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3.3.3.2 一対比較実験
(1)識別線検出における誤認
 識別線検出における誤認を表3.3に示した。全試行を通じて誤認が1件のみであり、同定実験に比して誤答率は極めて低かった(同定実験の平均誤答率13.9%に対し、識別線検出の平均誤答率は0.1%)。識別線検出課題は同定実験の後に行われたため、被験者の慣れが影響した可能性もあるが、それを考慮しても識別線検出課題と同定実験の誤認数の相違は顕著であった。これは、同定実験のように識別線の有無から調べなくてはならない作業に比して、識別線検出課題のように識別線があること自体はわかっている状況で識別線の付いた側のみを検出するという作業は容易であるものと推測される。なお、1件だけみられた誤認は、混合ブロックAにおけるものであった。この誤認の理由として、識別線と点状突起の間隔が狭いために識別線を検出できなかった可能性の他に、施工上の段差のようなノイズ的要因が影響したという可能性等も考えられるが、ビデオによる追解析でもいずれとも明確な証拠は得られなかった。
 
表3.3 識別線検出の誤認
ブロック 試行数 誤認数(件) 誤認率(%)
混合ブロックA 152 1 0.7
混合ブロックB 152 0 0.0
混合ブロックC 152 0 0.0
混合ブロックD 152 0 0.0
混合ブロックE 152 0 0.0
760 1 0.1
 
(2)識別線検出の所要時間
 制限時間(60秒)を超過した例は1件もみられなかった。
 全試行について識別線検出の所要時間の分布を図3.20に示した。ブロック同定の場合と同様、所要時間は右方に偏った分布となった。図中の点線は“実用上の制限時間”を示している。
 10個の比較対を1回ずつ評価すれば、混合ブロックA〜Eのそれぞれについて4回ずつ評価することになるため、各ブロックとも4試行の平均所要時間を用いて統計解析を行ったところ、全ブロックとも、ブロック同定に比べて所要時間が明らかに短く、統計学的にも有意な差が見られた(ウィルコクソン検定、いずれの場合もP<0.001)。このことからも識別線検出課題がブロック同定に比べて容易であったものと考えられる。なお、所要時間にブロック種別による相違は見られなかった(フリードマン検定)。したがって、所要時間の観点からブロックの優劣をつけることは難しい。
 
混合ブロックA
 
混合ブロックB
 
混合ブロックC
 
混合ブロックD
 
混合ブロックE
 
図3.20 識別線検出の所要時間
 
(3)一対比較の結果
 一対比較課題において、「わかりやすい」と判断された回数を、それぞれのブロックごとに表3.4に示した。ブロックの組合せによって、一方のブロックが多く選択される場合(例えば、混合ブロックAと混合ブロックD)と、2つのブロックが拮抗する場合(例えば、混合ブロックBと混合ブロックC)がみられた。また、「どちらも同じくらい」という回答が多く見られた場合(例えば、混合ブロックDと混合ブロックE)もみられた。
 次に、「わかりやすさ」の度合いを示す尺度値と、その尺度値をブロック間で比較することが統計学的に意味を持つかどうかを表3.5に示した。「わかりやすい」と選択された順に5種類の混合ブロックを並べると、混合ブロックE→混合ブロックC→混合ブロックB→混合ブロックD→混合ブロックAという順序になる。しかし、統計的な信頼度を考慮すると、比較の意味があるのは、混合ブロックAは他のどのブロックよりも「わかりにくい」ということと、混合ブロックEは混合ブロックDよりも「わかりやすい」ということのみであり、他のすべての組合せについては「差がみられない」ということを意味している。
 以上のことから、一対比較の結果からは混合ブロックAが最も好ましくないということが言えるものの、どれか1種類のブロックを最良とすることは出来ない。
 
表3.4 一対比較の結果
  前者がわかりやすい 後者がわかりやすい どちらも同じくらい
混合A vs 混合B 13(34.2%) 23(60.5%) 2(5.3%)
混合A vs 混合C 12(31.6%) 24(63.2%) 2(5.3%)
混合A vs 混合D 8(21.1%) 25(65.8%) 5(13.2%)
混合A vs 混合E 9(23.7%) 26(68.4%) 3(7.9%)
混合B vs 混合C 18(47.4%) 15(39.5%) 5(13.2%)
混合B vs 混合D 20(52.6%) 16(42.1%) 2(5.3%)
混合B vs 混合E 13(34.2%) 25(65.8%) 0(0.0%)
混合C vs 混合D 22(57.9%) 15(39.5%) 1(2.6%)
混合C vs 混合E 14(36.8%) 21(55.3%) 3(7.9%)
混合D vs 混合E 11(28.9%) 16(42.1%) 11(28.9%)
 
表3.5 各ブロックの尺度値とブロック比較の有意度
ブロック 尺度値 混合E 混合C 混合B 混合D 混合A
混合E 0.51 - - - - -
混合C 0.34 有意差なし - - - -
混合B 0.32 有意差なし 有意差なし - - -
混合D 0.30 P<0.05 有意差なし 有意差なし - -
混合A 0.00 P<0.01 P<0.01 P<0.01 P<0.01 -
 
3.3.3.3 同定実験と一対比較実験の総括
 ブロック同定、識別線検出および一対比較という3つの課題で検討を行い、さらにブロック同定と識別線検出については誤認および所要時間という異なった観点で検討を行った。しかし、それらの結果は必ずしも一致するものではなかった(表3.6)。
 実際の駅において利用者が混合ブロックを用いる文脈を考えると、まず最初に混合ブロックであることを同定し、それに続いて識別線のついている側に注意が向けられると考えられる。つまり、混合ブロックであることの同定が何よりも先であり、それがなければ識別線の検出はあり得ない。したがって、3種類の課題を等価に扱うべきではなく、同定実験の結果をより重視するべきであると考える。
 以上のことから、混合ブロックBを最良パターンとして選定するのが妥当であると考える。
 
表3.6 各課題の結果
実験 課題 推奨されるブロック 備考
同定実験 誤認 混合ブロックB ・混合ブロックCで誤認多数
所要時間 明確な優劣差なし ・“実用上の制限時間”を越えた件数は少ない
識別線検出 誤認 明確な優劣差なし ・誤認率は極めて低い
・混合ブロックAで誤認あり
所要時間 明確な優劣差なし ・“実用上の”を越えた件数はごくわずか
一対比較 -- 明確な優劣差なし ・ブロックAは好ましくない
 
3.3.3.4 識別線の位置について
 実験後の聞き取り調査の結果、識別線が位置する側について、ホーム内側が良いとの回答が21件、線路側が良いとの回答が17件であった。ホーム内側が良いと回答した被験者には、「“警告”の意味を示す点状突起が線路側に位置すべきである」という意見が7件見られたが、それ以上に「識別線を誘導目的に使うことが出来る」との意見が多かった(12件)。他方、線路側が良いと回答した被験者には、識別線を心理的な限界ラインと捉えて「識別線よりも外にはみ出さないように使うとよい」との意見が多かった(10件)。
 ホーム内側が良いという意見と線路側が良いという意見は、数の上では拮抗する形となったが、以下の点を考慮して、識別線をホーム内側に位置させることが妥当と判断した。
・警告を示す点状突起が線路側に位置すべきであるとの考え方は、現行ルールとの整合性がとれる。
・逆に、識別線を「限界ライン」と捉える考え方は、線状突起を警告用途に流用することとなり、現行ルールと矛盾を生じる。
・現状でホーム縁端の点状ブロックを誘導用途に用いる利用者が多い8)ことから、混合ブロックの識別線を誘導用途に流用する利用者が現れることは避けられない。これは、本研究の意図するところとは異なるものであるが、その場合においても利用者の安全が侵害されるものではない。
・既設の点状ブロックに識別線を後付けする場合、ホーム縁端から点状ブロックまでの距離が80cmちょうどであっても、識別線を点状突起より内側に付加するのであれば、ホーム縁端からの距離は確保できる。







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