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奨励賞
 
ホームステイの普及にみる交流への新たな動き
 
山口 隆子
 
要約
キーワード:ホームステイ、国際交流、深い体験、まなざしの融合、草の根、自己実現
home-stay visits, international exchange, profound experience, gaze fusion, grass-roots, self-creation
 
(1)研究の背景と目的
 ホームステイは、約70年前に、国際交流を図るために青年層を対象として、アメリカで誕生した。生活を共にすることでお互いの理解を深めるホームステイは、訪問者が自国に戻ってからもさらに双方の交流を継続させるなど、その後も国際観光交流に大きく寄与してきた。そして、ホームステイが始まって約半世紀経った頃に、ホームステイの訪問者が青年層から壮年層・熟年層へと拡大して、ホームステイが新たな展開を見せている。この傾向は今も進展し、現在わが国においても、インバウンド・アウトバウンドの双方向で壮年層・熟年層のホームステイが急速に拡大している。
 しかし、この変遷は、単に年齢層の変化にとどまるものではなく、国際観光交流そのものが変質していることを意味しているものと思われる。そこには交流への新たな動きが認められる。本論は、ホームステイの普及にみられる交流への新たな動きを考察するものである。
 
(2)論証
 論証は、特にホームステイ発祥の地であるアメリカに注目し、初期に生まれたホームステイの推進組織とその後に生まれたホームステイの推進組織を比較することによって、ホームステイの新たな展開を明らかにした。具体的には、ホームステイの古くからの推進組織であるエクスペリメント・イン・インターナショナル・リビング(国際生活体験・EIL)とアメリカン・フィールド・サービス(アメリカ野戦奉仕団・AFS)について論じ、ホームステイがアメリカで誕生し発展した背景を探るとともに、その後ホームステイに大きな転換をもたらし現在も急速に組織を拡大しているザ・フレンドシップ・フォース(友情部隊・TFF)について詳細に論じた。ザ・フレンドシップ・フォースの日本での活動については、筆者が在住する奈良で詳細な調査を行った。
 
(3)考察
 上記の論証から、ホームステイの新たな展開の中に、交流への新たな動きが認められることを考察した。すなわち、交流への新たな動きとして、浅い体験からより深い体験へ、旅行者と生活者のまなざしの融合、草の根交流に基づく双方向の民際交流、個人的・社会的な自己実現の4点を指摘した。今、訪問者は深いふれあいや深い異文化体験を求め、旅行者のまなざしを生活者のまなざしに融合させようとしている。また、個人と個人との国際交流を志向し、草の根交流であるホームステイヘのニーズが増大している。さらに、このホームステイは深い体験という個人的な自己実現と社会への貢献という社会的な自己実現の二つを充足している。ホームステイのこの交流への新たな動きは、ある特定のホームステイ推進組織に特殊なのではなく、新しい旅の一つのあり方を示していると思われる。
 
(4)本論の意義
 ホームステイが急速に普及しつつある中、本論で論じたホームステイの新たな展開は様々な重要な示唆を与える。ホームステイの先行研究は皆無に近く、本論はこれからの国際観光交流のあり方を考え、国際観光交流を推進するうえで意義あるものと考える。
  





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