治・行政のあり方が問われ続けている現状の反映といえるだろう。【高安厚至】
 
●高年齢に護憲派傾向
 護憲・改憲両派は80年代に30%前後で拮抗(きっこう)していた。90年代に入ると、憲法論議の多様化を背景に改憲派が40%台へ上昇したのに対し、護憲派は減少の一途をたどり、昨年は13%と過去最低に落ち込んだ。今年は、ほぼ昨年と同じ分布で推移している。
 年代別では、改憲派は30、40代で48%に達するが、50代以上では減少し、「戦中派」の70代以上では33%。護憲派は年齢が上がるにつれて増え、ピークは60代の20%。ちなみにこの世代は敗戦前後に小学校に入り、最も早く「戦後民主主義教育」の洗礼を受けている。
 政党支持別に改憲派の割合をみると、自由党が最も高く71%。以下、無所属の会63%、民主50%、自民45%――と続く。護憲派が多いのは社民41%、共産30%だが、共産支持者の改憲派は34%で、護憲派を超えている。
 
●評価では一致
 「憲法の果たしてきた役割として何を評価するか」という質問(複数回答)に対しては、「戦争のない平和国家が維持できた」68%が最も多く、2位の「健康で文化的な生活が営めるようになった」27%――以下を大きく引き離している。
 注目されるのは、現憲法に対する護憲派と改憲派の評価が、ほぼ同じである点だ。差が出たのは「平和国家」と「基本的人権の保障」ぐらい。それも改憲派の評価が護憲派を10%下回った程度だ。
 
●改めるべき点は
 首相公選制や国民投票制が上位を占めた一方で、9条関係では「自衛隊の位置付けを明確にする」が5位。「集団的自衛権を行使できるようにする(憲法に明記)」は13%にとどまっている。
 年代別では、「首相公選制」は40〜60代で1位。「国民投票制」は20代でトップだ。
 
◇国民投票−−「多くの課題で」望む若年層
 国の政策を国民の直接投票によって決めようという「国民投票制」の是非については、導入賛成派が83%、反対派は11%だった。賛成派が圧倒的だが、賛成派の中でも実施対象を「できるだけ多くの政策課題で」とした人は38%、「重要な政策課題に限って」が45%で、昨年9月の調査に比べ、「できるだけ多く」派が若干増えている。
 この点は年代別の差が明りょうで、「重要課題に限って」派は各年代を通じ4〜5割で一定しているのに対し、「できるだけ多く」派は20代で56%、30代でも51%と半数を超え、70代(26%)の倍を記録。若い世代ほどラディカルに直接投票を望んでいる。
 現憲法は国民投票について、憲法改正の際だけ実施を義務付けているものの、国会が「国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」として、他は認めていない。だが、政治と民意の隔たりが広がる一方、地方自治体で住民投票制度が定着しつつある状況を踏まえ、国民投票を求める声も強まっているといえる。
 
◇9条改正−−「自衛隊を明記」47%
 戦争放棄と戦力不保持を定めた憲法9条について、どうすべきか尋ねたところ、「自衛隊を自衛のための戦力として明記する」が47%で最も多く、「現在の条文をそのまま残す」(31%)と「自衛隊を含め一切の武力を持たないことを明記する」(15%)を上回った。
 設問が異なるため単純に比較できないが、昨年9月の毎日新聞の世論調査でも、自衛隊を自衛戦力として憲法に明記すべきだと答えた人が最も多かった(36%)。人気の高い小泉首相が「自衛隊が軍隊ではないというのは不自然だ」として将来、9条を改正したい意向を示したことも「自衛隊明記」派を増やす要因になっているようだ。
 支持政党別では、自由(党支持者)の65%、自民の56%、民主も48%が「自衛隊明記」派。社民の48%、共産の40%が9条を現在のまま残すべきだと答えた。「一切の武力を持たないことを明記する」は共産(37%)などで多く、公明は「自衛隊明記」36%▽「9条を残す」33%▽「一切の武力不保持」25%――と判断が割れている。
 「自衛隊明記」派は自衛隊の将来像をどう考えているのだろうか。「集団的自衛権の行使」に対する考え方を尋ねたところ、「『行使できる』に(政府見解を)変えるべきだ」が40%、「行使できないままにしておくべきだ」57%で、全体の平均(変えるべきだ25%、現状のまま66%)に比べ、集団的自衛権行使に積極的であるのが特徴だ。
 ただし「自衛隊明記」派に自衛隊の海外派遣の是非を尋ねると、「国連平和維持活動(PKO)に限って認めるが、武力行使は認めない」が40%でトップ。「集団的自衛権の行使を、後方支援に限って認める」(25%)を含め「武力行使否定」派が3分の2を占めた。「武力行使容認」派=PKOに限って武力行使も認める(22%)、相手への攻撃も含め集団的自衛権を認める(6%)=を上回っている。自衛隊明記派も、直接の武力行使に対しては慎重な姿勢であることが見て取れる。
 「9条改正反対」派をみると、自衛隊の海外派遣に関しては「武力行使を除いたPKO」への参加を容認する人が51%だった。
 
◇憲法調査会−−「期待外れ」37%
 昨年1月以来、衆参両院で憲法問題を議論してきた憲法調査会に対する評価を聞いたところ、「大いに評価する」と「評価する」を合わせても17%にとどまった。「期待外れだった」と答えた人は「多少」「大いに」を合わせ37%。最も多かったのは「関心がない」の39%だった。
 「評価する」は年齢が高くなるほど、また自民や保守支持層でやや増えるものの、年代・支持政党を問わず、「期待はずれ」を下回った。一方、無関心派は20代では57%にのぼり、30、40代で4割を超すなど、若い世代ほど多かった。
 憲法改正の是非との関連で見ても、憲法調査会の活動は改憲派の20%、護憲派の24%しか評価しておらず、改憲派の48%が「期待外れだった」と答えている。
 首相公選制導入や憲法9条改正を訴える小泉首相の就任で憲法議論の活性化も予想されたが、憲法調査会は参考人からのヒアリングの段階にとどまっており、参院選をはさんだこともあって国民の注目を集めるには至っていない。
 
◇象徴天皇制−−8割が支持
 天皇制について尋ねたところ、「現在のままの象徴天皇制でよい」が80%を占めた。「廃止すべきだ」が13%にとどまる一方、「もっと権威と力のあるものにすべきだ」という天皇制強化論も3%に過ぎなかった。象徴天皇制に対する支持は、毎日新聞がこの問題について質問を始めた70年以来、一貫して8割前後を維持している。
 年代別では、50代以上で支持が8割を超え(廃止は1割前後)、20代では廃止が2割を超える(支持は7割)。政党支持別では、象徴天皇制支持派は自民の87%を筆頭に民主、社民支持層で8割を超え、共産支持者では63%にとどまっている。
 
◇質問と回答◇
◆国会に設置された憲法調査会の過去1年半にわたる活動を評価しますか。
 
  全体 男性 女性
大いに評価する 2 4 1
評価する 15 17 13
多少期待外れだった 26 26 26
全く期待外れだった 11 13 8
関心がない 39 34 43
 
◆憲法が果たしてきた役割として、どれを評価しますか。(三つまで)
 
  全体 男性 女性
象徴天皇制が定着した 20 22 18
戦争のない平和国家が維持できた 68 67 68
法の下の平等など基本的権利が保障された 26 28 23
健康で文化的な生活が営めるようになった 27 26 28
公正な裁判ができるようになった 8 9 7
三権分立制度が確立した 10 13 8
地方自治が確立した 6 6 6
日本の経済的繁栄を支えた 16 19 13
日本の国際的地位を高めた 13 14 12
特にない 11 10 12
 
 ◆戦争放棄と戦力不保持を定めた憲法9条は、どうすべきだと思いますか。
 
  全体 男性 女性
自衛のための戦力として自衛隊を保持することを明記する 47 55 39
自衛隊を含め、一切の武力を持たないことを明記する 15 13 17
現在の条文をそのまま残す 31 27 34
 
◆日本と同盟関係にある米国の軍隊が攻撃を受けた場合に、日本の自衛隊が米軍に協力して反撃する、というのが、いわゆる集団的自衛権の「行使」です。日本政府は、いまの憲法の下では「行使できない」としていますが、あなたは、どう考えますか。
 
  全体 男性 女性
「行使できない」ままにしておくべきだ 66 60 72
「行使できる」に変えるべきだ 25 34 17
 
◆自衛隊の海外派遣について、今後、どうすべきだと思いますか。
 
  全体 男性 女性
一切認めるべきでない 10 11 9
国連の平和維持活動への参加に限って認めるが、武力行使は許すべきでない 43 39 48
国連の平和維持活動への参加に限って認め、武力行使も許すべきだ 12 19 6
補給や輸送、負傷者の救助などの後方支援に限り、海外での集団的自衛権の行使を認めるべきだ 23 21 24
後方支援に限らず、相手方への攻撃を含めて、海外での集団的自衛権の行使を認めるべきだ 4 6 2
 
◆象徴天皇制についてどう思いますか。
 
  全体 男性 女性
天皇を現在よりも、もっと権威と力のあるものにすべきだ 3 4 3
現在のままの象徴天皇制でよい 80 80 81
天皇制は廃止すべきだ 13 14 12
 
◆国民投票制度を導入すべきだ、という意見についてどう思いますか。
 
  全体 男性 女性
できるだけ多くの政策課題について国民投票すべきだ 38 34 42
重要な政策課題に限って国民投票で決めるようにすべきだ 45 50 40
代議制民主主義を尊重し、導入すべきではない 11 12 10
 
◆a)今の憲法を改めた方がよいと思いますか。
 
  全体 男性 女性
改める方がよい 43 50 36
改めない方がよい 14 17 11
分からない 40 31 49
 
◆b)<「改める方がよい」と答えた方だけに>今の憲法の中で、改めるべき点があるとすれば、どういうふうにすべきだと思いますか。(三つまで)
 
  全体 男性 女性
憲法の文章が翻訳調なので、分かりやすい日本語にする 44 40 49
自衛隊の位置付けを明確にする 35 42 27
集団的自衛権を行使できるようにする 13 17 6
象徴天皇制を見直す 10 9 10
国会の2院制を廃止して1院制とする 25 26 23
重要な政策課題は、国民投票で決める仕組みを作る 38 36 40
首相を国民の直接投票で選べるようにする 45 45 46
地方分権を現在より拡大する 11 15 6
環境権を明示する 6 7 5
国民の「知る権利」を明示する 36 29 44
 
◆国会の憲法調査会の論議が進み、今後10年以内に憲法が改められると思いますか。
 
  全体 男性 女性
改められると思う 33 36 30
改められないと思う 24 27 21
分からない 41 34 46
 
◆どの政党を支持していますか。
 
  全体 男性 女性
自民党 33 34 32
民主党 8 10 6
公明党 4 3 4
自由党 3 4 2
共産党 2 2 2
社民党 3 3 2
無所属の会 0 0 0
保守党 0 0 0
その他の政党 1 0 1
支持政党はない 44 41 47
 
 (注)数字は%。小数点以下を四捨五入したため、合計が100%にならない場合がある。複数回答の合計は100%を超える。無回答、その他は除く。「0」は回答者がいたものの、割合で1%に達しなかった。
 
 調査の方法:8月31日から9月2日までの3日間、層別多段無作為抽出法で選んだ全国20歳以上の男女4565人を対象に面接方式で実施した。回答者は3057人で回収率は67%。回答者の内訳は男性48%、女性52%。年代別では20代13%▽30代17%▽40代17%▽50代21%▽60代18%▽70歳以上14%。
 (この記事にはグラフ「護憲・改憲派の推移」があります)


 
 
 
 
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