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佐々恭子 Sasa kyoko
表現塾アートディレクター・現代美術家
 1994年より大学病院・クリニック(いずれも精神科)などで造形講師をつとめるが、評価や治療を重視するカリキュラムの多さに気づく。そこから、病院以外でも安心して表現できる場の必要性と、表現そのものに焦点をあてた活動の大切さを感じ、地域での表現活動をはじめる。
 現在は、精神障害のある人とその家族・作業所スタッフ等がともに表現を楽しむ場としての「表現塾」をたちあげ、ワークショップなどを実施している。大きな結果を出すことより、小さな過程を共有するワークショップを大切にし、日々表現する仲間とともに悪戦苦闘中。
 
「身体表現・人間いけばなを通して」
 
1. 活動状況
発足 2001年5月
構成人数 精神障害者約15人 ほか約5人 (作業所スタッフ・家族ほか)
年齢構成 20歳代〜70歳代
活動回数 月1回の表現ワークショップ形式
活動時間 1回あたり90分
活動場所 公的施設の借用
活動内容 詩の朗読・音楽・身体表現・造形・絵画ほか
参加費 一人100円
運営費 助成金・出演料・参加費
 
2. 活動の特徴
・偏見や差別によって誤解の多い精神障害者が、自らのメッセージを表現を通して発信する場
・彼らを取り巻く環境にある人々(ケアする人)が、その肩書きや立場をはずして共に表現できる場
・「病気」にではなく「表現」そのものに焦点をあてた活動の場
・表現することによりそれぞれが「生きやすい自分」を見つけることができる場
・「感じる」「伝える」「つながる」をキーワードにしたワークショップの実践と仲間づくり
・詩の朗読と音楽を合わせた朗読ライブの開催を通しての社会参加
 
3. ワークショップビデオ(身体表現・人間いけばなを通して―即興の中の素の関係性)
 
4. スタッフ(ケアする人)の声
 
恭子のつぶやき
 8年ほど前から大学病院などの精神科で造形教室をしていたのですが、初めて教室を見学したときに驚いたのは「なんて、表現しにくい雰囲気なんだろう」ということだったんですね。
 スタッフの方の監視とも見える堅い表情にこっちまで息苦しさを感じたのを覚えています(笑)。
 また、作品をなんでもかんでも病気と結びつけて見てしまう関係者が多いのには、うーんって感じでした。
 何かの本で「芸術療法」をもじって「芸術利用法」と書いてらっしゃる方がいて・・・共感しました。私も芸術のジャンルの中にある表現活動を利用し、行うことで彼らが少しでも「生きやすい自分」を見つけることができればと思い、地域のなかでの表現の場「表現塾」を立ち上げました。病院以外でも安心して表現できる場をという願いは、理解ある有志の協力(作業所のスタッフ)と当事者の熱い思いで驚くほど早く立ち上げることができました。
 立ち上げて1年目大きく変わったのはまず当事者、そして2年目に入って変わりつつあるのはいわゆるスタッフ(ケアする人)と呼ばれる仕事についている方々です。私を含めてですが、ケアする人が本来の自分自身の身体と感覚を取り戻しはじめている、そんな気がするのです。
 スタッフが肩書きをはずし彼らと表現の場を共有したとき、「ケアする、ケアされる」といった構造から解き放たれ、自分を取り戻す、すると新しい「人間関係」が生まれ、ただの表現する仲間同士として存在し、「いきる」ドラマを共有しているのです。ワークショップで創っているのは「作品」ではなく「自分自身」、「人間関係」、そして後になって「ケア」は自分と他者を行ったりきたりしているんだなあと気づいたりして・・・。
 
表現塾
住所 〒814−0103 福岡市城南区鳥飼7−17−4 しののめ共同作業所内(吉村眞紀子)
Tel 092−851−7528
 
齋正弘 Sai Masahiro
宮城県美術館教育担当学芸員
 教育大学を卒業した彫刻家。1981年に開館した宮城県美術館は、当初から教育普及部を持っており、準備段階からその教育普及部に所属し、公立の美術館での教育について実践をしてきた。
 現在、宮城県美術館の創作室で、団体を基本にするのではない活動を中心に据えた、美術教育を展開。新たな情報や知識を知るだけの勉強でなく、各自がすでに持っている情報や知識を組み立てなおしたり、見方を変えたりして、新たな世界観を獲得する手段としての美術の使い方に注目している。
 
 どこで、誰が、どのようなことをしている、ということをみんなで集まって、話し合う、と言うより、聞きあう、という集まりは、もういいのではないか。どんなにほかでうまくいっている活動事例を聞いても、自分のところでやってみるとうまくいかない。なぜか。みんな違うからだ。
 
 それでも集まる意義はどこにあるか。答は様々あるが、つい忘れがちなことは、「私たちは、なぜ、それをやるのか」、の確認である。「なぜやるか」は、ほとんど前提のように、あたりまえに、かつ、なんとなく共通に、そこにありそうだが、実は、それが前提になったこと自体が、大変特別なことで、私たちは常に確認し意識しなければいけないのではないか。私たちは、つい枝葉末節の技術的な部分に走りがちだ。集まる意義は、だからたぶん、そこにある。
 
 さて、美術は、「個人」、の自覚の拡大と発展にともなってここまで来た。「私は、一人で、ここにいて、ここからそれをこう見ている」、という自覚の展開。各自は、各自の世界と時間の中に、何とか毎日のつじつまを合わせて生きている。美術は、絵を描いたり工作をしたりというだけでなく、自分を取り巻く様々な物や状況とのつじつま合わせ(美意識)すべてとの、折り合いの付け方(技術)と深く関わっている。美術では誰かが誰かを指導する、というようなことは、本来、起こらない。誰かが描いた絵がわからない。それは当然で、あなたはその人ではない。わからないからこそ、そこから何かが始まる。問われるべきは、その表現がその人の真摯な表現になっているか、だけ。そして、「真摯に正直真剣」は、練習したり、たぶん、指導したりできるのではないか。
 
 「表現している人のまわりにいる人たち」との相談を見渡すと、実は、ここまで述べてきた美術の存在のごく基本的な部分をめぐって、深く困っているように思える。人間が自分という存在を自覚して以来、美術は、常に、そのことの拡大と展開の力強い伴走者だった。もちろん今も、これからも。
 
 もしかすると、「ケアされる人」というのはいないのかもしれない、と考えられるかどうかが、これから「ケアする人」に問われるのかなと、美術について考えながら考えた。
 
宮城県美術館
住所 〒980−0861 宮城県仙台市青葉区川内元支倉34−1
Tel 022−221−2111
Fax 022−221−2115
 
リン・ケイブル Lynn Middleton Kable
アメリカ・アーツ・イン・ヘルスケア学会理事
 ニューヨークにあるホスピタル・オーディエンス社にて、病院や老人ホーム、精神科のデイプログラムなどさまざまな場で音楽や演劇などの公演を実現させた。また、病院での教育と美術をテーマにした映画プロジェクト、視覚障害の人が訪れやすい美術館の環境づくりプログラム、美術をとおしたホームレスの人に対する麻薬やエイズの予防、教育プログラムなどに取り組む。また、ポーランドにおいて福祉施設や医療施設でワークショップを行ったり、難民の子どもたちや小児がんの患者のためのワークショップを行うなど国際的にも活躍している。アメリカ・アーツ・イン・ヘルスケア学会の創設にも携わり、会長もつとめる。「ケアする人のケア」日米共同プロジェクトではディレクターをつとめる。
 
半田 結 Handa Musubi
東北公益文科大学公益学部助教授
 専門は美術教育。災害やがんなどによって親を亡くした子どもたちとその家族の死別体験からの回復、およびNPOなどによるグリーフ・サポート・システムの構築を研究。大学では、現代美術をふつうの言葉で当たり前に楽しめる授業を実践中。共著に『死の社会学』(2001年、岩波書店)、『アートとミュージックの未来形』(2002年、創言社)。
 
播磨靖夫 Harima Yasuo
財団法人たんぽぽの家理事長
 新聞記者を経て、フリージャーナリストに。障害のある人たちの自立生活の場として「たんぽぽの家づくり」および自己表現をしていける社会づくりを市民運動として展開。アートと社会の新しい関係づくりをする「ABLE ART MOVEMENT」を提唱。1999年に「ケアする人のケア・サポートシステム研究」を提案、有志とともに研究委員会をたちあげる。芸術とヘルスケア協会代表理事、日本ボランティア学会副代表、日本NPOセンター副代表理事。
 
アメリカ・アーツ・イン・ヘルスケア学会 Society for the Arts in Healthcare
 1991年にアートを取り入れた活動をしている病院や施設などを中心に設立された。アート・アドミニストレーター、アーティスト、アート・セラピスト、学芸員、看護師、医師、研究者、インテリアデザイナー、建築家、学生など、ヘルスケアの現場でアートを取り入れた実践を行っている人たち、また研究者など約500人で構成されている。アメリカだけでなく、ヨーロッパなど広いネットワークをもつ。
 ヘルスケア施設におけるアートを取り入れる計画や活動の提案、奨励、ヘルスケアの現場に関わる人たちのための専門的なアート・プログラムの開発、アートとヘルスケアに関する調査研究などを行っている。
住所 1632 U Street, NW Washington, DC 20009
Tel 202−244−8088
Fax 202−244−1312
E-mail mail@SAH.org
 
財団法人たんぽぽの家 Tanpopo-No-Ye Foundation
 1976年設立。障害のある人たちの芸術文化活動を支援することを通して、芸術の社会化・社会の芸術化をめざしている。設立当初から開催している障害のある人たちが生み出す詩にメロディーをつけて歌うわたぼうしコンサートは年間50カ所以上で開催、また1995年より取り組んでいるエイブル・アート・ムーブメントでは展覧会やフォーラム、ワークショップの開催などさまざまな取り組みを行っている。
 1999年より取り組んでいる「ケアする人のケア・サポートシステム研究」では、ケアする人が「ケア」を介して成長していくこと、そしてケアの文化をつくっていくことをめざし、調査研究をすすめている。現在はプログラム開発に取り組みながら情報交換を行っている。
住所 630−80044 奈良市六条西3−25−4
Tel 0742−43−7055 Fax 0742−49−5501
E-mail carecare@popo.or.jp
 
芸術とヘルスケア協会 Society for the Arts and Healthcare JAPAN
 1996年より芸術とヘルスケアに関する調査研究や普及のためのフォーラムを行い、2000年9月に設立。医療や福祉、教育などのヘルスケアの現場にアートを取り入れていくことを日的に活動している実践者や研究者、学生など約100人が参加している。新しい時代における健康とは何か、生命の質・生活の質・人生の質を高めるとは何か、さらには一人ひとりが自己実現を図りながら幸福になっていく社会とは何かということを探究している。
連絡先 財団法人たんぽぽの家内
E-mail art-care@popo.or.jp







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