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参考資料−4
 
医学及び歯学の教育のための献体に関する法律について【解説】
献体推進議員連盟副会長 衆議院議員 竹内黎一
 
問1 本法制定の意義は、どのようなところにあるのでしょうか。献体運動が進められていくうえで、この法律にはどのような役割りが期待されているのでしょうか。
また、強制力を伴わない精神立法では法の実効性が期待できないのではないか、との声も聞きますが如何でしょうか。
 
答:  今回の立法の意義は、まず献体について法制上の規定を整え、これを明確にすることによって、献体という行為をいわば社会的・法制的に認知しようとするところにあるといえましょう。
 現実の問題として、医・歯学教育における人体解剖学の実習用解剖体の収集が困難な状況にあることは否めませんが、今回の立法はその解決のための即効薬としての役割りを担うものではなく、献体という行為、そしてそのよってたつところの精神を汎く国民の間に普及し、その理解を求めようとするものです。
 献体運動と本法の役割りの点については、献体者の方の立場からしますと、法律の条文の有る無しがその献体の意思の決定を左右することは少ないものと思われますが、ご家族の同意や周囲の方の理解を得るうえでは、やはり実定法としての条文の存在が重要な支えとなることと思われます。また、汎く国民に献体について理解を深めて項こうと、運動を進める立場からしましても、法律の存在は、価値の多様化の指摘される現在にあって、個々人の人生観、宗教感情などを離れた公約数的・共通的な指標となる意味合いで、運動を理解して項く手がかりになるのではないでしょうか。
 強制力と法の実効性の点につきましては、本法のどのような点について強制力による実効性を求められているか判然としませんが端的にいって、献体は、欧米で最後のボランティアと呼ばれるように奉仕の精神の発露としての行為であり、むしろ強制とは全くかかわりのないにろにこそ、献体の精神があるわけですから、献体自体について強制力を伴わないのが本来の姿であると考えられます。
 
問2 従来の「死体解剖保存法」との関係について、お教えください。
 
答:  本法と死体解剖保存法との関係については、ひと言でいえば、一般法と特別法の関係にあるものといえます。
 一般的にいって、特定の人、事柄、行為又は地域を限って適用される法を特別法といい、それらの制限がなく一般に適用される法を一般法と呼びます。死体の解剖・保存については、死体解剖保存法がこれを一般的(包括的・統一的)に定めていますので一般法の地位にたちます。これに対し、本法は献体に係る解剖について規定するものですから特別法の地位にたつことになります。
 一般法と特別法の適用関係については、まず特別法が適用され、特別法に規定されている事柄以外のことについては、一般法の原則が適用されることになります。例えば本法では、遺体に対する礼意の保持については規定を置いておりません。これは、一般法たる死体解剖保存法に既にこの旨の規定が置かれていることによりますが、この場合には一般法の原則に立返って、死体解剖保存法第二十条(死体の解剖を行い、又はその全部若しくは一部を保存する者は、死体の取扱に当っては、特に礼意を失わないように注意しなければならない。)が適用されることになります。
 
問3 本法第四条についてですが、この規定が置かれたことにより、献体登録の際の「家族の同意」が不要になったのだ、との声を聞きますが本当でしょうか。
 
答:  まず条文の内容を正確に読み取って頂くことが大切だと思いますが、本法では遺族の承諾については、ごく基本的には次のような考え方をとっています。死体解剖保存法は解剖が適法に行われる要件の一つとして遺族の承諾を受けることを求めていますが、本法では本人が書面により献体の意思を表示していて、次の二つの場合のいずれかにあたるときにはこの承諾を受けることを要しないものとの特例を定めています。一つは、遺族が承諾を拒まないときで、いま一つは遺族のいないときです。
 ご質問にあるような考え方は、この二つの場合のうちの前者に関連して生じたものと思われます。条文的には、遺族の承諾と拒絶の間に「拒まない」領域を認め、この領域については承諾と同じに取り扱うこととしていますので、その限りにおいて本人の意思の実現の可能性を拡げておりますが、このことから献体が本人の意思のみで行えることとなったというものではありません。遺族の方が明白に拒絶された場合には解剖を行うことはできず、結果として献体の意思の実現の途が閉ざされることになります。そうならないためには、やはり家族の方の理解が不可欠なものであることが理解頂けましょう。
 お尋ねにある「献体登録の際の家族の同意」は、本法にいう「遺族の承諾」とは時間的に異るものであり、また、法律的にも「遺族の承諾」にかわるものではありませんが、ご家族の理解を得るということを考えて頂くのならば、登録にあたりましても同意を得ておくことが必要なのではないでしようか。
 本人の献体の意思の尊重と家族の方の感情の調和をどこに求めるかということが献体法の最大の眼目となるわけで、本法は現時点では最大限本人の意思を尊重したものとなっているものと考えますが、献体の意思が実現されるためには、ご家族の理解があることが前提となるわけでありますから、従来にもましてご家族の理解を得ることが求められましょう。
 
問4 第五条にいう「引取者」には、献体者とどのような関係にある人がなれるのでしょうか。
 
答:  ご注意頂きたいのは、本法によって初めて「引取者」なるものが設けられたものではないことです。従来からも、身寄りのない方が亡くなられた場合には、隣人、知己あるいは施設などに入所されていたような方の場合にはその施設長などの方々が、遺族になりかわって遺体を引取り、葬儀を行い、火埋葬することが認められておりました。ただ、このような引取りは、葬祭目的のために認められるものとの考え方から、例え本人が献体の意思を明らかにされていた場合でも引取者が大学へ遺体を渡すことはできないものとされてきました。本法は、献体の意思の尊重されるべきことを定めるものでありますので、このような場合でも献体の意思の実現される途を開くこととしたものです。
 手続き的には、市町村長から火埋葬の許可を受けることにより引取者となるわけですが、許可にあたっては、本人との生前の交際の密度、扶助などの事情が考慮されることになりましょう。
 
問5 第七条、第八条には、それぞれ文部大臣の指導・助言、国のとるべき措置についての規定が置かれていますが、献体運動とは具体的にはどのようなかかわりをもつことになるのでしょうか。
 
答:  第七条の文部大臣の指導・助言については、専門的・全国的見地からの支援が期待されます。また、従来国と献体者団体とのかかわりについて明白でないところがありましたが、今後は文部大臣を通して行われることが明らかになりました。なお、指導・助言にあたりましては、ボランティア活動の主体性を尊重する意味から、団体からの求めに応じてなされることになります。
 第八条の国のとるべき措置については、国として献体について国民の理解を得るに必要な措置がとられることになりますが、具体的には政府広報を通じての広報、広報資料の作成・頒布等の充実が図られることになりましょう。
 
問6 (法律ができたのだから)「登録した大学の病院には優先的に入院させてもらえる」とか、「無料で入院・治療してもらえる」などという声を聞きますが、本来、献体は無条件・無報酬で行われるものであったのではないでしょうか。法律の条文にも、無条件・無報酬の言葉が見えませんが、これと関係があるのでしょうか。
 
答:  問1についての答の中でも触れましたように、献体は奉仕の精神の発露としての行為でありますから、無条件・無報酬に行われるところに献体の献体たる所以があります。現在日常的に多数の方の参加されている献血にいても無条件・無報酬に行われる奉仕活動であり、これに金銭の授受のからんだ時には売血と呼ばれます。献体についても同じように考えて頂きたいと思います。もし、献体にあたって何らかの物質的見返りを期待される方があるとしたならば、いま一度献体の精神の本旨を想い起して頂きたいと思います。法律の条文の中に無条件・無報酬の表現がないからといって献体の精神が変わるわけではありません。むしろ、ことさらにそのような表現をとることの方が不自然なようにも思われます。
 もち論、葬儀等に際しまして、供花等を受けることは儀礼上当然のことと考えます。







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