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奨励賞
 
持続可能な開発手法としてのコミュニティ参加型エコツーリズムのフィージビリティ
−フィリピン国パラワン州のケーススタディ−
 
岡崎 悦子
 
要約
 本稿では、発展途上国における「持続可能な開発手法」として経済開発と環境保護の両効果を併せ持つ「エコツーリズム」の可能性に着目する。
 発展途上国で「空腹に環境保護」を訴えても環境保護は実現しない。その実現は代替利益すなわち所得創出が牽引役となって初めて可能になる点について指摘され、政策等に反映されなければならないだろう。その中で、世界のGDPの10.13%を占める観光産業は、先進国から発展途上国への富の再配分をする役割を担い、発展途上国の脆弱な輸出を補完する働きを持つ。更に、従来のマスツーリズムによる自然・文化破壊、それに伴う観光資源の劣化の問題に対して悪影響を最小限に止める手段としてのエコツーリズムは、発展途上国における持続可能な開発手法の一つとして注目され、近年、国際機関等によっても推進されている。そして、国連は本年2002年を「国際エコツーリズム年」に指定した。
 観光の負の影響については多く指摘されてきたが、関連するコミュニティが計画・政策決定過程で主導・参加すれば解決が望めると多くの研究や事例が述べている。また、コミュニティの参加により、所得創出だけでなくインフラ整備等直接利益がもたらされること等から、「コミュニティ参加」がエコツーリズム開発の必須条件とされる傾向が生まれている。しかし、相対的に教育水準が低く人々の社会経済活動への参加機会が限られる発展途上国において、コミュニティ主導による開発や政策決定過程への参加は困難ではないかと考える。そこで、あらゆる障害を取り除き、コミュニティ参加の可能性を高める役割をしているのがNGOではないかと考え、フィリピン国パラワン州の2ケースを選定してフィールド調査を実施した。インタビューや資料・文献等から質的・量的分析を試み、コミュニティ参加の効果と課題、NGOの役割を評価し、サプライサイドの立場からコミュニティ参加型エコツーリズムのフィージビリティを探り、開発手法として導入する方向について検討した。
 ケーススタディにより、コミュニティ参加型エコツーリズムは、(1)地域全体への経済波及効果とコミュニティヘの補助的所得をもたらす新たな生計の選択肢となり、(2)環境保護についての人々の認識を高める効果があることが分かったが、観光の持つ季節性や外生要因に影響されやすい性質と小規模スケールに鑑みると、専業の職業や基幹産業として特化するにはふさわしくないと考える。更に、2ケースをエコツーリズムヘの直接参加と補助的参加に分類し、コミュニティの受容能力に鑑みてふさわしい形態として後者を提唱する。
 最後に、ケーススタディから組織や制度・法的な枠組みが重要な基礎となることは明らかであり、更に、様々な問題解決を要する持続可能なエコツーリズム開発にはNGOの介在が不可欠であると考える。しかし、コミュニティもNGOも観光の専門的技術に欠く現状から、NGO自身の能力形成も今後の課題と考える。以上より、NGOの介在を加味した適切な計画とマネージメントに基づくコミュニティ参加型エコツーリズムは、発展途上国の開発手法の一つとして有効であり、同手法の今後の発展が期待される。
  





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