3 航空機の分類
油分散剤の散布に使用される航空機は、一般に次のような4種類のカテゴリーに分類される。
(1)小型の固定翼機
農薬や殺虫剤を散布するために設計されたもの。油分散剤散布用に改造されたものもあれば、簡単に改変できるものもある。一般にエンジンは1台で、ペイロードは小さい。
(2)2台のエンジンを搭載した中型機
Piper Aztec からDouglas(ダグラス)DC−3、Fokker F−27、Canadair CL−215まで、大きさは様々である。油分散剤散布用に改造されることが多い。
(3)4台のエンジンを搭載した大型機
DC−4、DC−6、C−130、Herculesなど。DC−4およびDC−6は油分散剤散布用に改造され、C−130には携帯式のシステムが搭載されている。
(4)ヘリコプター
農薬散布に使用されるエンジン1台の小型機から、軍用もしくは重い物を運ぶために設計された大型機まで、大きさは様々である。
表−V.1.1 |
油分散剤の空中散布に適している代表的航空機の特性 |
航空機のタイプ |
推進機関 |
油分散剤のタンク容量
(リットル) |
飛行速度
(ノット) |
最小離陸距離
(メートル) |
(1)小型の固定翼機 |
エアロスペース・フレッチャー・クレスコ |
タービン |
1530 |
140 |
300 |
エアロスペース・フレッチャー |
ピストン |
1045 |
115 |
245 |
アントノフ・An2R |
ピストン |
1400 |
100 |
150 |
バサント |
ピストン |
900 |
100 |
215 |
セスナ・アグトラック |
ピストン |
1060 |
100 |
400 |
パイパー・ポウニーD |
ピストン |
570 |
90 |
245 |
トランサビア・エア・トラック |
ピストン |
820 |
95 |
335 |
(2)2台のエンジンを搭載した中型機 |
パイパー・アズテック |
ピストン2基 |
570 |
175 |
300 |
ショーツ・スカイ・バン |
タービン2基 |
1200 |
170 |
510 |
ツイン・オッター |
タービン2基 |
2100 |
170 |
320 |
ボルバー・ターボビーチ18 |
タービン2基 |
1100 |
220 |
510 |
カナディアCL215 |
ピストン2基 |
5300 |
160 |
915 |
DC3 |
ピストン2基 |
4600 |
130 |
1000 |
フォッカーF−27 |
タービン2基 |
3780 |
260 |
900 |
(3)4台のエンジンを搭載した大型機 |
DC4 |
ピストン4基 |
9460 |
190 |
1525 |
DC6 |
ピストン4基 |
13250 |
210 |
1525 |
ロッキードC130 |
タービン4基 |
20820 |
300 |
1575 |
(4)ヘリコプター(胴体取り付け用) |
エアロスパシアル・ラーマ |
タービン1基 |
1140 |
80 |
- |
エアロスパシアル・AS350 |
タービン1基 |
1100 |
120 |
- |
ベル47 |
ピストン1基 |
400 |
75 |
- |
ベル206 |
タービン1基 |
680 |
115 |
- |
ベル212 |
タービン2基 |
1515 |
125 |
- |
ヒラーUH−12E |
ピストン1基 |
500 |
80 |
- |
ヒューズ500 |
タービン1基 |
680 |
115 |
- |
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4 使用する航空機の決定
実際には航空機を手配できるか否かが重要な要因になるが、特定の作業のために最適な航空機は、主として、流出の規模と場所によって決定される。
(1)流出油事故の規模による決定
大規模流出の場合、積載量の条件のみで、大型機の使用を決定することがある。例えば、4,000トンの原油の流出では、24時間(昼間の12時間)以内に約200トンの油分散剤の使用が、理論的には必要となる。積載量のみを考慮すると、DC6ならば1機、パイパー・アズテックならば10機、あるいは、パイパー・ポウニーならば20機を用いればよい。現実には油自体の挙動だけでなく、他の多くの要因を考慮する必要があろう。
(2)流出油事故の場所による決定
〔1〕小型の固定翼機
小型の固定翼機で、滞空時間が長く、燃料消費量が少なく、迅速に往復でき、離着陸距離が短く、急造の滑走路でも飛行可能なものは、沿岸近くの小規模流出または不連続の油塊に最も適している。しかし、単発機は安全に運用できる海岸からの距離の点で、常に制約を受ける。
〔2〕ヘリコプター
ヘリコプターは遮閉水での散布が可能であり、流出現場に非常に近い基地から作業できるという点からは、しばしば、有用になる。また、他の業務(例えば近付けない沿岸の清掃現場に作業員と設備を迅速に輸送する)にヘリコプターを使用できるという可能性も利点として挙げることができる。
〔3〕大型機
大型機は外洋の大規模流出に対応するために必要な、航続距離、積載量、速度、安全性を備えているが、長い滑走路、大規模な運用面の支援体制を必要とし、往復、搭載等に要する時間が長く、視野と運動性に制約が多いことを認識しておかなければならない。
〔4〕航空用ガソリンの入手の可否
世界のある地域では、適正規格の燃料を十分な量だけ確保するのがむずかしく、場所によっては不可能である。このことは特にピストンエンジンに用いる航空用ガソリン(Avgas)について言えることであって、そのような地域では、航空機の選択は、航空用タービン燃料(Abtur)を用いるタービンエンジン付きのものに限定される。
5 油分散剤の使用
(1)油分散剤使用の利点
油流出に対応するための基本的手段としては、偶発事故対策のほぼすべてにおいて、物理的な回収があげられている。しかし水面が穏やかな状態であっても、短時間のうちに広範囲にわたって拡散してしまった大量の油を回収するのに十分な機器が入手できないこともある。このため化学的な分散剤は、急を要する油流出事故に対応するための重要な補足手段の一つとなっており、対応策を立案するにあたっては、他の方法と並行してこうした分散剤についても検討する必要がある。
油分散剤を使用した場合の最も重要な生物学的利点は、害を受けやすい海岸線に油が残るのを防ぎ、これによって海岸の生物の生息環境への被害を除去する、あるいは小さくすることができるという点である。油分散剤は、水面から油を取り除き、これを小さな油滴にして水中に拡散させる。この油滴は水流によって薄められ、自然の生物分解のプロセスを経て無害な物質に変っていく。
(2)油分散剤の使用と対象油の粘度
油分散剤は、低〜中程度の粘度の石油製品を処理する際に効果を発揮する。粘度の高い油に油分散剤を散布すると、溶剤が油−水界面に浸透する前に、分散剤が水の中に流れ込んでしまう傾向がある。油分散剤は一般に、粘度が約2000センチストローク(cSt)未満の液体の油および油中水エマルジョンを分散させることができる。これは50〜68°F(10〜20℃)の中程度の燃料油に匹敵する。油の粘度が2000cStを超えると効果は低下し、粘度が5,000〜10,000cStに達すると効果はなくなる。粘度の高いエマルジョン(ムース)や、流動点が周囲温度前後もしくはそれ以上の油に対しては効果はない。重質の燃料油が分散されることはほとんどない。
6 空中散布に適した自己攪拌型油分散剤
(1)油分散剤の種類
今日、用いられている油分散剤は、以下の主な2種類のタイプから成っている。
〔1〕炭化水素型
従来の油分散剤は、炭化水素系の溶剤と15%ないし25%の界面活性剤を含んでいる。これらは、無希釈のまま油に用いることを目的としており、使用前に海水で希釈すると効果を失うので、希釈してはならない。典型的な添加比は1:1から1:3(油分散剤:油の比)である。
初期の炭化水素系の組成は、しばしば、第1世代と言われているが、毒性の高い芳香族の溶剤を用いていた。一方、現在の製品は、第2世代として知られていて、芳香族を含まない溶剤が用いられている。
〔2〕自己攪拌型
濃縮型または自己攪拌型の油分散剤は、アルコール系またはグリコール系の溶剤で、通常、高比率の界面活性剤成分を含んでいる。これらの第3世代の製品は、無希釈のままで用いるのが望ましく、散布時に海水で希釈することもできる。典型的な投入比は1:5から1:30(無希釈油分散剤:油の比)である。
(2)空中散布に適した自己攪拌型油分散剤
無希釈の自己攪拌型油分散剤は、波の作用以外の混合エネルギーを必要としないので、このタイプのものだけが、空中散布に適している。このタイプは、また、航空機の積載能力を最大限に利用できる。
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