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若手研究者・技術者
海外派遣報告
CFDの研究開発の動向調査
正員 佐藤陽平*
 
本報告は、日本財団助成事業「国際学術協力に係わる海外派遣」の一環として実施した若手研究者・技術者の海外派遣報告であり、広く会員に報告すると共に同財団に深く感謝の意を表します。
 
1 はじめに
 この度、日本造船学会の若手研究者・技術者活性化事業にかかわる海外派遣により、平成15年1月11日から同年1月26日まで、アメリカ合衆国に渡航したので、ここに報告する。
 
2 目的
 本渡航の目的は、船舶関係のCFD研究開発の動向を調査することである。調査先として、マサチューセッツ工科大学(以下、MIT)とジョージメイソン大学(以下、GMU)を選んだ。MITでは、船体周りの流れをLarge Eddy Simulationで計算しているので、その計算の詳細を調べることを、GMUでは、非構造格子を用いた船体周りの流れの計算や船型最適化設計を行っているので、格子生成を含めた計算手法の詳細を調べることを、それぞれ大学での調査目的とした。
また、各大学で研究者と積極的にコミュニケーションをして、研究情報の交換をすると共に、今後の研究活動において役立つ人脈を形成することも目的とした。
 
3 スケジュールとコンタクトパーソン
 本渡航のスケジュールを表1に示す。MITではDick K. P. Yue教授のVortical Flow Research Labを、GMUではRainald Lhner教授のSchool of Computational Scienceを訪問した。
 旧船舶技術研究所に数ヶ月滞在した経験のある、Yue教授は、工学部副学部長を務めており多忙のため、Lian Shen研究員にコンタクトパーソンとなってもらった。Shen氏のオフィスに訪問したが、かのNewman先生とKerwin先生と同室の3人部屋で、身近に大御所の先生が居り、MITの歴史を感じた。
 GMUでは、Lhner教授とYang助教授に直接コンタクトして訪問した。Lhner教授は、船舶、航空機、ビル周りや血液の流れまで計算している、CFDの世界では有名な方です。今回、国際自動車免許を持参しなかったため、ワシントンD.C.郊外にあるGMUでは移動手段が車以外に無く困ったが、Yang助教授には自動車で毎日送り迎えをしていただき、大変お世話になった。
 
表1 渡航日程
1/11 移動(成田→ボストン)
1/13〜18 マサチューセッツ工科大学
  Dick K. P. Yue教授の研究室で調査
1/19 移動(ボストン→ワシントンD.C.)
1/20 祝日
1/21〜22 ジョージメイソン大学 Rainald Lhner教授の研究室で調査
1/23 デビットテイラー水槽見学
1/24 ジョージメイソン大学にて調査
1/25〜26 移動 ワシントンD.C.→成田
 
4 MITでの調査
 MITは、Large Eddy Simulationによる船体周りの流れ解析コードSHIPLESを開発した。しかし、SHIPLESの開発者が卒業して以来、船舶のCFDを専門で研究している人は現在一人もいないのが現状とのことだった。現在、CFDの研究開発は、LESによる自由表面と乱流の干渉や、DNSによる振動する2本の円柱の計算等、物理現象の解明に力を注いでいるのが現状だった。
 SHIPLESの詳しい説明をしてもらったが、計算格子はRANSの格子よりも粗く、境界層では乱流の計算が正確にできてないのではないかと感じた。ただし、自由表面乱流モデル、砕波モデル等参考になる点も多かった。船体後半部の計算結果も見たかったが、現段階ではSHIPLESでは船体前半部しか計算していないとのことだった。
 Yue教授の研究室での上記以外の研究としては、Office of Naval Research関連で、機雷の落下計算等の軍事的シミュレーション等も研究されている。MITの海洋学部の廊下には額縁に入った絵が飾られているが、多くは戦艦や潜水艦のもので、日本の大学とは校舎の雰囲気が異なるのが印象的だった。
 また、CFDではないが、〓〓〓法により、魚やFlapping Foilの推進の計算もなされていた。特に魚については、魚ロボットの開発に6名を擁して、かなり注力されていた。曳航水槽を見学に行ったが、近年は船体の実験は行っておらず、魚ロボットの推進力測定や、円柱周りの流れ等の実験が多いとのことだった。水槽見学時は、4名の研究者が、推進性能に優れるTuna Robotと操縦性能に優れるPike Robotを改造中だった。最終的な目的は、魚の推進を応用した高効率な船舶を作ることとのことだった。
 今回、大学院生の部屋に一週間滞在した。MITでは、夜中の3時までシャトルバスが運行していることもあり、学生の帰りは遅い。その流れで、朝の登校も遅いのは、日本の大学と同様だった。研究員や学生と共に、昼食、夕食、夜にはジムでトレーニングまでを一緒にして、研究以外でも時間を共にして、より深い人脈を形成することができた。
 
写真1 Massachusetts Institute of Technology、Yue教授の研究室のミーティングにて、筆者が「海上技術安全研究所でのCFD研究開発」についてプレゼンテーションを行った。このミーティングは、ランチを食べながら行われ、発言しやすい雰囲気の中、気兼ねないディスカッションが行われる。
 
 
写真2 George Maison大学、Lhner教授の研究室にて後列左から4番目、5番目がLhner教授とYang助教授
 
5 GMUでの調査
 GMUのSchool of Computational Scienceは、有限要素法による熱流体解析コードFEFLOを開発し、現在も改良中だった。FEFLOは非構造格子のEuler/Navier-Stokesソルバーで、圧縮性流体と非圧縮性流体の両方を計算可能。また、構造解析コードと連成して、固体と流体の問題を、さらには固体にブレーキングモデルを導入することにより、液体の衝撃圧による固体の破壊まで計算している。
 特筆すべき点としては、CADソフト、格子生成ソフトおよびポスト処理ソフトまでを全て研究室内で開発しており、そのソフトを外販していることもあり、Graphical User Interface(GUI)やInput/Outputも完成度が高いことだった。どのような開発体制だと、大学の研究室でこのようなコードを開発できるのか、特に興味があった。
 School of Computational Scienceは、教授、助教授各一名、研究員5名で、基本的に学生は所属していない。大学のキャンパスから2ブロックほど離れた一戸建てアパートのような建物で、一人一部屋使って落ち着いた雰囲気の中、集中して研究している。プログラムするには、最高の環境だと感じた。
 CADおよび格子生成の部分は、Lhner教授が全て一人で開発している。各研究員は、教授が開発した格子ソフトを使い、CFDの開発や最適化問題の研究を行っている。教授は、研究室のマネージメントもあり多忙だが、午前中は自宅の静かなオフィスで、集中してプログラミングしているとのことだった。
格子生成 熱流体解析コードFEFLOは、三角錐格子のみを計算対象としている。三角錐で境界層内の格子を生成する場合、高アスペクト比の三角錐を境界層厚さ以上生成する必要がある。境界層内の格子生成を調査したかったので、実際に格子生成してもらったが、KRISO Container Ship周りの格子をAdvancing Front Techniqueで難なく作成できていた。今回、共同研究として、作成した格子を、FEFLOと海上技術安全研究所の流体解析コードSURFで計算し比較することにした。この共同研究は、現在進行中です。
高速解法 船舶関係の計算では、Chi助教授がDavid Taylor Model BasinのFrancis Noblesse氏と共同開発したオイラー方程式とフーリエ・コチン関数法の組合せ解法の説明を受けた。船体近傍はオイラー方程式を解き、遠方はフーリエ・コチン関数法を解くという手法で、高速な計算が可能だった。単純な船型では、数秒で造波抵抗が算出できていた。
最適化 CFDを用いた船型最適化設計では、コンテナ船の船首バルブ形状の例を見せていただいた。オリジナルの形状に比べて、最適化したバルブは上方に突出した形状となっており、計算上で抵抗は4%低減できていた。最適化の他の例では、推進力最大を目的としたジェットエンジンノズル形状変形、抵抗低減を目的としたSports Utility Vehicle(SUV)の形状変形等、実用的なものを扱うことができていた。
 
6 終わりに
 今回の渡航は、海外の大学の研究室に一人で訪問し、ディスカッションするという、小生にとっては初めての体験であった。予想通り、英語でのコミュニケーションには苦労をしたが、実践的に英語の勉強もでき、充実した2週間だった。今回の調査の結果と経験を生かし、今後はより一層研究に邁進するつもりである。今回の派遣の機会を与えてくださった、日本財団及び本事業に関わった関係各位に感謝の意を表する。
 
*海上技術安全研究所







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