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訪問看護ステーションからみた終末ケアのあり方
平成13年度研究結果より
2003年1月22日(水)
(財)日本訪問看護振興財団
常務理事 佐藤 美穂子
 
「平成13年度 終末期ケア体制のあり方に関する研究」の概要
○研究実施機関 財団法人 日本訪問看護振興財団
○検討委員長 川越 厚(ホームケアクリニック川越院長)
○主任研究者 岩下 清子(国際医療福祉大学大学院教授)
 
1. 研究の目的
 在宅における終末期ケア体制はまだ不十分な現状にあるなかで、訪問看護は、高齢者の在宅生活を支える延長線上にある終末期においても中心的な役割を担う。
 本研究の目的は、訪問看護ステーションで実施されている終末期ケアの実態を把握し、訪問看護の役割、訪問看護ステーションが終末期ケアを担うための要件、地域における包括的な終末期ケアシステムのあり方等を検討するための基礎資料を得ることにある。
 
2. 研究の方法
 次の5種の調査を実施し、その結果を研究委員会で検討・分析した。
○全国の訪問看護ステーションを対象とするアンケート調査(全国調査)
○訪問看護利用者に対するアンケート調査(対象:在宅で死亡または訪問看護利用終了後1か月以内に病院等で死亡した高齢者。調査票記入者は担当訪問看護師)(利用者調査)
○遺族に対するアンケート調査(対象:在宅で死亡した高齢者の遺族)(以下、遺族調査という)
○終末期ケアに積極的な訪問看護ステーションの管理者に対するインタビュー調査(個別インタビュー及びグループ・インタビュー)(以下、管理者調査という)
○終末期ケアに積極的な訪問看護ステーションのスタッフに対するグループ・インタビュー調査(以下、スタッフ調査という)
 
1. 訪問看護ステーションにおける終末期ケアの実施状況
(1)在宅死亡者(全国調査より)
 入院1ヶ月以内に死亡したことが判明している利用者の訪問看護利用終了者に対する比率は、15.9%(65歳以上に限ると15.5%)であった。自宅で死亡した人の比率は18.1%(65歳以上に限ると18.5%)であった。両者を合わせた訪問看護利用終了の3割強が、在宅の看取りないし入院前の終末期ケア対象者といえる。
(2)終末期ケア実施のステーションによる格差(全国調査より)
 高齢の利用者や家族が『終末期もできるだけ在宅で』と希望した場合に対し、59.4%のステーションが「積極的に対応」、37.3%が「できるだけ対応」、あわせると96.7%が「対応」と回答している。
 しかし、実際にどの程度終末期ケアを行っているかは格差があり、「終末期ケアに積極的なステーション」の割合を設置主体別に見ると、「看護協会」(85.7%)、「医師会」(70.9%)、「協同組合」(70.8%)が高く、「地方公共団体」(42.5%)、「医療法人」(58.7%)、「社会福祉法人」(53.8%)が低い。訪問終了者中在宅死亡の比率が高いのは「看護協会」、「医師会」、「会社」である。「医療法人」は他の設置主体と比べ、「在宅死亡率25%以上」の割合が有意に低い。また、グループ内に病院や老人保健施設が「ある」ステーションは「ない」ステーションと比べ、「在宅死亡率25%以上」の割合が有意に低い。
 ステーションの過半数を占めている「医療法人」で在宅死亡率が低いのは、グループ内に医療施設がある場合が多いということと関係しているといえる。
(3)終末期ケアに積極的なステーション、在宅死亡率が高いステーションの特徴(全国調査より)
 終末期ケアに積極的なステーションは人員面での体制が整い、(1)病院がグループ内にない、(2)終末期ケアに積極的である、(3)臨床経験がある訪問看護師の人数、緊急時に対応できる人数など人員面の体制が整っている、(4)医療処置を実施しているなどがあげられた。
(4)業務内容から見た高齢者終末期ケアの実施状況(全国調査より)
 在宅の看取りまでを含めた終末期ケアを行っているステーションは、6割前後ではないかと推測される。
(5)緊急時の対応体制(全国調査、管理者調査、スタッフ調査より)
 3割弱のステーションが24時間連携体制をとっていない(医療保険による訪問看護利用者に占める24時間連絡体制加算算定利用者がゼロのステーションが、27.9%)。また、6.8%のステーションで、緊急時に対応できる訪問看護師がいない。
 
2. 訪問看護を利用している終末期高齢者の医療の状況
(1)訪問看護ステーションにおける医療処置の実施(全国調査より)
 終末期にある高齢者に対して、訪問看護ステーションが行う医療処置は「終末期ケアに積極的なステーション」はそうでないステーションと比べ、全ての医療処置について「必要があれば実施する」ステーションの割合、及び「(過去11ヶ月間に)実際に実施した」ステーションの割合が有意に高い。
(2)訪問看護利用者の死亡前1ヶ月の身体状況(利用者調査より)
 自宅で死亡(以下「在宅死亡」という)または訪問看護終了後1ヶ月以内に病院等で死亡(以下「病院等で死亡」という)した高齢者の状況(死亡前1ヶ月の状況)は、「疼痛があった」利用者の割合は40.8%であり、「在宅死亡」では39.4%、「病院等で死亡」では43.4%であった。
 器具装着等該当者、あるいは疼痛があった利用者の割合は、「在宅死亡」と「病院等で死亡」との間にそれほど大きな差はない。ただし「酸素療法」に関しては病院等に入院し死亡する割合が高い。
 
表1 死亡前1ヶ月の器具装着等の状況
(%は該当する利用者の比率)
  在宅死亡 病院等で死亡
酸素療法 14.6% 22.8%
留置カテーテル 14.6% 14.0%
中心静脈栄養法 6.3% 8.8%
成分栄養経管栄養法 7.3% 8.8%
自己疼痛管理 4.2% 3.5%
人工肛門、人工膀胱 3.1% 1.8%
 
(3)死亡前1ヶ月間に行われた医療処置(利用者調査より)
 死亡前1ヶ月間に、訪問看護師が医療処置を実施した利用者の割合は、表2のとおりである。「在宅死亡」は「病院等で死亡」と比べ、「点滴の管理」を実施した利用者の割合が有意に高い。
 
表2 死亡前1ヶ月間に行われた医療処置
(%は該当する利用者の比率)
  在宅死亡 病院等で死亡
褥創の処置 49.0% 45.6%
浣腸・摘便 42.7% 36.8%
点滴の管理 35.4% 8.8%
疼痛の看護 −27.1% 28.1%
吸引・吸入等 27.1% 17.5%
酸素療法 16.9% 19.3%
カテーテル 13.5% 12.3%
モニター測定 9.4% .8.8%
経管栄養 7.3% 8.8%
中心静脈栄養 7.3% 7.0%
ストーマの処置 2.1% 3.5%
レスピレーター 0.0% 1.8%
 
(4)死亡前1ヶ月間に使用した保険適用外の医療機器・衛生材料(利用者調査より)
 医師が患家に支給する場合(診療報酬上、その費用は医師に支払われる指導料等に包括されている)は保険給付の対象になるが、看護師が処置を行う場合は主治医が支給しない限り保険給付の対象にならない。
 「在宅死亡」は「病院等で死亡」と比べ、保険適用外で吸引器を使用した利用者の割合が有意に高い。
 
表3 死亡前1ヶ月間に使用された保険適用外の医療機器・衛生材料等
(%は使用した利用者の割合)
  在宅死亡 病院等で死亡
絆創膏 42.7% 38.6%
皮膚保護材 41.7% 29.8%
ガーゼ 40.6% 40.4%
綿棒 32.3% 26.3%
吸引器 29.2% 14.0%
吸引チューブ 15.6% 12.3%
吸入器 2.1% 1.8%
 
(5)在宅死亡者の死亡前1ヶ月間の入院治療(利用者調査より)
 在宅死亡者の中で、死亡前1ヶ月間に入院治療を受けた利用者の割合は14.1%であった。
 
3. 訪問看護を利用している終末期高齢者と介護の状況
(1)本人の性、年齢(利用者調査より)
 利用者調査の対象は介護保険の受給資格者(65歳以上、または40歳以上65歳未満で老化に伴う疾病で要介護状態となった人)で、かつ在宅で死亡、または訪問看護終了後1ヶ月以内に病院等で死亡した訪問看護利用者である。このような条件を持つ訪問看護利用者は、「男性」47.7%、「女性」52.3%であった。
 死亡時の年齢は、「70歳未満」6.6%、「70歳代」28.3%、「80歳代」36.2%、「90歳以上」28.9%であった。85歳以上が52%と、過半数を占めている。
(2)家族・介護者の状況(利用者調査より)
 本人以外の同居家族は、「なし」(独居)4.6%、本人と配偶者のみの高齢者世帯が22.2%を占め、約半数(49.7%)は、配偶者なしで子供と同居であった。
 主介護者は、「配偶者」35.9%、「子供の配偶者」28.8%、「娘」26.8%、その年齢は、「50歳未満」10.9%、「50歳代」26.1%、「60歳代」31.9%、「70歳代」21.0%等であった。
 同居家族の中に、主介護者以外の介護者が「いた」ケースは42.5%、残る過半数は同居家族の中に介護の代替者がいなかった。このように、家族介護力が乏しいケースが多い。
(3)介護サービス導入の状況(利用者調査より)
 利用者調査の対象は介護保険給付を受ける資格を持った人に限られているが、医療保険で訪問看護を利用し介護保険給付を一切受けていない利用者もおり、その割合は10.7%であった(死亡前1ヶ月の状況)。残る89.3%の利用者のほとんどは、死亡前1ヶ月に訪問看護以外の居宅介護サービスを利用していた。
 利用者全体に対する、各サービスを利用していた利用者の比率は以下のとおりである。
(1)訪問介護 37.3%、(2)訪問入浴 30.7%、(3)短期入所 13.7% (4)福祉用具貸与 61.4%
(4)訪問看護利用開始から死亡終了までの期間(利用者調査より)
 訪問看護開始から死亡終了までの期間は、「1年未満」62.4%、「1〜2年未満」14.1%、「2〜3年未満」9.4%、「3〜4年未満」8.1%、「4年以上」6.0%であった。「在宅死亡」と「病院等で死亡」との間にほとんど差がない。
(5)本人・家族の希望と実際の死亡場所(利用者調査より)
 本人が自宅を希望していたケースの73.3%が、家族も在宅の看取りを希望し、本人が医療機関を希望していたケースのほとんどが、家族も医療機関を希望していた。
 実際の死亡場所は、「自宅」62.7%、「病院」35.9%、「その他」1.3%であった。







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