日本財団 図書館


2002.11.23 開催フォーラム
「環境に配慮した地域交通づくりを推進しよう」(注)
運営団体:交通エコロジー・モビリティ財団/環境自治体会議
 
(注) 本フォーラムは2002年11月に東京で開催されたライフスタイル見直しフォーラム2002(市民団体等からなるフォーラム実行委員会と環境省が主催)の行事の一つとして開催したものであり、本稿は『ライフスタイル見直しフォーラム2002報告書』に収められた内容と同一のものである。
 
 モータリゼーションの進展を背景に、運輸部門からのCO2排出が増加の一途を辿っています。こうした現状を改善するには、車単体の環境負荷低減だけでなく、車に過度に依存した私たちのライフスタイルを変える努力が必要です。さらに、そうした努力を容易にするよう社会の仕組みを変えていくことも不可欠です。
 一方、交通には地域性があるため、地域に合った施策を実施すべきです。また、交通はまちづくりをはじめ、地域住民のくらしや地域のあり方を左右する重要な社会基盤であることから、住民参画のもとで、環境だけでなく、他の要素とも調和のとれた交通の実現を目指すことが重要です。
 そこで、この課題別フォーラムでは、環境に配慮した地域交通づくりのための活動を行っている自治体や市民団体の報告を聴き、参加者の間での情報やノウハウの共有に資するとともに、課題等についての意見交換を行いました。
(司会進行:環境自治体会議環境政策研究所 上岡直見)
 
1. 基調講演要旨
 地域交通づくりをマーケティングする
東京大学大学院工学系研究科講師 寺部慎太郎
マーケティングとは
 市場を対象とし、企業の対市場活動(製品開発、販売促進、価格設定等)で動態的に変化していく市場に対し、企業が創造的に適応していく活動。
 
社会基盤マーケティング
 人の行動や意識を定量的にとらえて、社会基盤に関する政策やシステムの立案・計画・建設・運営に生かすこと。
○地域交通分野でマーケティングが必要となる局面の例
地域交通機関の最適サービス設計:どのようなサービスが、誰に好まれるか
地域交通(公共交通・自転車)の利用促進:どのような促進策が、誰に影響を与えるか
交通需要管理(TDM)政策の設計:どのような政策に、誰が、どのように行動するか
パブリック・インボルブメント(PI:市民参加):どのような計画が、誰に受け入れられやすいか、誰が興味を持つか
○交通・PIをマーケティングと見立てると・・・
 
分野 社会基盤 公共交通 PI マーケティング
主体 管理者 事業者 計画主体 企業
対象 市民・利用者 利用者 市民 消費者
選択対象 社会基盤施設 交通サービス 政策・計画 商品
行動 支持・利用 利用 支持・賛成 購買
目的関数 費用対効果 利益・利用者数 満足 利益
 
○企業が利益だけを追求せずに社会的貢献も視野に入れているように、公共交通事業者の目的関数も利益だけではないと考えられる。マーケティングの場合、不満足の結果として「買わない」という行動に現れるが、交通の場合、「利用しない」という選択肢を選べないことがほとんどであり、不満足でも「あきらめ」が発生して、顕在化しない。(例:混雑した道路、サービスレベルの低いバス)
○成熟期の社会基盤:つくるだけで使われる時代は終わった。「いかに使っていただくか」が重要。
 
これからの地域交通づくりで必要な仕事
○交通政策・交通計画立案に関与する。
市民参加・PIを謳うのは常識。建設的関与で行政・事業者と良好な関係。マスコミを味方に。
○潜在化している利用者の不満をあぶり出して、計画主体・交通事業者に伝える。
満足度調査、定点観測、大学(研究室・ゼミ)との協働。
ただし計画の公共性、事業としての採算性は無視できない。
○あたらしい生活スタイルのエバンジェリスト(伝道者)となる。
 
2. 報告要旨
(1)交通エコロジー・モビリティ財団の「住民主体の環境配慮型地域交通づくりの推進事業」
交通エコロジー・モビリティ財団 市丸新平
 当財団では日本財団の助成を得て今年度から新事業を始めました。地域交通の改善に取り組まれている自治体や市民団体に対し、住民参加型の委員会の設置・運営を通じて、交通施策に関する専門知識の提供や、合意形成等の支援を行い、環境に配慮した地域交通づくりに向けた具体的プロジェクトの実現を目指すとともに、他の地域がこれらをモデルケースとして活用するためのノウハウをとりまとめ、その取り組みの普及を目指すというものです。
 5月に 2507自治体と 150 市民団体にアンケート調査を行い、その後のヒアリング、委員会審議を経て、協働先となる 3団体 ( 2自治体、1市民団体 ) を決定しました。概要はつぎのとおりです。
○和泉市(総合的な学習の時間における交通・環境教育プログラム)
 小学校5年生の「総合的な学習の時間」を活用して、交通環境問題についての授業を行い、学校が家庭や地域と連携して地球環境問題に取り組んでいく仕組みを確立し、意識面での自動車利用の削減を促進する。
○滝沢村(村営バスの見直しや新駅設置に伴う公共交通網の再編)
 村民の移動ニーズの変化を踏まえた公共交通総合計画を策定、実施することにより、公共交通機関の利用促進と交通課題(道路渋滞、交通空白地帯の存在、高齢者等の足の確保のための財政負担等)の解決を図る。
○広島(バス時刻表表示の統一化及び、路面電車等との乗り継ぎの容易化)
 広島市では複数の事業者(10社)がバスを運行しており、それらの時刻表をわかりやすいものに統一化し、かつ路面電車等との時刻調整による乗り継ぎの容易化等により、マイカー利用からバス利用への転換を促進する。
 
 このうち、和泉市と広島のプロジェクトについては本日、それぞれの関係者からご報告いただきます。
 
(2)総合的な学習の時間における交通・環境教育プログラム〜和泉市の取り組み
総合的な学習の時間における交通・環境教育プログラム委員会 大藤武彦
 大阪府和泉市では、交通エコモ財団などの支援を得て、市立緑ヶ丘小学校の5年生を対象に総合的な学習の時間を利用した交通・環境教育プログラムを今年度から実践しています。
 プログラムの目的は、子供たちが学習を通して、持続可能な社会の実現に向けた取り組みの必要性を認識し、生活の中でどうすればよいかを考え、実際に取り組んでみて、評価を行い、その結果を継承していくことです。フィールドは、日常の生活における交通です。カリキュラム概要は下表のとおりです。
 
カリキュラム概要
ステップ 名称 概要
Step1 イントロダクション 環境意識の測定と交通・地球環境問題の認識
Step2 現況カルテ 現況ダイヤリー調査+環境家計簿調査とCO2算定
Step3 CO2削減方法の学習 一般的なCO2排出量削減方法の学習と検討
Step4 診断カルテ作成 自動車利用の変更プランの検討
Step5 行動プラン作成 CO2をできるだけ排出しない行動プランの作成
Step6 CO2削減努力の評価 学習後のダイヤリー調査+環境家計簿調査とCO2算定
Step7 行動持続方法の検討 行動と意識のフィードバックと行動持続のための方法討議
Step8 報告会 まとめとプレゼンテーション
 
 プログラムの推進にあたっては、関係者からなるワーキングで意見交換し、教材や進め方を検討し、授業では大学院生のチューターが児童や教師のサポートをします。また、家庭での保護者の協力が欠かせないことから、保護者説明会を開催しました。
 これまでのところ、児童には新鮮なものとして受け入れられており、保護者の理解と協力も予想以上です。
 今年度の目標は、このプログラムが総合的な学習プログラムとして適用できるかどうかの目途をつけるとともに、今後のプログラム展開に向けた基礎資料を作成することなどです。今後の課題としては、教材、ワークシートの改善、授業の進め方の拡充、教師とチューターの研修方法の検討、プログラムの一般化などがあります。
 
授業風景
 
(3)地球にやさしい日本一のまちづくり〜松山市は目指します
松山市都市整備部都市政策課 中矢博司
 松山市では、人口の増加と市街地の郊外への拡散に伴い、自動車、バイク、自転車の利用が増加しています。また、女性や高齢者の外出の増加も交通手段の多様化に拍車をかけています。一方、幹線道路の整備率は4割に留まっており、道路整備という供給サイドだけでなく、需要サイドの施策が益々重要になってきています。
 平成11年の松山市交通実態アンケート調査では、改善すべき最も重要な交通問題として「自転車や徒歩での移動をもっと便利で快適にすべき」、「バス、鉄道、路面電車などをもっと便利で快適にすべき」、「自動車の移動をもっと便利で快適にすべき」が1/3ずつを占めました。
 そこで、平成12、13年度に松山まちづくり交通計画を策定し、都心地域では歩行者や自転車の空間を既存道路の中で整備していくこととし、周辺地域や郊外地域では公共交通の充実を図っていくこととしました。例えば、都心部では既存の道路空間を再配分して、10年掛かりで27kmの自転車走行空間を整備する方針です。また、郊外地域ではいくつかの拠点駅を選んでバスのフィーダー運行を行い、その内側の地域では比較的充実している軌道系公共交通網を活用する方針です。
 そのほか、歩行者や自転車のための案内板を都心部の各地に設置中です。2車線道路のうちの1車線を自転車レーンおよび荷捌きスペースとする社会実験や、広い歩行者専用道路の中央部分に自転車専用レーンを設ける社会実験も行いました。
 松山市は、環境先進地であるドイツのフライブルク市と姉妹都市であり、行政、市民共々、同市から多くのことを学んでいます。松山市は地球にやさしい日本一のまちづくりを進めます。
 
大街道商店街の自転車レーン社会実験







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION