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はじめに
 
 仙台藩の慶長遣欧使節派遣380年を記念し、平成5年に石巻市内の造船所で建造された復元船「サン・ファン・バウティスタ」は今年、進水10周年を迎えた。我が国の木造船造船技術の粋を集め、国内最大の木造帆船として平成の世によみがえってから10年が経った。全国からの乗船者は100万人を超えており、今なお帆船ファン、観光客を引き寄せている。
 復元船を係留展示している宮城県慶長使節船ミュージアム(サン・ファン館)は、この10年という節目を機に、全国に「木の文化」をさらに積極的に発信しようと「海につどい船に学び、木の文化を知る」という事業を開始した。昨年秋、同事業調査研究会(委員長・寳田直之助氏)を設置し、協議を重ねてきたが、幸い日本財団の助成もあり、出帆記念日に近い10月中旬を目指して、マストに帆を張る「展帆」を9年ぶりに実施するほか、「400年前の木造船技術に直接触れ、技術を伝承しよう」という体験学習を充実させるなどの事業計画を決めた。大洋を航行する木造帆船は、浸水を防ぐため船体の「ハダ打ち」を欠かせないが、既に昨年からこの作業を船大工の指導で小、中、高校生を対象に始めている。特に高齢化の進む船大工の技術の受け皿確保は緊急のテーマであり、「二度と造れない」復元船の保存問題も含めて、新たな取り組みが求められている。陸上の木造建築は直線文化の粋だが、木造帆船は曲線文化の粋であり、復元船はその集大成でもあり、サン・ファン館は木造文化の“伝承館”の役目も負っている。
 
宮城県慶長使節船ミュージアム館長
跡部 進一







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