日本財団 図書館


事例7 三島市(静岡県)
〜市、市民、企業等の連携による協働〜
1. これまでの取組み
■グラウンドワーク三島との協働
 三島市は、県のように体系的なNPO支援は行っていないが、NPO法の施行以前から、「グラウンドワーク三島」というNPO団体とともに地域環境改善を協働で実践してきた長い実績を持っている。
 「水と緑と人が輝く夢あるまち・三島―環境先進都市をめざして―」をキャッチフレーズとする三島市は、環境に関する国際的な標準規格ISO14001の認証取得や、環境基本条例の制定など、自然環境の保全にかかわる数々の施策を展開してきた。
 その一つが「街中がせせらぎ事業」で、水辺空間の再生による市街地の活性化、誇りうるふるさとづくりを目指している。市では、この「街中がせせらぎ事業」の計画をつくるにあたって、地域住民や市民活動団体(現「グラウンドワーク三島」等)と数十回にわたるワークショップや意見交換を行い協働事業を成功させるなど、市民との連携に積極的に取り組む姿勢を示している。
 
2. 三島市における協働
 昭和30年代まで富士山からの湧き水が街中に流れ、美しい水辺空間と自然環境を誇っていた三島市は、周辺地域の開発にともない、湧き水が枯渇し水辺の自然環境が消滅の危機にさらされていた。
 まちの水辺空間の再生を図るために、三島ゆうすい会、三島ホタルの会、三島青年会議所などの市民団体が、個々に環境改善の活動を進めていた。それらの8団体が平成4年に「グラウンドワーク三島実行委員会」を結成し、市民・行政・企業のパートナーシップにょる環境改善活動がスタートした。
 「グラウンドワーク三島実行委員会」は、平成11年に「グラウンドワーク三島」としてNPO法人の認証を受けている。現在は、市街地を流れる川の水辺空間の整備を行う「街中がせせらぎ事業」を中心に、市との協働事業を行っている。
 市が「グラウンドワーク三島」との協働を積極的に進めたのは、行政にはない事業ノウハウ(アイデア、人的ネットワーク)を期待してのことであった。いままで最善と考えてきた事業の進め方が、NPOとの協働によって別の角度や視点から見直すことにより、新しいアイデアが反映されよりよい事業となることもある、と知り得たことも大きかった。
 しかし、当初は市内部でもNPOとの協働を不安視する意見も多かった。公共事業は専門家である市が行うべきだという意見である。しかし、「グラウンドワーク三島」との協働の成果が形となっていったこと、市長がNPO協働に積極的な姿勢を示していることなどから、NPOとの協働について市内部でも理解が進みつつある。
 「グラウンドワーク三島」は、公園整備等の事業を実施する際には、役割分担と協力してほしい事柄をはっきりと示しながら、参加している企業、個人及び団体に対して協力を求めている。役割分担や協力してもらいたいことを具体的に示すことにより、より多くの企業、個人、団体がそれぞれの分野を活かして事業に参加することができ、比較的規模の大きい事業についても取り組むことを可能にしている。また、多くの人が事業に参加することにより、自らが参加した事業に対して愛着を感じ、維持管理についても協力的になり、整備後も良好な環境が保たれるといった効果もあるとのことである。
 なお、事業の実施に際して役割分担を明確にすることで、市と「グラウンドワーク三島」の双方の役割分担を明確にすることにもつながっており、グラウンドワーク三島が市に対して漠然と支援を求めるのではなく、市の役割と支援について具体的な形を示して協力を求めている点は大きな特徴である。
 
グラウンドワーク三島との協働事業
 市と「グラウンドワーク三島」との代表的な協働事業は、「街中がせせらぎ事業」のほかに次のようなものがある。
 
●「市民の手作り公園」事業
 三島市民、企業、行政が一体となって、市内各所の公園づくりを行ってきた。
・「三島梅花藻の里」
・「沢地のグローバルガーデン」
・「鎧坂ミニ公園」
・「東壱町田みどり野ふれあいの園」
 
●地球にやさしい環境教育事業
 平成11年に「総合的な学習」の教材にもできるビオトープづくりの話が持ち上がり、市内の小学校において協働で整備を進めた。
・長伏小学校、中郷小学校のビオトープ整備
 
 また、生涯学習分野でもNPOとの協働事業を手がけている。これは中郷地区の公民館を拠点にスタートした事業で、複数のNPO団体などによるコンソーシアム方式で行われている。
 
(1)三島子育てカレッジ
 中郷公民館とNPOの協働事業。
 ニュージーランドの保護者の学習活動とともにある幼児教育活動「プレイセンター」をモデルにした、先輩父母による育児体験を若い父母に伝える場づくりの事業。親子がともにリラックスしながら子育てについて学び、親同士の情報交換及び親と子が一緒に遊べる場づくりを行っている。
 
(2)三島まちづくりカレッジ
 「子育てカレッジ」とともに、中郷公民館で行っていた「中郷まちづくりカレッジ」を、市全体の「三島まちづくりカレッジ」に発展させたものである。
 平成12年度・平成13年度に、文部科学省から「生涯学習分野のNPOの連携によるまちづくり支援事業」を委嘱されている。
 この事業がスタートしたのは市内のNPOから公民館に、「文科省の支援事業を活用したいので、協力してもらえないか」と申し出があったのがきっかけであった。NPOが企画書を提出すると文科省のモデル事業として採択されることになり、すぐに話が進んだ。NPOの情報収集力や素早い実行力が功を奏した。
 この事業の主体は「三島まちづくりカレッジ実行委員会」で、複数のNPO団体と婦人学級、三島市が構成員となっている。まちづくり、国際交流、環境、ボランティア、子育てなど、幅広いテーマで講演会やイベントを開催している。
 
3. 協働のきっかけ
 協働のきっかけは、市民が抱いていた共通の思いにある。水の豊かな三島市をこのままにしてはいけないという市民、企業を問わず、多くの人々が抱いていた思いが形になったのが「グラウンドワーク三島」であり、「街中がせせらぎ事業」等の協働事業へと発展していくこととなった。
 「グラウンドワーク三島」が結成以来、具体的な活動を地道に続けて実績を上げ、時間をかけて地域に浸透させ、市民、市、地元企業の信頼を得て、多くの協力者を得られるようになっていったことも、市が協働事業に踏み出すきっかけとなった。
 また、グラウンドワーク三島では、事務局長を行政職員が務めており、NPOと行政との意思疎通の円滑化が図られたことは重要である。行政職員がもつ専門的な能力やネットワークを活かしたということももちろんであるが、行政と協働するにあたって、行政に対して予算編成時期に具体的な提案を行っている。
 
4. 課題と今後の展望
 三島市は、「グラウンドワーク三島」という成熟したNPOとの協働事業が進んでいたため、情報提供、人材育成、活動拠点の提供など、NPO全体への初期的な支援にやや遅れがあったと思われる。その遅れを解消するために、平成14年4月に「三島市NPO・ボランティア情報センター」が設立されている。
 今後は、この情報センターをNPO支援の拠点として、情報の提供、NPO・ボランティア団体の情報公開など、「情報の発信」を核とした支援を行っていく予定である。
 
NPO法人「グラウンドワーク三島」
 平成4年に事業を開始し、11年にNPO法人の認証を受ける。日本で最初にグラウンドワークの手法を導入し、環境悪化が深刻になった「水の都・三島」の水辺自然環境の再生を目的として活動を開始した。
 「右手にスコップ・左手に缶ビール」を合い言葉に、「花とホタルの里づくり」「湧水の歴史を語るミニ公園」三島梅花藻の里づくり」「フラワー通りの演出」等のさまざまな事業を通じ、市民・市・企業の三者連携による地域総参加のシステムづくりを目指し活動を行っている。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION