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奨励賞
 
職場旅行に関する考察
−発展の構図と現代における変化−
 
田代 幸作
 
要約
 今日、団体旅行は日本人の嗜好の変化から急激に減少しているが、戦後団体旅行の中心であった職場旅行はこれまで研究対象として取り上げられなかった。そこで本論では職場旅行が発展した構図、現代の傾向、その背景を明らかにすることを目的とする。
 第1章では複数ある職場旅行の名称統一を図るとともに職場旅行の定義付けを行った。また数量的把握を試みることで日本観光における職場旅行の位置付けを明らかにした。まず名称の統一では「職場旅行」は認知度も高く、職場の人々によって企画・遂行されるという旅行形態を言い当てている点で最も適切な言葉だと考える。また、定義付けであるが、特に報奨旅行と職場旅行の区別は非常に曖昧である。しかし、政府による税制優遇措置の有無、主目的が従業員同士の親睦か販促のための動機付けか等で両者は大きく異なる。そのような特徴を踏まえ、筆者は職場旅行を「使用者によって組織的かつ計画的に主催される旅行で、従業員同士の親睦や慰労を主たる目的とし、従業員の営業成績など報奨を目的とする旅行参加資格が設けられていない旅行」と定義付けた。次に職場旅行の数量的把握であるが、個人旅行市場の拡大に伴い職場旅行の旅行市場における占有率は年々低下している。職場旅行市場自体も、昭和50・51年をピークに縮小し、平成7・8年では最盛期の約60%にまで落ち込んでいる。しかし、団体旅行の中ではおよそ35%〜50%を占めていることから現在でも団体旅行の中心であるといえる。
 第2章では職場旅行の起源を探るとともに、戦後爆発的な勢いで拡大した職場旅行の背景を明らかにした。明治時代・大正時代に出版された書物を紐解くと少ないながらも当時から「運動会」「花見」という形で職場レクリエーショシが催されていたことがわかる。また昭和に入り宿泊を伴う職場旅行が始まり、太平洋戦争中も国策旅行として継続されてきたことが戦後の職場旅行が爆発的に拡大する布石となったと考える。戦後の職場旅行が急激に普及した背景として経営家族主義を目指す「雇用者」、レジャーに対する強い欲求を持つ「従業員」、高い旅館代売手数料に価値を見出した「旅行産業」という3つの要因が大きく働いたと仮説を立て、「1泊2日・温泉・旅館・宴会付」というパターンが定着したのも、職場旅行を必要とする3者の目論見が強く反映されたものと考えた。
 第3章では職場旅行の現代の傾向を述べた。時系列的資料から国内職場旅行が減少し海外職場旅行が増加していること、企業による旅行費用負担が削減傾向にあること、中小企業により職場旅行が積極的に実施されていること等があげられる。国内職場旅行が減少した理由として長引く不況以外にも従業員の職場に対する帰属意識の変化から職場旅行の福利厚生制度としての意義が薄れたことが大きく影響している。しかしながら海外職場旅行が増加している点では社員教育、人材確保の点など企業が複数の価値を見出していること、また海外旅行が時間・金銭面の両方でいまだ贅沢品であることから、従業員にとってロイヤリティの高い福利厚生制度であるということがこのような結果に結び付いたと考える。また中小企業が職場旅行を積極的に実施している理由として、その資本力の小ささから多くの従業員が恩恵をうける福利厚生施策に特化する必要があること、また従業員同士の密なコミュニケーションが必要とされることがあげられる。
 第4章では総括として職場旅行を現在の日本観光発展に大きく貢献した企業・団体によるソーシャル・ツーリズムと位置付けた。しかし、現在では本来持っていた意義を失いつつあることを指摘し、福利厚生としての職場旅行の見直しだけではなく旅行方法なども見直されるべきだと結論付けた。
  





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