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復元船−メンテナンスの基本討議のための資料
平成4年9月/賓田
まえがき
 木造船の寿命は、建造時の材料の選定、就航時の使われ方、就航中のメンテナンス、その後のメンテナンスの仕方によって大きく左右される。木造船のメンテナンス実績資料の極めて乏しい日本においては、これらの資料が得にくいので、欧米における保存船、復元船のメンテナンス状況調査を復元専門委員会にお願いした。
 このほど、(株)丹青社が米国の状況を精力的に調査し、貴重な報告をまとめたので、これに基づき、ごく基本的なメンテナンス要領を考えてみることにした。米国は木造船が盛んだし、研究も進んでいるので今回米国に絞って調査したのは賢明であったと思う。また、日本では本格的に考えるのは本船が初めてであろうから実施してみないと分からないこともたくさんあると思う。まず基本的なことを考え、実情に合わせて改良していく、といった柔軟な態度で臨むことが大切であると考える。
 
1.メンテナンス体制
 メンテナンス人員、その他は別項目としてここでは巡回、点検、ドライドックをまとめて表1に示す。
 
表1 点検、ドライドックの頻度
場所、船名 South S.S.
Port Museum
Rose Mystic S.
P.Museum
Mayflower.
II
Constitution
日常点検 0 0 0 0 朝夕 0
定期点検 1回/3年 1回/年      1回/月
1回/2年
1回/5年
1回/10年
1回/年
ドライドック 1回/2〜4年 1回/年 1回/3年 1回/2年 1回/15年
 
 当然のことであるが、各船日常の巡回点検は行っている。恐らく開館前と閉館後の異常点検を兼ねてであろう。
 定期点検は、係留船と運航船とで異なるが、Mayflower. IIは10年に1回は詳細点検を行っている。Constitutionは年1回の定期点検では専門家8人が2日がかりで点検している。
 ドライドックの頻度は、South S.S.Port Museumのものは運航船はUSCGの規則に従うているとのことであるので、中間検査、定期検査の期間を勘案して2〜4年に1回と書いておいた。なお、Constitutionは15年に1回のドライドックであるが、この時は375万$の費用をかけているので、徹底した補修を行っているものと思われる。以上を参考にするとともに、復元船は船舶証書の取得船であることも考慮して、次のようにする。
(1)日常は開館前、閉館後の異常点検を兼ねて各部の点検を行う。巡回日誌を備える。(点検要領、日誌の形式は別に検討する)
(2)定期点検は年に1回実施する。2年に1回は法定の中間検査を兼ねて、入念な定期点検を行う。
(3)少なくとも4年に1回はドライドックを行う。これは法定定期検査を兼ねて実施するものであるが、船底保護、特に船食い虫対策確認のため、最初の20年ぐらいは2年に1回のドライドックによる点検が望ましい。
 
2. 塗装
 木船の塗装には苦労しているが、表2のようにまとめる。
 
表2 塗装および塗装回数
場所、船名 South S.S.
Port
Museum
Rose Mystic S.
P.Museum
Mayflower.
II
Constitution
船体 水線下 油性3回塗り 油性1回/年 1回/3年 油性
1回/2年
銅板張り
水線上
甲板室内側
甲板下内側
    1回/年
1回/年
1回/6〜8年
   
甲板     油拭き   油拭き
その他 マスト
ヤード
  油性
1回/年
     
静索   タール
1回/年
グリース
1回/2年
   
 
以上を通覧すると
 (1) 水線下外板はドライドックに合わせて油性ペイント、Constitutionの外板は建造当時の標準の銅板張りがそのまま継続されているから15年に1回のドライドックと解釈すればよい。
 (2) その他の船体部は油性ペイント1回/年の頻度で塗っている。
 (3) 甲板は塗装せず。油拭き。
 (4) マスト、ヤードは、油性1回/年
 (5) 静索はタール、またはグリース、松やにを1回/1〜2年となる。
 
復元船に対しては
 (1) 水線下外板 ドッキングに合わせて1回/2年
 (2) その他の船体部は1回/年とする。(1回/2年として隔年は補修するだけとしてもよいと思うが、斑になるので美観が損なわれるので毎年塗っているものと解釈される)ただし、甲板は油拭き、艙内は4年に1回とし、その間はタッチアップとする。
 (3) マストは1回/年、ヤードは1回/2年とする。
 (4) 静索は1回/年とする。
 
3. 船体保存のための対策
 木造船の船体保全のために、水密性の確保と湿気、腐食対策が大切であると考え、この点の調査をしてもらった。予想したとおり、これらの点には種々苦心していることが分かったと同時に、貴重な意見が得られた。表3にまとめておく。
 
表3 木造船体保全のための対策
場所、船名 水密保持、雨漏り対策 湿気、腐食対策
South
Street
Sea Port
Museum
○甲板水密検査を毎年実施する。ホーコンを詰め物としたコーキンが主流である。 ○換気が最も大切である。
○木材は塩漬けにするこことが大切である。
○防腐対策としてはクレオソートが有効である。
Rose ○水線下はドライドック時に、甲板は常時点検し、必要に応じて直ちに補修する。
○黴や腐敗対策として、光ファイバーで船底に自然光を導く装置(日本製ひまわり)。
○オープンハッチとファンによる換気を実施。船底ビルジ部では1か月で黴や腐敗菌が大量に発生する。
○木部にはケロシンスプレーがよく効く。
○継ぎ手にはコールタールが効く。鋸の切り屑が残っていると鼠が繁殖する。
Mystic
Sea Port
Museum
○外板シームに新材料を使用、甲板シームニはホーコンとピッチを使用している。 ○ホールド内には大きなファンを使用、天気のよい日は必ずハッチを開ける。
○防腐剤としては化学薬品(US Bor-ax等)もあるが毒性のあるものは使用不可
Mayflower.
II
○雨水は木材によくない。海水はよい。
○甲板板の突き合わせを種々工夫し、コーキン材に新しい材料(ポリサルファイドラバー)等を使用している。
○船内2か所にファンを設けてサーキュレーションを測る。
○黴、腐敗菌対策としては、オゾン発生装置を設けている。
Constitution ○水線下外板は銅板張りだから水密は心配ないが、ホーコンの上にセメントを塗り、その上にペイントを塗る。
○甲板はホーコンの他にマリンブルーやゴムベースの新材料を使用している。
○ビルジは240ガロン/月排出している。
○2台の大型ブロァでサーキュレーションを測っている。
○甲板は年に1回人工防腐剤75%、油25%の新材料で拭き、綺麗さを保っている。
 
この結果を通覧すると、次のことが言える。
 (1) 甲板の水密性に対しては、コーキン材に新材料を使用しているものもあるが、概ね在来工法を採用している。これは比較的点検と補修が容易であるためと考えられる。
 (2) 水線下はドライドック時に点検、補修する以外ないようである。
 (3) Constitutionの例ではビルジを240ガロン/月(米ガロンとして908l約1トン)排出している。外板からの漏れではなく、艙内の汗もかなりのものと考えられる。やはり、ビルジポンプを設けたほうがよい。
 (4) 換気ファンは2台として、サーキュレーションを測ったほうがよい。
 (5) 黴と腐敗対策に苦心しているが、クレオソート、ケロシンスプレーが有効であること、継ぎ手にはコールタールが有効であることが指摘されている。これについては、復元船建造中、棟梁の手配でクレオソートを使用しているし、継ぎ手の重要部分には夕ールを注入されているので、適切な処理がなされていると言ってよかろう。
 (6) 木材は塩漬けにしろ、海水はよいが雨水はよくないと言った意見は練習帆船の木甲板でも行われている。甲板洗いの仕上げは必ず海水である。塩気を含んでいるとひび割れが起こらない。乾燥とひび割れの矛盾した要因を如何に処理するかであるが、 艙内は直射日光に当たらないからひび割れを起こすほど乾燥はしない。従って、専ら換気をよくして黴対策をする。上甲板とマスト、ヤード、その他の大型艤装品のひび割れ対策をどうするかが焦点になる。
 上甲板は塗装せず、年に一度油拭き、その他雨が降ったら必ず海水で洗えばよいが、マスト、ヤードに穴を空けて岩塩を埋め込むまでの方法については、もう少し考えたい。
 (7) オゾン発生装置、光ファイバーによる自然光の船底導入などの黴腐敗対策の効果、費用等は具体的に調査をしてみる必要がある。
 (8) 鼠の生息を防止することは、腐敗対策として重要であり、毒性のある防腐剤は使用してならない等の細かい意見は、大勢の観客を対象とする本船にとっては貴重である。(これらのことは、日常メンテナンスの中に組み込まれるべきもので、建造中から実施できるものは実施する。固定装置の採用についても検討する)







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