日本財団 図書館


◎樺樹皮器物の製造◎
 樺樹皮の器物(具)は、主に白樺の木の表皮を材料につくるものである。白樺は寒帯や寒温帯に生長する多年性の高くて大きい広葉喬木である。中国北方の大興安嶺と小興安嶺の広葉樹林にあって、白樺はことに密に繁茂する。白樺の樹皮に含まれる一定の油性分は、横向きの繊維組織で構成されており、樹皮は薄くて軽く、しなやかで強い。樹皮の表層は滑らかで美しく、淡い黄土色を呈し、片状に剥離することができ、また裁断、縫合して器物とすることもできる。毎年五月中旬から六月中旬までは、大興安嶺の白樺は種子に栄養分が送られて胚乳が乳状になる時期となり、白樺の樹皮の内層と樹幹内の表質層の間は、この時期に水分が多くなるため、微小な分離層の隙間が現れる。このときが白樺の樹皮を剥がすのにもっともよい季節である。
 狩猟民族が樺の樹皮を剥ぐ方法は二通りある。一つは適当な樺の木を選ぶと、必要な大きさによって、刃物で幹の上下にそれぞれ横向きに深く一周り傷をつけた後、その上下の線内に、縦向きに真っ直ぐに切り、さらに刃物でこの切り口から一辺をめくり上げ、手指でしっかりつまんで、ゆっくりと勢いにしたがって外側へ均等に樹皮を引っぱると、樹皮は自然に剥がれてくる。さらに刃物で樹皮の表面の節を平たく削れば、随意に裁断して器物をつくることができる。もう一つの方法は、必要な樺樹皮を選ぶと、鋸で木を輪に切る(切った部分の厚さは一般に三〇センチメートルを超えない)。そうして輪に切った木の木質の部分を両端からだんだんにえぐりだし、さらに木槌でのこりの部分を打ち出す。こうして筒状の樺樹皮をとり、これを器物の内胎となし、さらに樺樹皮で外胎を縫製して器壁とする。ただしこの種の方法はけっして多くはみられない。
 樺樹皮の器物の多くは二枚の樺樹皮を用いて作ったものである。樺樹皮の外表層は内側に向け、裏表層は外側に向ける。こうして樺樹皮は、光沢があり平らで滑らかな裏表層が器物の内と外の壁となる。樺樹皮の器物をつくるには主に三通りの縫合方法をとる。一つは樺樹皮を長方形に切り、外表層を裏にして筒状に巻き、さらにこの筒状の内側に、大きさが外側の筒状体とたがいにぴったり合う筒状体の樺樹皮(裏表層が内側に向く)を内胎とする。外層の筒状の樺樹皮のたがいにそろえたところは、シカやノロジカの筋でつくるか、あるいは馬の尾を撚って作った糸で縫合する。二つは樺樹皮を筒状に巻いた後、合わさる両端を鋸歯形に切り、たがいをかみ合わせてつくる。この二つの方法は多くは筒型の器壁の製作に用いる。三つは樺樹皮の小型の器物をつくるときに用いられる。その方法はやや特殊で、樺樹皮のマッチ箱のようなものをつくるには、まず樺の木を削って内胎(あるいは木の型とも)を作り、そうして内胎の外側に樺樹皮を巻き、合わさる両端はかみ合わせ文でそろえ、合わせそろえた後に木型を引き出すと、楕円形の樺樹皮のマッチ箱の器壁となる。
 樺樹皮の器底の処理には二通りの方法がある。一つは一枚の樺樹皮を器筒の底の大きさとつり合う形に切り、さらに樺樹皮の外表層を外側に向けて器壁の底と一つに縫い合わせる。このとき器底の樺樹皮は内側に凸形を呈する。その後にこの器底の外層壁の上に、帯状の樺樹皮を縁どりして縫い合わせる。二つは樺の木片や柳の木片で、形に適合する器の底板を作り、筒状の器壁底部に入れ込め、さらに器壁底部に獣の油を塗り、火にあぶって温めるか熱湯のなかで温め、器壁底部をやわらかくして、内側に一巻き曲げてから、筒状の器壁を地面に置き、石で上から押さえること数日。器底壁の内に巻いて曲げた部分の形ができた後、すでにはめ込んである底板を、筒状の器壁の上の口から均等に下へ向けてたたき、器底壁の内に巻いて曲げた部分にぴったりと合わさったら、さらに糸で縫合する。
 樺樹皮の器物を縫製する糸は、主にノロジカ、シカ、ヘラジカなどの動物の筋でつくる。狩で取った野生動物の脚から筋をぬき取って、日に当てて乾かし、さらに木の台の上で木槌でたたきつづけ、付着している細かく乾いた肉を落とす。そうして乱れた麻のようになった獣の筋を、少しずつ撚って獣の筋糸をつくる。また馬の尾を撚って糸を作り縫製することもある。これらの糸はいずれも長持ちして腐りにくい。
 
オロチョン族の婦人が骨製道具で樺樹皮器物製作の下準備をしている
 
鋸歯形を噛み合せて作った盒
 
骨製工具
 
樺樹皮盒
 
樺樹皮で作られた揺籠
 
 樺樹皮の器物の主要な部分を作り終えると、器体上部の口縁の外側に柳の細長い板を当てて、器壁の上端に縫い合わせれば、丈夫なうえに見た目にも美しい。器の上の口の外縁には柳の細長い板を当てずに、直接器体の内外二枚の器壁を一つに縫い合わせるものもある。樺樹皮の盒、籠、箱などの器物の大半は、樺樹皮の蓋を伴い、その作り方は基本的には器壁と同じであり、ただ蓋の内側には輪状の柳の木枠が縫い合わさる。
 樺樹皮の碗や盒などの器物は製作上は上述の器物といくぶん異なる。主には樺樹皮の四隅を折りたたみ、さらに四隅のたたんで垂れ下がったところを一つに縫い合わせ、そして柳の木で形に適合する枠をつくって器物の口の外縁に縫い、最後に口の上に余った樺樹皮を、枠の上部に沿って平らに切れば、凹形の容器ができあがる。
 樺樹皮でつくる器物は原材料の特性の制約を受けるため、器体の造形は竹編や陶磁器などの材料のような豊かな変化には及ばない。樺樹皮器物の多くは直線の壁の筒状体や直線の壁の方形体で、中間に斜線の壁の形体もある。
 一般的にいえば、北方の各狩猟民族の生産、生活および民俗文化のある種の差異によって、一定の差異がみられ、かれらがつくる樺樹皮の器物の造形には、共通の基盤の上になおそれぞれに特色がある。長い間狩猟に従事してきたエベンキ族やオロチョン族のように、その樺掛皮器物の形は小さなものに偏り、種類は多い。しかし生活が比較的に安定していて、農業と牧畜業に従事するダフール人や一部のエベンキ人の樺樹皮器物は、いずれも比較的大きいが、種類は多くない。これはかれらのそれぞれに異なる生産様式と直接の関係がある。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION