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(4)わかりやすく使いやすい公共交通を目指して〜市民からの取り組み
広島のみちの使い方を考える研究会 岡村敏之
 広島のみちの使い方を考える研究会は1999年にひろしまNPOセンターの一部会として発足しました。市民団体代表、交通事業者、行政担当者などがメンバーとなり、広島都市圏の渋滞解消や公共交通の利用促進を目的とした活動を展開してきました。
 まず、2000年秋に「マルチモーダル社会実験」を実施しました。これは、広島市安佐南区のCATV視聴可能世帯に対し、道路交通情報および新交通システム(アストラムライン)情報を同時に提供し、交通情報が人々の交通手段選択に与える影響をみたものです。実験の前後に住民を対象としたワークショップを開催し、本格実施に向けての課題の把握を行いました。
 つぎに、2000年から広島市内のバス路線のガイドブック「バスの達人」を作成・発行しています。さらに、2001年からはバス路線マップ「バスの超マップ」を作成・発行しています。これらの活動の背景には、広島のバス路線はわかりにくい、案内が少ないという利用者の声が多かったことや、民間バス事業者数社が拮抗するなかで、音頭をとる事業者がなく、バスマップが存在しなかったことがあります。
 そして、今年度からは交通エコモ財団の支援を得て、見やすく、わかりやすい時刻表と路線図を作成するとともに、路面電車や新交通システムとの乗り継ぎをしやすくするための各事業者間でのダイヤの調整についても検討するプロジェクトに着手しました。プロジェクト推進のために「使いやすい公共交通推進委員会」を設置し、市民団体、交通事業者、行政機関、学識経験者など、各セクターの方々がメンバーとなって検討を進めています。
 
「バスの超マップ」広島中心市街地部分
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(5)「走行イベント in 大通」〜自転車が快適な街に−協働を探る試み−
道はだれのもの?札幌21 秋山眞澄
 「道はだれのもの?札幌21」は1997年発足の市民団体で、車優先を見直し、生活者の視点で人と車の中間に位置する自転車に焦点を当てることで、人にも環境にもやさしい道路・交通環境の実現を目指しています。
 自転車は歩行者からも自動車からも厄介者扱いされ、交通手段として認知されていない中途半端な存在です。札幌は道が広くて車は走りやすいと言われますが、都心部には自転車の走れる道がほとんどありません。そこで当団体では、道を問い直す講演会の開催、自転車利用に関するアンケート調査の実施、都心部への自転車走行空間を点検、「自転車通行可」道路のデータをマップに落とす作業などを行って来ました。
 参画したさっぽろライフの「チャリ勉」では、2002年9月16日のフォーラムに続き9月29日には、「自転車快適空間 in 大通」というイベントを実施しました。これは、環境にやさしい自転車の良さを見直し、自転車専用レーンの快適さを知ってもらおうというもので、大通西8、9丁目の車道のうち、大通公園側の1車線を専用レーン(1周約500m)にして実施したものです。開催までに警察に何度も足を運び、規模を当初の数分の一に縮小し、様々な安全対策を講じるという条件で許可を得ました。警察署の全面的協力による交通ルール教室も同時開催できました。小雨にもかかわらず、市民約100人が参加し、専用レーンの快適さを体験しました。
 当団体は、札幌に自転車専用レーンが必要だということを今後も訴えていきます。そのためには、利用者、交通管理者、道路管理者との協働が欠かせないと思っています。
 
「自転車快適空間 in 大通」で自転車専用レーンを走る参加者たち
 
(6)北勢軽便鉄道を存続させる市民運動
北勢軽便鉄道をよみがえらせる会 成田正人
阿下喜駅を残す会 安藤たみよ
 近鉄北勢線は、三重県桑名市内の西桑名駅から北勢町内の阿下喜駅に至る全長20.4kmの路線で、全国でも3ヶ所にしか現存しない762mm(ナローゲージ)の軽便鉄道です。
 平成12年に近鉄がグループ経営改善計画の中で、北勢線廃止の意向を表明しました。そこで、沿線の市町が「乗って残そう」という運動を展開しましたが、利用者減少を食い止めることができませんでした。市民グループも勉強を重ね、人と環境にやさしい公共交通機関、低廉で定時性を最優先した公共交通手段を維持することの重要性を訴えて来ました。
 その結果、近鉄から三岐鉄道への譲渡による北勢線存続が決まり、必要な経費を沿線自治体と県が負担することになりました。当初、バスでの代替方針だった県を地元の熱意で覆した訳ですが、県の支援予定金額はわずか1億8000万円で、残りの費用のほとんどは沿線自治体が負担します。我々は、北勢線は産業遺産・産業資産として残す価値があると考えています。延伸してLRTにする夢も持っています。さらに、北勢線の利用促進と地域の活性化のために、メリーベル号という遊休軽便鉄道車両を岡山から譲り受けて走らせる提案や、終着駅の阿下喜駅付近の病院跡地に軽便鉄道博物館を建てる提案をしています。
 
3. 会場を交えた質疑応答、意見交換
 公共交通と利益(採算性)、市民活動における行政・事業者等との連携についての苦心談、道路管理者・交通管理者等行政内部の協力・連携の重要性などについて意見交換しました。
このうち、公共交通と利益(採算性)については以下のような意見が出ました。
○公共交通の目的関数は費用対効果か、利益(採算性)か?
・利益が上がらないから充実しないのが現実。欧州の自治体が公共交通を社会基盤の一つとみなし、税金を投入しているように、費用対効果で見るべき。
・費用対効果は当然のこと。さらに、民間企業的考え方で採算性などを考慮すべき。
・環境や福祉(足の確保)の観点から、住民が自治体を動かして地域交通づくりに取り組む動きが増えてきた。自治体が動く場合、採算性がすべてではない。
・公共交通単体の利益だけでなく、環境負荷低減効果、交通渋滞や事故の削減効果などの社会的便益を考慮した上で、どの程度の税金投入は妥当かという判断をすべき。
 
 そのほか、和泉市の交通・環境プログラムの今後の展開について、パイロット・プロジェクトで終わらせることなく、いろいろなバリエーション、オプションを考え、全国各地、各学年で広く受け入れられる仕組みにして普及させられたら、との発言がありました。
 参加された車いす利用者の方から「バリアフリー」という言葉が出なかったのは残念とのコメントもありました。これに対し、阿下喜駅を残す会の報告者から、同駅は段差のないバリアフリー駅である旨の発言がありました。
 
4. まとめ(寺部先生)
 環境に配慮した地域交通づくりの具体的施策を実現させるためには、情熱を持った人が口酸っぱく言い続けることが大事ではないでしょうか。また、本日のような機会に様々な団体が交流し、情報やノウハウを共有していくことがそうした活動を広める力になると思います。
 
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