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2001/04/28 毎日新聞朝刊
[社説]小泉首相会見 「首相公選で改憲」は唐突だ
 
 小泉純一郎首相は27日就任後初の記者会見を行い、首相公選制の導入だけを目的とした憲法改正を進める考えを明らかにした。変革を旗印にする小泉首相としてはかねての持論を展開、新たな政治的局面を作り出そうとしたのだろうが、行政府のトップとしては軽率すぎる。
 会見の中で、小泉首相は憲法9条について「不自然な問題が出ている」との認識を示しながも、「戦争の後遺症が強く、(9条改正を)いまの政治課題に載せることはむずかしい」と語った。その上で、「こうすれば憲法改正が出来ると、国民に理解されやすいのは首相公選制だ」と、公選制導入に限った憲法改正を提起した。
 各種の世論調査でも、改憲の具体論として、首相公選制を望む声は強く、毎日新聞の調査(2000年9月)ではトップとなっている。「無党派旋風」に押され各地で、指導力のある知事が次々に誕生していることも首相公選制には追い風となっている。
 小泉首相は山崎拓幹事長らとともに首相公選制に積極的で、先の総裁選でも「検討に着手することを含め調査会を設ける」と公約していた。
 現憲法では96条で改憲の手続きを定めている。その一方で99条では閣僚などの順守義務を定めている。閣僚の改憲発言が問題になると「政治家としての個人的見解」「改正は96条に定められており、改憲を論じても99条に触れない」と、政府は説明してきた。
 衆参両院に憲法調査会が設けられ、首相公選制をはじめ、憲法論議が活発に進められている。憲法改正の発議権は国会にある。小泉首相はいまや単なる国会議員ではなく行政府のトップである。三権分立を尊重しなくてはならないはずだ。
 首相公選制で政治のリーダーシップを回復させようというのだろうが安直だ。わが国で政治の指導性が喪失された最大の要因は、リクルート事件から最近ではケーエスデー事件と、あとをたたない政治スキャンダルだ。政治への信頼を政治の側で裏切ってきた。
 自民党内の派閥力学から見れば少数派の小泉首相を誕生させた原動力は党員投票の予備選だった。これがミニ公選制の様相を呈したと評された。だからといって、即座に首相公選制導入に結びつけるのは拙速すぎる。
 1月の中央省庁再編にともない首相官邸の機能は強化された。副大臣、政務官制度の導入で政治主導の政策決定が図られる環境は整備されつつある。
 「構造改革なくしては景気回復は図られない」と、小泉首相は再三にわたり力説している。自ら課した政策課題の中でも、首相公選制の優先度は必ずしも高くはないはずだ。
 靖国神社への公式参拝問題を含め、7月の参院選に向け民主党内の亀裂を増長させる党利党略と勘ぐりたくもなる。憲法改正という重大問題をあまりにも軽率に扱っては、政治不信は解消するどころか増すばかりだ。


 
 
 
 
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