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車両
(a)機関車
 機関車は、山岳部の急勾配や急カーブでは能力不足であり、小さな車体の機関車を使用せざるを得ないので、不経済でもある。機関車は、本線のKadugannawaの傾斜区間で、補助的に使われている。列車はすべて真空ブレーキであり、性能も低いので、勾配の登り下りともに、営業速度は低くなる。機関車は、圧縮空気ブレーキを搭載している。
 
 機関車は、耐用年数や耐用距離に達する前に使用できなくなってしまう。
 
 機関車の製造元や形式、馬力は様々である(スリランカ鉄道に最適がどうかではなく、融資限度額を基準に購入がなされたため)。機関車の種類がばらばらなので形式の異なる機関車に対応するために、大きな整備設備と様々な部品のストックが必要となるなど、整備上問題がある。また、使用する機関車によって積載量を変更しなければならない。
 
(b)客車
 スリランカ鉄道の客車も、少しずつ何回にも分けて納入されており、製造元、種類、形式は様々である。
 
 その上、全車両の過半数は20年以上前に製造されたものである。
 
 1955年以前は、すべての客車は英国から購入しており、スチール製の台枠に木製の車体であった。すべてがスチール製の客車は、1962年から1966年にかけて中華人民共和国から購入したものであり、現在も130両が使用されている。
 
 車両の購入の割合が最も大きなものは、ルーマニア製の客車で440両が購入された。これは、1976年に140両、1979年に150両、1981年に150両と、3回に分けて購入し、納入されたものである。この車両は、乗客にも整備士にもあまり評判がよくないようである。車体や装備品の劣化が非常に早く、使い続けるためには常に注意が必要である。
 
 1980年にはインドから客車を30両購入したが、これは整備士の評判が非常によい。
 
 これ以外にも、国内の業者2社も関わっている。Railway Engineering Consultantsは約150両を製造しており、Motor and Leasing Lankaは廃棄される客車の台枠を再利用している。コロンボ郊外の通勤列車に使用できる液体式ディーゼル客車の等級は、S3、S4、S6、S7、S8、S9である。
 
信号通信装置
 現行の機械信号装置システムの問題点は次の通りである。
 
現在よりも速い列車や高い交通密度には適さない。
維持費が高い。
部品が現在生産されていない。
温度の変化により信号線が膨張・収縮するので、信号機の位置が悪くなる。
信号線や道路の破損により、故障することが多い。沿線の信号装置も天候の影響を受ける。
 
 現在使用されているタブレット通票信号装置にも次のような問題がある。
 
現在よりも速い列車には適さない。
線路容量が限られている。
装置が生産されておらず、部品が入手できない。
木や枝が架空線の上に落ちて破損することが多く、架空線の交換費用の負担が重い。
通票が片側に集中してシステムが故障する。
 
 踏切保安装置の問題は、警報ベルと点滅赤色灯装置では、踏切の警報装置が作動しているかどうかが列車の運転手からはわからないこと、また、踏切が開いている時に三色信号が緑になるというように、警報装置が正常に作動しているのか故障しているかが、道路通行者からはわからないことである。
 
 コロンボ行きの長距離列車は、単線区間があるため、通過待ちループで近距離列車を待たなければならず、15分ほど遅れることがよくある。
 
 このような障害は、信号機や機関車の故障などで列車が遅れることが原因だが、問題の多い列車運行の主な理由の一つであると思われる。
 
スリランカ鉄道の将来計画
 
 営業損失が大きい現状を踏まえると、詳細なフィージビリティ・スタディを行ってからでないと拡張はすべきでない。ただ、郊外道路が渋滞していることから、コロンボとAluthgama、ポルガハウェラ、ネゴンボ、アビッサウェッラを結ぶ区間については、既設のインフラや車両の整備を真剣に検討すべきである。
 
 インフラの整備の内容は、複線化、軌道の改善、信号装置の設置、操車場の改善、駅構内や駅設備の改善などである。車両の改善は、ディーゼル車両や電車を新規導入することが中心となる。
 
 列車速度の向上を目指すにあたっては、運行本数と安全性が中心課題となる。郊外を中心とした交通需要には、鉄道が不可欠という合意も必要である。これまでは、旅客や貨物の輸送をしていればよいという状況であったかもしれないが、効率的な輸送システムには、顧客サービス、質の高いサービス、時間に正確な運行、旅客設備や食事サービスの拡充などが不可欠である。
 
 現在スリランカ鉄道が推進している重要な事業には、軌道・機関車・整備場の復旧、橋梁建設現場の改善、コロンボ−郊外間の電化である。
 
 スリランカ鉄道の将来計画は、次の3つに分類できる。
 
1. 進行中の事業
a) スリランカ南部のマータラ−カタラガマ間の延長事業
b) ワドゥワ−カルータラ北間の複線化事業
c) 対向列車の遅れの最小化を目的にしたカンダナ−ジャーエラ間の複線化
 
2. 中期計画
a) ケラニバレー線の高速化を目的としたカーブ直線化、新軌道建設
b) 新橋梁の建設(老朽化した橋梁や単橋を耐荷力の高い橋梁に架け替える)
c) 列車の遅れを最小にするため、Hikkaduwa−Galle間の腕木式信号機を色灯式信号機に交換
 
3. 長期計画
a) レールを90ポンドの溶接レールパネルに交換
b) 重い荷重と高速化に対応するため、枕木をコンクリート製枕木に交換
c) レールの寿命を延ばし、保守費用を抑えるため、ガードレール・ボルトをガードレール・ブロックに交換
 
電化
 新世紀におけるスリランカ鉄道の開発・近代化の目玉は、首都郊外の電化である。この電化事業の実施は、先進国の通勤列車サービスに近づけるためのものである。
 
 1952年に提案された電化事業は、その後集中的に検討された。コロンボ圏内の当時の旅客輸送設備は、現在の施設と比較してごくわずかであった。スリランカの社会経済的発展の結果、交通需要は年々増加した。輸送インフラの不十分さが顕在化し、経済発展の大きな障害となるに至った。
 
 1995年の数字では、首都圏におけるバスおよび列車の1日当たりの旅客人数は、172万6,200人であった。このうち、バスの旅客数は88万3,700人である。バスをはじめとする車両が耐え難い渋滞を引き起こし、国民の社会経済生活に深刻な影響を与えた。この悲惨な状況を改善するには、交通システムの抜本的な改革が必要であり、事態を重く見た政府は、郊外路線の電化を決定した。
 
 郊外鉄道の電化が承認された路線を図1に示す。
 
コロンボ−ラガマ−ポルガハウェラ 73km
コロンボ−ラガマ−ネゴンボ 30km
コロンボ−ラガマ−カルータラ南 42km
合 計 145km
 
 本事業は承認されており、実施を待っている段階である。政府は電化の緊急性を認識しており、少なくともコロンボ−ラガマ間の電化を実施すべく取り組んでいる。
 
 総延長145kmの電化承認部分は、鉄道による通勤交通の需要を完全に満たす電化計画(図2)の第一段階と捉える必要がある。この電化計画には、図1で示した区間の他、次の区間が含まれている。
 
コロンボ−Homagama(広軌の新線)
軌間・軌道接続
ネゴンボ−Veyangoda
Veyangoda−Homagama
Homagama−カルータラ南
 
 コロンボ首都圏をカバーする上記の鉄道網が、電化計画部分である。この計画を実施することにより、旅客輸送の混雑を緩和するだけでなく、ひいては道路交通の混雑も緩和されるであろう。ただし、そのためには次の条件を満たす必要があるだろう。
 
1. コロンボ首都圏の旅客需要を十分に満たすこと
2. 慢性的となっている道路の大渋滞を解消すること
3. 年々増加する旅客輸送需要に対応すること
 
 上記の鉄道網は、効率のよいバス輸送システムを連携して運営すべきである。鉄道とバスの総合大量輸送システムを構築する必要がある。
 
 新世紀には、上で説明した鉄道の整備・近代化に加えて、コロンボ・フォート駅を本線および郊外鉄道のターミナル駅にし、コロンボの象徴的な建物にする必要がある。
 
 ここで、駅舎の上の広いスペースを次の用途に利用する計画に触れておきたい。
 
1. 軌道のスペース
2. 各種プラットフォームのスペース
3. 駅の事務所
 
 屋上の高さは約15〜20mであり、屋上の全面を駐車場や、スイミングプールなどのスポーツ関連施設に利用するというのが私の提案である。新しい高層ビルの高さに合わせて、屋上の駐車場と楽に行き来できるようにする必要がある。
 
 上記の提案を実施すれば、コロンボ市の発展にも寄与することになる。
 
 安全性・信頼が高く、時間に正確で快適な列車運行の実現を目指し、次の整備事業に取り組んでいるところである。
 
1. 潜在的な利用者も含めた鉄道の利用者の大半に資するように時刻表を修正したり、必要に応じて改正すること
2. 駅長と駅員との間の連絡システムを改善・高度化することで、列車の運行の監視を強化し、列車の遅れを最小限に抑えること
3. ボトルネックの解消とインフラの修正
4. 機関車を最大限に活用すること
5. 古い規則・規定を改正して、現在のニーズに対応すること
6. コンピュータを利用したデータ情報
7. 鉄道貨物輸送の活性化
8. 鉄道輸送への民間参入を促進し、新しいアクセス政策を策定すること
9. 職員の訓練と潜在能力の開発利用
 
 世界中の鉄道は、最新技術の進歩に合わせて大きな変貌を遂げているところである。開放経済や自由化の政策により、政府の事業に民間が参入できるようになった。したがって、スリランカ鉄道は古いシステムを再構築し、コストの低減、生産性・安全性の向上、旅客貨物輸送の改善を図らなければならない。
 
 鉄道と道路交通を一体的に捉え、両者が協力できる分野を探る国の方針は、新世紀において運輸部門だけでなく、国全体の利益となるはずである。
 
 スリランカ鉄道は、スリランカにおける旅客貨物輸送において大きな役割を果たす、政府が100%所有する組織である。総延長は1,944km(広軌)であり、全国に広がっている。スリランカ鉄道は運営を容易にするため、7つの部署に分かれている。それは、軌道工事部(土木工事部)、機械技術部、機関車部、総務部、信号通信技術部、管財部、鉄道保安部である。







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