◎エベンキ族の樺樹皮器物の装飾芸術◎
エベンキ族のうち、内蒙古のホロンバイル盟額爾古納(アルグナ)左翼魯古推(ルーグヤー)エベンキ民族郷の狩猟エベンキ人に、樺樹皮の器物(具)がやや集中しており、しかも独特の特色がある。樺樹皮の器物(具)には、樺樹皮船、ショルダーバッグ、裁縫バッグ、揺りかご、盒、碗、盆、トナカイの荷箱、刃物の鞘、マッチ箱などがある。
【樺樹皮船】
樺樹皮で船をつくることは、狩猟エベンキ人と北方のその他の狩猟民族の狩猟生産における重要な発明・創造である。樺樹皮船がいつつくられ始めたか、目下のところ、さらに多くの資料からもたしかな時代を示したものはまだないが、樺樹皮船はエベンキ族とオロチョン族にあっては、主な水上狩猟の交通手段である。
樺樹皮船は形は長方形をなし、平底で両端がとがっており、両端の底部はいずれも上向きに弧形をなし、船形を俯瞰すると機織の杼(よ)に似る。船体は一般に長さ五〜六メートルの間で、船体中央部のもっとも幅のあるところは〇・八〜一メートル前後で、高さは〇・六メートル。多くは柳の棒で杼形の船体の骨組をつくる。その基本の骨組は、樺樹皮船の上部の枠組となり、これは二本の柳の棒で杼形の平面枠をつくる。杼形の枠組内は柳の木で支えをつくり、杼形の枠組を支えて固定する。さらに柳の棒で半円に近い形に囲み、その半円形の枠が支える二つの上端をそれぞれ杼形の平面枠の底部にはめ込み、順次九つの半円形の枠を杼形の平面枠の全体にはめ込めば、樺樹皮船の船体の骨格ができ上がる。つづいて、裁断して縫い合わせた樺樹皮船の船衣で骨格を包んでとりつけたら、船体に舷側の外側に沿って、平面枠の形にしたがって厚めの柳の板をとりつけ、すき間に木釘を数百本打ち込んで、とりつけた板と船体の骨組と、そして外側を包む樺樹皮とがしっかりと合わさった船体にする。最後に、とりつけた板の船体の中央から杼形の両端に向かって合わさる部分に、皮ひもあるいは柳の枝を巻きつけて一つに結べばよい。
エベンキ族が居住するテント、漢語で「撮羅子」、エベンキ語で「希楞柱(シーロンツュー)」も樺樹皮でおおう |
エベンキ族のテントの外に積まれたトナカイの鞍。鞍の上には樺樹皮の盒が置かれている |
樺樹皮船に乗って狩猟を行うエベンキ族の狩人
樺樹皮の盒にいっぱいの採集したコケモモ
樺樹皮船の特徴は軽便で長もちし、浮力が大きく、また船体構造が杼に似た流線形なので、水上を進むのに抵抗力が小さくしかも速度が速い。船を漕ぐときは左右二本の櫂を使い、左右で漕いでいく。樺樹皮船は一般に一人ないし二人の狩人と一〇〇キログラム前後の獲物を載せる。不用のときには、樺樹皮船を岸辺の水深の浅い水中に沈め、船体が日光に晒されて乾いて裂けるのを防ぐ。樺樹皮船は軽いので、狩人一人がいくらも労せずして背負っていくことができ、移動しながらの狩猟生産の必要に適する。樺樹皮船は人類の造船史上もっとも軽い船ということができる。
【樺樹皮器物の装飾文様】
狩猟エベンキ人の樺樹皮器物の装飾文様はとても精巧で美しく、ユニークである。かれらの樺樹皮器物には、装飾部位は基本的に三つの様式がある。一つは樺樹皮器物の蓋の上に各種の文様を飾るもの。二つは樺樹皮器物の器体外壁に、二方連続の文様を飾るもの。三つは樺樹皮器物の器体の向かい合う両端に、さまざまな形式の鋸歯形文をかみ合わせ、縦向きの変化の幾何形咬合文の装飾帯をなすものである。製作方法には、彫刻して描くもの、点を刺すもの、凹凸に刻むものなどの技法があり、色を塗るものや無地のものがある。
狩猟エベンキ人の樺樹皮器物は、装飾文様の題材の選択や運用において、明らかに狩猟民族固有の特徴をもっている。そのうち動物文様、植物文様、幾何形文様が比較的に多い。動物文様は、トナカイ文、獣角文や胡蝶文などが中心である。植物文様は、花草文、木葉文、樹形文、花朶(カダ)文、若芽文などが中心である。幾何形文様は、三角形、山形幾何文、菱形文、円圏文、半円文やさまざまな変化の鋸歯形文が多い。
トナカイ文は狩猟エベンキ人の装飾文様のなかでは、典型的な意味をもつ。トナカイの文様の多くは写実的描写であり、素朴かつ簡潔で練れていて明快である。鹿角文の装飾は狩猟エベンキ人がよく好む文様の一つで、かれらの装飾芸術に広く運用されている。鹿角文を組み合わせた文様は数十種余りもあり、風格はいずれもやや写実的であり、そのなかには雲巻文へと向かう過渡的な鹿角文もある。民俗学の角度から理解するなら、そもそも狩猟エベンキ人の古い観念意識や民俗文化のなかでは、鹿角には二通りの観念的な意味が与えられている。一つは鹿角の生長と脱落を大自然の季節の交替と一つに結びつけ、これによってかれらの異なる狩猟期を区別した。この点は中国古代の「物候暦法〈気候風物にもとづく暦のつくり方〉」にやや似ている。二つに鹿角に神格の色彩を与えるのは、鹿角の技はまさに鹿の「霊魂」のあるところとするからである。この二つの観念意識の働きによって、かれらが鹿に好感をもち、装飾芸術に広く運用するようになったのも自然なことであった。
植物文様の運用では、かれらにはやや特殊な表現方法がある。ときに一株の高くて大きな植物を根から茎、葉、花と全体に横向きに樺樹皮器物の外壁に表現し、あたかも一株の植物が、連なる根によって樺樹皮器物の外壁に張りめぐるようなのがあり、たいへん興味深い。われわれが製作者に、「あなたはどうしてこのように飾るのですか?」とたずねると、かれは巧みにこう答えた。「これも命があるのですよ。こうしないとこの花や草は死んでしまうではないですか?」と。そもそもかれらは植物と同じ生命を与えていたのである。
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