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3. 保険証券の譲渡
 外航貨物海上保険証券は、船荷証券や他の船積書類と一緒に流通します。保険が対象としている貨物は、売買の対象物ですので、貨物が売買されると所有者が替わります。
 それでは、どのように保険証券は譲渡されていくのか、EDI化した場合に、注意することはないのかを考えてみましょう。
 
3.1 保険証券の流通性
 船積み書類としての保険証券は流通性を条件とするといわれています。輸出貨物に保険契約が結ばれていることを証明する書類ですが、船荷証券と同様に流通性が伴わなければ、その機能は失われてしまいます。船荷証券は絶えず輸送中の危険にさらされている貨物の権利を証券化したものですので、保険証券が一緒に流通しないと危なくて流通できなくなり、流通性が損なわれてしまいます。
 この機能から考えると、保険証券は、損害保険会社が発行していること、船荷証券の記載貨物に保険が付されていることが確認できること、その保険条件が記載されていること、保険証券の正当な所持人に保険証券で認められている権利(損害の請求権)を与えることが満たされば、流通性を確保出来ることになります。
 
3.2 保険証券の譲渡
 保険証券の譲渡について、日本の商法では、保険の目的を譲渡した場合は、それに従って保険証券上の権利も同時に譲渡されることになっています。
 
商法第650条
【保険の目的の譲渡】(1)被保険者カ保険ノ目的ヲ譲渡シタルトキハ同時ニ保険契約ニ因リテ生シタル権利ヲ譲渡シタルモノト推定ス(2)前項ノ場合ニ於テ保険ノ目的ノ譲渡カ著シク危険ヲ変更又ハ増加シタルトキハ保険契約ハ其効力ヲ失フ
 
 1906年英国海上保険法(エドワード7世即位題6年法律第41号)においても基本的には変わりません。被保険者が特に意思表示をした場合以外は保険の目的の譲渡と共に保険証券も譲渡されるとされています。
 この保険法「第15条 利益の譲渡」および「第51条 利益を有しない被保険者は保険証券を譲渡することができない」において次のように定められて言いますが、貨物をCIF契約で輸出することは、輸送途上で、貨物の所有者が売買契約の当事者である売り主から他の当事者である買い主に移転することを当事者間で合意しており、損害保険会社はそれを(当初の被保険者から譲渡人に被保倹者が変わること)前提に保険契約を結んでいるわけですので、保険証券の譲渡は有効に成立すると考えます。
 
第15条 利益の譲渡
 被保険者が保険の目的物について有する自己の利益を譲渡し、またはその他の方法でこれを手放す場合には、保険契約上の被保険者の権利を譲受人に移転する旨の明示または黙示の合意が譲受人との間にない限り、これによって、被保険者は保険契約上の権利を譲受人に譲渡する者ではない。
 ただし、本条の諸規定は法律の効果による利益の移転に影響を及ぼすものではない。
 
第50条 利益を有しない被保険者は保険証券を譲渡することができない
 被保険者が保険の目的物について有する自己の利益を手放すか、または失った場合において、その時よりも前またはその時に保険証券を譲渡する明示または黙示の合意をしなかったときは、その後の保険証券の譲渡は効力を生じない。
 ただし、本条の規定は損害発生後の保険証券の譲渡に影響を及ぼすものではない。
 
3.2.1 譲渡の実務
 それではどのように保険証券の譲渡の実務が行われているかというと、実際には船荷証券と同様に裏書譲渡されています。1906年英国海上保険法(エドワード7世即位題6年法律第41号)においては、裏書またはその他の慣習的方法によって譲渡することができるとしており裏書を絶対要件とはしていませんが、他に今のところないということでしょうか。少なくとも損害保険会社にとっては裏書がもしもされていなかったとしても、実務上の問題はありません。
 
第50条 保険証券の譲渡の時期および方法
(1)海上保険証券は、保険証券面に譲渡を禁止する明示の文言がない限り、これを譲渡することができる。海上保険証券は、損害発生の前後を問わず、これを譲渡することができる。
(2)海上保険証券が保険証券上の権利を移転する目的で譲渡された場合には、保険証券の譲受人は、事故の名において保険証券に基づいて訴えを提起することができる。被告は、その訴えが自ら保険契約を締結した者または自己のために保険契約が締結された者の名において提起されたとするならば被告が援用することができたはずの、契約上の一切の抗弁をすることができる。
 
3.3 保険証券は有価証券か
 流通性があることとその性質は理解できたかと思います。つまり、例え保険証券を引き渡したとしても、貨物の所有権が移転しなければ、保険証券上の権利(損害が発生した場合に保険金を保険会社に請求できる権利)を引き受けた人が持つことになりません。実務の上で保険証券が裏書譲渡されているため、一見有価証券と類似していますが、あくまでも適格な有価証券とは異なります。
 
3.4 新しい譲渡の慣習
 保険証券に関しては、裏書が証券を譲渡する手段として、必ずしも不可欠な手段というわけではありません。紙の時代における習慣的手段と言えます。売買契約により貨物の所有権の移転が法的にはっきりしておれば、それに従って保険証券も正当な所持人に移転されることになります。EDI化の中では、電子化された保険証券の譲渡に関しては、特別な対応をとる(ボレロのTitle Registryのような機能を持つ)必要はないように考えます。船荷証券(貨物の所有者)の管理ができておれば、保険証券所持人の管理は不要と言うことになります。
 これまで銀行等が荷為替業務の中で行ってきた手続き上、裏書譲渡の実務をそのまま残す必要があると判断するのであれば、船荷証券と同様な手続きを踏む必要がありますが、省略を検討する余地があるように思いますが如何でしょうか。
 
4. シングルウインドウ化と損害保険
 電子保険証券の実用化までにはまだ少し時間と検討が必要ですが、損害保険会社の業務を取り巻くEDI化の進捗とその対応について考えましょう。これまで述べてきた電子保険証券は、CIF条件で輸出(輸入)され、それが流通する場合に利用されます。FOB条件やC&F条件で輸入(輸出)される場合は、保険証券の流通性は必要なくなりますので、電子証券そのものは利用されません。だだし、契約者との申し込みの授受や保険料の情報、特に通関に利用されるDebit Note(保険料の確認できるもの)などのために電子保険証券の情報の一部や保険料の情報をEDI化して利用することになります。これら輸入の場合の状況についてふれてみます。
 
4.1 シングルウインドウ化の概要
 昨年、港湾関連手続きシングルウインドウの説明会が法務、財務、厚生労働、国土交通の各省合同で、各地で開催されました。JASTPRO特別委員会でも個別に説明会を開催いただきました。従来、システム申請が可能であっても操作がそれぞれ異なっていた港湾関連の手続きに関し、Sea-NACCS、港湾EDIおよび乗員上陸許可支援システムをそれぞれ接続し、インターネットを利用したワンストップ化システムを本年(平成15年)の8月頃までに開発しようというものです。
 シングルウインドウ化とは、一回の入力・送信で関係府省に対する全ての必要な輸出入・港湾関連手続きを行うことを可能にすることです。現時点では、荷主の輸出入関連手続きまでは含まれていません。XML方式ではなく、すぐにボレロやTEDIのデータをそのまま利用できる環境ではないようです。
 また、税関関連の申請・届出等手続きについての電子化を実現するために、税関手続申請システム(カペス:Customs Procedure Entry System)の開発・導入のための作業が進んでいます。これにより、輸出入申告等に伴うインボイスの提出が、今までの紙による提出から電子的提出に変えることが可能となる予定です。
 昨年(平成14年)12月に、行政手続きオンライン化関係三法が成立・交付され、これまで貿易金融EDIの発展に支障となっていた、紙の処理が行政手続き面で残る点が着々と改善・整備されています。政府手続きの電子化のスピードはますます速くなっていきます。
 
行政三法
「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」(行政手続きオンライン化法)
「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(整備法)
「電子署名に係る地方公共団体の認証業務に関する法律」(公的個人認証法)
 
4.1 各国での貿易業務関連申請に対する取り組み
 前項では、我が国の状況を整理しましたが、次ぎに、国際的競争力維持のためにも電子化が急がれることを理解するために、輸出入の相手国として、そして競争相手国として密接なアジアの近隣諸国における通関に関するEDIシステムの状況を簡単に表にしてみました。
 
韓国
KT-Net(通関関連EDIサービスの提供)
台湾
Trade-VAN(通関関連EDIサービスの提供や電子署名の認証サービスの提供)
香港
TradeLink(通関関連EDIサービスの提供)
シンガポール
Trade Net(通関関連EDIサービスの提供、インターネット上での貿易取引を支援)
 
4.3 輸入通関時に必要な損害保険のデータ(項目)
 FOB契約やC&F契約等輸入される貨物は、通関時に該当貨物の保険料を示すことが必要です。関税がCIF金額から算出されるからです。通関する毎に、保険会社が発行する保険料の記載されたDebit Noteを提出するか、前もって、保険会社が発行する包括予定証券のコピーと保険料の算出式が記載された見積書を添付して包括申請手続きをしています。後者の場合は都度のDebit Noteの提出は省略されますが、2年に一回申請手続きを行わなければなりません。
 Debit Noteには、保険証券の情報以外にも保険料等の情報が記載されていますが、税関が最低限必要とするのは、保険証券番号、保険会社名、被保険者名(荷主)、インボイス番号、保険料です。特に、保険金額、品名、数量等は絶対必要というわけではありません。電子化された通関においての損害保険の情報は上記の限られた項目で済みます。
 現在の実務からは、いずれにしても、EDI化に際しては、この二つの方式が可能となるシステムになると考えます。その場合、都度の保険料の提示方式通関ではEDI化のメリットは大きいのですが、現在かなりの割合で、包括申請手続きがなされていますので、この点を考慮すると、EDI化のメリットは思ったほど大きくないかもしれません。
 
4.4 今後の方向は
 損害保険のEDI化の形態を整理してみましょう。
 輸出の場合は、電子証券を利用することができます。信用状決済の場合は、輸出者が信用状に記載された保険条件を満たした保険を手配し、損害保険会社が保険証券内容を電子化し、その内容を銀行が確認し、そして輸入者に譲渡していくことになります。
 損害保険証券の譲渡は、貨物の所有者の変更に伴い行われるとすれば、損害保険会社がそのことを了解の上であれば、保険会社にとっては、理論的には譲渡ですが、実務的には、保険内容が貨物の正当な所持人に伝われば要件は済むことになります。究極的には、損害保険会社に付保された内容が、貨物の正当な所持人に情報として与えられればよいわけですが、その情報は、保険会社名、保険証券番号、保険条件、保険に付されている貨物、損害が生じた場合の連絡先が明確であれば、最低限の要件は満たされるように考えます。
 現在でも現地法人との貿易においては、既に保険証券を省略しています。現地法人に予め保険契約の内容と損害通知先(請求先)を連絡しておくだけで、個別には保険証券を発行しない方法が一般的です。インボイスに追加で保険会社名、保険条件、保険金額を表記し(通常はインボイスにスタンプを押している)、保険証券代わりとしている場合もあります。EDI化された場合も、この程度の情報がインボイスの情報の中に含まれていればそれで済んでしまうでしょう。
 輸入の場合は、一般には流通性を必要としませんので、損害保険会社と契約者間の間での互いに必要な情報をEDI化していくことになりますが、当事者以外では、通関時の保険料の提示方法になりますが、この点は、前項でふれました。
 
5. 最後に
 ペーパーレスのリスクが話題になることがあります。電子化された新しいビジネスにおいて、書類がなくなることによって、これまでに考えられなかった新しいリスクはないだろうかということです。リスクと言えば保険、即ちリスクを保険で解決しようと言うことになりますが、残念ながらどんなリスクが存在するのかが判らないと保険は成立しません。
 リスクを評価し、それをコスト化することが保険そのものだからです。
以上
 
(塩野 和弘)







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