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復元船「サン・ファン・バウティスタ」と風荷重算定の風速
 
寳田 14.10.28 作成
 
抜 粋
 
はじめに
 復元船の設計時に風荷重が問題になったのは、(1)ドック内に係留された時に風による係留力の検討(ドック内だから波力は無視)(2)比較的高いマスト、ヤードの強度の検討(3)展帆した時のマスト、ヤードの強度の検討(3)展帆した時のマスト、ヤードの強度の検討、復原性の検討等であった。これらに関しては各々検討計算書が用意され、すべて合格したものであるが、ここでは風速設定の条件だけを述べておく。
 
1. 基本条件
 復元船の基本条件としては、
(1)係留条件としては縮帆状態としてドック内とする。
(2)展帆状態は風速10m/s以下で外港で帆走できるように各部の強度、復原性を満足する。
 
2. 風速の設定
 風荷重に用いる風速は、船舶では「船舶検査心得一部改正(暫定案)−係留府船関連−」、建築関係では「建築基準法政令第87条」。この解説としては「構造計算指針・同解説1988年版日本建築センター」、「木構造計算基準・同解説1988年版日本建築学会」がある。
 これらについて、荷重算定のための風速を設定して係留力を算定してみる。(以下略)
 
3. 再現期間における最大値の推定
 設計風速には、耐用年数と再現期間における最大値の推定が問題になる。これらの推定には、統計的な理論推定、現地の観測統計によるもの等があるので、ここでは船舶検査心得、石巻の観測値、建築基準によるものを比較してみる。(以下略および項目のみ抜粋)
(1)「船舶検査心得一部改正(暫定案)−係留府船関連−」103(d)の解釈
(2)石巻地区の実測値と長期予測値
(3)耐用年数と再現期間
(4)設計風速の設定
 
4. 設計風速の総括
 本章で設計風速の総括として、具体的な計算例で建築関係の設計風速を求めて、これについて考察することにする。(以下略および項目のみ抜粋)
(1)復元船を対象に建築関係の設計風速を求めた場合
(2)高度補正係数
 
5. 復元船に対する適用
 これまで述べた風速を復元船にどのように適用したかを述べよう。(以下略および項目のみ抜粋)
(1)係留
(2)マスト、ヤード等の設計風速
 
 以上により、係留、マストの強度、復原性上の安全性には十分な考慮が払われているので、風速9〜10m/s以下の条件でドック内で展帆することは問題ないと考えられる。
 
「サン・ファン・バウティスタ」の展帆について
 
平成6年2月/航海訓練所の作成による
抜 粋
 
はじめに
 復元船「サン・ファン・バウティスタ」は、『史実に忠実に復元』することを基本方針とし、帆走装置も380年前当時のまま復元した。そのため、帆走装置を操作するには、近代帆船に比して高所作業に伴う安全性、作業の利便性等が考慮されておらず、熟練した作業員が多数必要である。
 現状は以上のとおりであるが、一般県民から展帆の要望がとても強いために、竣工後、石巻漁港西港と仙台港において帆船操船補助者による2回の試験展帆を実施した。
 今後は、可能な限り専門家に頼らず、少ない作業員、少ない経費で展帆する方向を目指すものとする。そのために、試験展帆の結果を踏まえ、安全かつ容易に展帆するための装置の追加、改良すべき点などを試験展帆に従事した帆船操船補助者からのレポートをもとに、取りまとめたのでここに報告し、参考の用に供したい。
 
1. レポートの概要
展帆するにあたっては、次のとおりの条件をもとに、レポートが作成されている。
(1)年数回の展帆を造船会社職員により実施する。
(2)380年前の帆船の展帆状態を再現するため、帆装艤装について安全かつ容易に展帆するための改良、追加すべき点についての意見
 
(1)試験展帆実施者からのアドバイス(以下「実施レポート」という)の概要
 オリジナルの展帆手法によると、帆・艤装品を含め、約2トンの重量のあるヤードを曳き上げて展帆するようになっているが、運営の趣旨を重んじ、人力によって操作可能とすべく、その方策がまとめられている。その主な点はヤードを固定させて操帆作業をすべきと改良した点である。
 ヤードの可動には現艤装面から多数の人員が必要となり、かつ船内スペースの点からは、機械力の導入というような大幅な改造工事が必要となる。そのため、現状の艤装を踏まえ、ヤードを固定させる方法を採用することにより、高所作業の安全性、操作性を高める改造を施すべきとの観点からレポートは取りまとめられている。
(条件)
   (1) オリジナルの思想を尊重しつつ、安全かつ比較的容易に展帆可能とするための方策を検討する。
   (2) 展帆に際しては、天候の急変等の緊急事態に速やかに対処できるよう、その方策を検討する。
   (3) 展帆作業に従事する者は、帆船艤装および帆船操法に関する基本的な知識と基本的な訓練を受けた海事関係者、または一般県民を対象とし、必ずしも専門家でなくてもよいこと。そして必要最低人員を20人程度と想定している。
 
    (1) ヤードの位置について
   ヤードを固定して展帆するのが望ましいと結論している。
 一方、「造船業者からのレポート」(以下「造船レポート」という)では、可動(電動ホイストによる)させて展帆させたほうがよいと提言している。
    (2) ヤード上の索具について
  安全、作業性から「ジャッキスティ」「セーフティスティ」「バックロープ」の設置を提案している。
    (3) セイルの取付けについて
  作業の容易性、確実性、安全性の面からジャッキスティを利用したセイル取付けを提案している。
    (4) フォアセイル、メインセイルの動索について
  「リーチライン」の新設、「クリューライン」の変更、バントラインに「フェアリーダ」の新設を提案している。(マートネットの撤去)
    (5) スティのファイバーロープについて
  スチールワイヤーへの変更を提案しているが、造船会社からのコメントによるととても困難だとのことであり、取り敢えずシュラウドに木製段を増やして対処するのが望ましいとのことである。
    (6) フォアヤード用ブレスの導き方について
  フォアヤード用ブレスの導き方について、静索を介さない方法の採用等の変更を提言している。
    (7) ヤードの開き角度について
  ヤードの開き角度が不足しているので、洋上での展帆と異なり、展帆時の気象の変化に伴う緊急時に速やかに対処する必要があることから、ヤードの開き角度を大きくするよう、その改善策を提言している。
 
(2)造船業者からのレポート
 少数での作業には、何らかの動力が必要なことと、安全上ヤードが低い位置での展帆・縮帆が望ましいとの観点から、ヤードを可動させる場合の改良すべき点などが提言されている。
    (1) フォア、メインハリヤードの現状と人力昇降
  現状のままでは困難なので、「シーブ」を新設し、サザンクロスロープに変更することを提言している。
(2) 動力(電動ホイスト)を利用したヤードの可動について
  フォア・メインマストおよびミズンデッキ下に電動ホイストを設置することを提言している。
(3) フォア・メインセイルの改造
  前記「実施レポート」2〜4と同様
(4) ヤードの改修
 
2. 試験展帆実施者からのレポート
(1)ヤードの位置について(ヤードの「固定」または「可動」)
(1)ヤード固定
 展帆時および展帆していない時を問わず、ヤードを上昇させ、マストに固定する。
 その条件として、その際も十分な復原力を保持できていることは言うまでもない。
  ・ 復原力を計算すること
  下図のようにリフトを模様替えすればヤードは固定化される。
  ・ ヤード降下方法(台風接近時等の対策で、ヤードを降下させ、復原力の増加を計る必要がある時)
   リフトエンドのシャックルをはずし、ハリヤードスラックすればヤードを降下させることができる。(それでもデッキ上、約3mしか降下できない)
□問題点 一度降下したヤードを元の状態に復原する時には、ヤード吊り揚げ用クレーン等が必要・吊り揚げ用ウィンチの新設について動力を使用しての揚げ降ろしする点については、個人的考えとして賛成しかねる。
   → ウィンチを巻くだけではヤードは上昇しない。
→ 伸ばさなければならない動索、操作しなければならない動索等あり、容易なことではない。(ロープの擦れの問題)
  ・ ヤード固定の利点
  1)ハリヤードリフトでヤードを吊っているので固定されて安心して作業ができる。
2)甲板上にリフトがなくなり、動索2本がなくなり、整理できる。
 
(拡大画面:154KB)
 
 
3)甲板上でリフトを問違ってもレッツゴーすることがない。(一度、ヤード作業中リフトをレッツゴーしていたことがあり、一つ間違えると危険な状態であった。
 ・ ヤード固定の欠点
 1) ヤードを降下させる時には、リフトの模様替えの要がある。(手間がかかる)
 2)
マスト部リフトも固定点が旋回中心付近 ないとヤードを開いた時、ヤードが片上がりになるが、リフトの取付位置を調整することで解決する。
(2)ヤード揚げ降ろし
ヤードの揚げ降ろしを常時可能にすること。現時点において揚げ降ろしは不可能
 1) 人力で揚げ降ろし
  a.ハリヤードの一部をワイヤーに替える。
  b. 見張り台のマストトップ付近の模様替え
  接触箇所をなくす(擦れをなくす)
  トップに滑車新設
  c. 甲板上ハリヤードを止めるビット、ボラードを新設(クリートは不安)
  d. 作業員約30人は必要と思われる。
  以上を考えると難しい。
 2) 動力で揚げ降ろし
  帆装儀装において、ウィンチを使うということは賛成しかねる。
  (理由)
a. 異常があってもウィンチはどこまでも引く→重大事故の原因
b. 多くのロープがお互い関係があり、異常を起こしやすい
  現在の大型帆船においても、救命艇の揚げ降ろしすべてを人力で行っているように、帆装艤装もすべて人力で行うことにより、安全を確保している。
 (3) その他
  フォアセイル展帆時、セイルのフートが甲板上構造物に当たる。
  (対策〉
ハリヤードを詰めて、フォアヤードを約1m上方へ揚げる。







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