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里山についておもうこと
 
 農業という営みはすべて、生態遷移を逆戻りさせたり停止させたりすることによって成立している。農民は田畑を耕すことによって裸地を作り、ススキの原を刈ったり焼いたりすることにより草原を維持し、雑木林を定期的に伐採することにより、照葉樹林への移行を阻止してきた。
 食料として、水田、畑を人間の力で作り出し、エネルギーとしての薪炭林を水田の背後に維持し、日本人は農村生活を営んできた。現在では食料の大部分を外国にたより、エネルギーも石油、天然ガス、ウラン等ほとんどを輸入している。そして大量の産業廃棄物を日本各地に残し、放射能廃棄物などは最終処分方法も解らないというありさまである。この生活がいつまで続くのであろうか。人間が生活するうえでの食料とエネルギー、安全な水そして心身の健全な生活のための里山の風景。これらをこのまま無くしてもよいはずはない。
 私たち人間を含め動物はみな、植物を食べるか他の動物を食べるかなどして有機物を摂取しないと生きていけない。その有機物を他の生物の助けを直接借りずに生産できるのは植物をおいて他にない。一方人間社会で我々の社会を悩ませているものにゴミ問題がある。毎日毎日人間社会から排出される廃棄物、廃ガス、放射能廃棄物は膨大な量にのぼる。それらの完全なリサイクル方法はあるのだろうか。
 一方、自然生態系ではこの廃棄物処理もさまざまな生物たちの働きで実にみごとに成し遂げられている。植物の生み出す枯葉はトビムシ類が食べ、動物の死骸はハエ類やシデムシ類などが処理してくれる。獣の糞は、フン虫と総称される虫が食べつくす。これらの昆虫類がだす糞等微細な有機物残渣は、ミミズ類やセンチュウ類などの別のタイプの土壌動物の食料となり、最終的には菌類などの働きにより、水と炭酸ガスと無機塩類にまで分解されてしまう。これらの無機物がふたたび植物に利用されているのは言うまでもない。
 どんな生物にも必ずそれに依存する生物がいる。不注意に低木や野草を刈り取るとその中に希少な種が含まれているかもしれない。里山の動植物はもちろん、微生物にいたるまで良き協力者として、又情報の提供者として、なくてはならない存在である。
 現に人間は里山の動植物や微生物からさまざまな薬品を得ており、そこには未知のものが無数に存在しているであろう。将来的には現在人類がかかえている深刻な問題に良き情報をもたらしてくれるものと確信している。
 以上のように里山は多面的な価値や役割を複合的に、又潜在的に秘めており、不注意に破壊してしまっては取り返しのつかないものである。的確に保全することによって私たち人間は将来にわたり持続的な恩恵のもとで健康に、安心して楽しく生きていくことができるのではないだろうか。
 
山に緑を奉賛会
 
A)森林のはたらき
 森林は、木材を生産するほか、私たちに多くの自然の恵みを与えてくれる。その主なものは、私たちの生活環境を守る働きや、きのこ等の副産物の生産である。また、このような森の働きを十分に発揮させるために、森の取り扱いを法律で規制している森林もある。
 
i. 空をきれいにする
・酸素をつくる
 日本の代表的な森林が1年間につくり出す酸素は、1ha当たり11〜23tになる。その量は40〜80人の人間が呼吸する酸素の量に当たる。
・炭素を固定する
 日本の代表的な森林が1年間に吸収する二酸化炭素は、1ha当たり15〜30tになる。そして、植物体に炭素が固定される。このような森林の働きが、大気中の二酸化炭素の増加を抑えることにつながる。
 
ii. 水を育む−水源かん養機能−
・水を貯えきれいにする
 森林の土は落ち葉や枯れ枝が腐って、小さな空間がたくさんでき、水が浸透しやすい、森林に降った雨は、地中に入り、流れ出てくるが、その間にきれいな水になる。
・水を育みやすい森林
 針葉樹と広葉樹が混ざり、地表は下草で覆われ、落ち葉や枯れ枝が堆積し腐れて、土壌がフワフワしてくる。
 
iii. 土砂崩れを防ぐ−土砂流出防機能、土砂崩壊防備機能−
・流れ出る土砂の量の違い
 土地が樹木や草に覆われていると、雨が直接地表面をたたくことがないため、森林から流れ出る土砂の量は、裸地に比べると極めて少ない。
・崩壊を防ぐ樹木の根
 樹木の根が生育する地下の範囲はせいぜい3〜4mの深さくらいであるが、ほとんどの崩壊地は深さ2mより浅い。森林はこうした小崩壊地を防ぐ機能をもっている。
 
iv. 海岸の飛砂の防止や田畑を強い風から守る−飛砂・潮害・干害防備・防風・防雪・防霧機能−
 森林は、海岸の砂が飛んだり、潮風や霧の害、吹雪や干害を防ぐ機能を持っている。海岸に植えられたクロマツ林、家や田畑の周囲に植えられた防風林等がある。
 
v. なだれや落石を防ぐ−なだれ・落石防止機能−
 森林は、樹木や落葉、下草などが地表を覆い、縄の目のように張りめぐらされた根によって、なだれや落石を防いでいる。
・1本当たりの根の長さ(総延長)
スギ(胸高直径23.6cm)4.1km
ミズナラ(胸高直径14.6cm)2.3km
カラマツ(胸高直径23.2cm)3.1km
 
vi. 火を防ぐ−防火機能−
 樹木には、燃えにくい性質や熱を遮断する効果の大きい樹種があり、これら防火力の大きな樹木は、防火樹帯として植栽されている。
 防火機能が高い森林
●防火力の大きい常緑広葉樹を主体とする森林。
●各階層(高木層、亜高木層、低木層、草木層)がよく発達している。
●高い森林で、高木層が密に繁っている。
*管理が十分行われていなければならない。
 
植物の防火性
防火力 樹種
イヌマキ、コウヤマキ、コウヨウザン、スダジイ、アカガシ、シラカシ、タブノキ、ヤブニッケイ、モチノキ、クロガネモチ、ネズミモチ、シャリンバイ、カナメモチ、ヤマモモ、タラヨウ、ツバキ類、サザンカ、モッコク、サカキ、シキミ、キョウチクトウ、サンゴジュ、マサキ、アオキ、ヤツデ、ユズリハ、ヒメユズリハ、カラタチ
ヒノキ、サワラ、カラマツ*、イチイ、イチョウ*、マテバシイ、ウバメガシ、カシワ*、ヒイラギ、ミズキ*、イチジク*、センダン*、ユリノキ、キリ、アオギリ、プラタナス、ヒサカキ、トベラ、イヌツゲ、クチナシ、アジサイ、ツツジ等、ハコネウツギ
カヤ、モミ、ポプラ等、タチヤナギ、シダレヤナギ、アラカシ、ケヤキ、クスノキ、サクラ等、ウメ、カリン、エンジュ、ニセアカシア、フジキ、カエデ等、カキ、サルスベリ、シナノキ、バラ等、ハギ等、ニシキギ、アセビ
危険 アカマツ、クロナツ、ダイオウショウ、ヒマラヤシーダー、スギ、タイサンボク、キンモクセイ、シュロ、マダケ、オカメザサ、クマザサ、アズマネザサ、ウイービング*、ラブグラス**
 
vii. 魚を育む、航行の目印−魚つき機能、航行目標機能−
 海岸や川のほとりにある森林は、水面に木陰をつくったり、魚等にエサを供給するほか、地表の侵食を抑え土砂の流出による水の汚れを防ぐ。また、海岸線の森林は、航舶の目標にもなり航行の安全を守っている。







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