7. スリランカ(コロンボ)
スリランカ鉄道
Mr. Pathiranage Nihal
都市部における交通の現状
はじめに
都市部の交通の現状は、決して満足できるものではない。政府補助を受けている鉄道、cluster group bus service、および民間も、都市部の交通需要の増大に長い間対処してこなかったことは周知の事実である。経済のグローバル化により、首都コロンボを中心にある程度の雇用が生まれ、民間企業は、首都に事務所を設けるようになった。このことは、会社員や工場労働者などに影響を与えずにはいられなかった。コロンボ付近の職場まで、50kmも離れた町や村から通勤するようになったのである。
現在、国営のバス・鉄道や民間のバスは、これまでになく高まっている整備を求める声に対処できないことはいうまでもない。通勤と貨物の両方について、交通システムの十分な計画・実施を行う必要性は日増しに増大しており、早急な対策が取られないと、その結末は想像できないほど悲劇的なものとなるだろう。国内外の投資家を対象にした自由貿易地区が設置されて、都市部や後進地域の工業化が進んでいることを踏まえると、有効かつ効率的な貨物輸送システムを整備することも非常に重要である。
鉄道
スリランカの主な公共交通機関は、政府補助を受けている鉄道、cluster group bus service、および民間の交通機関である。スリランカ鉄道は発足当初から政府機関として運営されてきたが、その会計は、民営企業とサービス提供型の政府機関の両方の性格を持っている。スリランカ鉄道はその限られた諸資源にもかかわらず、コロンボ郊外の通勤交通の他、長距離の旅客と貨物輸送においても重要な役割を果たし続けている。年間の輸送量は旅客が9,000万人、貨物が120万トンとなっている。
136年の歴史を誇るスリランカ鉄道は、イギリスの植民者がコーヒー(のちに茶とスパイス)を運搬するために建設したのが発端である。現在は道路交通と競合しているため、旅客、貨物ともに下降傾向であり、財政や投資の面でも問題となっている。スリランカ鉄道は総延長1,447kmのうち、営業をしているのは1,132kmであり、残りの315km、交通量にして22%は、北部および東部における混乱が原因で一時的に運行が停止している。
旅客および貨物による収益は、北部や東部が収益に大きく貢献していたことから、大幅に減少した。
表1は、スリランカ鉄道の過去10年間の歳出(経常支出と資本支出)と歳入、営業損失を示したものである。
Table 01
Revenue and Expenditure of Sri Lanka Railway (in Rs. Millions)
Expenditure |
Year |
Recurrent |
Capital |
Revenue |
Operating
Deficit |
1979 |
420.3 |
567.7 |
312.1 |
108.2 |
1980 |
534.9 |
502.6 |
358.8 |
176.1 |
1981 |
644.8 |
459.9 |
408.9 |
236.0 |
1982 |
751.7 |
377.4 |
427.4 |
324.3 |
1983 |
887.2 |
364.8 |
447.9 |
439.2 |
1984 |
1009.8 |
466.7 |
483.1 |
526.7 |
1986 |
1045.7 |
782.4 |
500.8 |
544.9 |
1987 |
1133.2 |
463.2 |
506.4 |
626.8 |
1988 |
1212.8 |
467.5 |
468.6 |
744.2 |
1989 |
1241.5 |
1072.6 |
462.4 |
779.1 |
|
鉄道設備
スリランカ鉄道の総延長は1,447kmである。次に示す9路線が、コロンボから商業都市に放射状に延びている。
1. |
本線 |
コロンボ−バドゥラ |
290km |
2. |
マタレ線 |
ペラデニヤ分岐−マタレ |
33km |
3. |
パットナム線 |
ラガマ−Periyagavillu |
143km |
4. |
北線 |
メダワッチヤ分岐−カンケサントゥライ |
339km |
5. |
タライマンナール線 |
メダワッチヤ−タライマンナール桟橋 |
106km |
6. |
バッティカロア線 |
マホ−バッティカロア |
211km |
7. |
トリンコマリー線 |
ガルオヤ分岐−トリンコマリー |
71km |
8. |
沿岸線 |
コロンボ(マラダーナ)−マータラ |
161km |
9. |
ケラニバレィー線 |
コロンボ・フォート−アビッサウェッラ |
59km |
コロンボ−Rambukkana間の82kmとコロンボ−ワドゥワ間の34kmは複線で、その他は単線である。表2は、路線、軌道、駅の数をまとめたものである。
Table 02
Route and Track Kilometerage and number of Station / Stations
in the network in Sri Lank Railway |
|
|
Kilometer/Number |
1. |
Route Length (Km) |
|
|
Broad gauge |
1453 |
2. |
Track Length |
1979 |
3. |
Railway Stations |
|
|
Passenger and Freight |
129 |
|
Passenger only |
35 |
|
Freight only |
04 |
|
Sub Stations |
144 |
|
鉄道車両
スリランカ鉄道は164両以上の機関車を運行している。これに加え、コロンボ郊外の区間では、35両以上の液体式ディーゼル客車が運行されている。
列車速度
各種車両には、次のような一般速度制限がある。
旅客貨物混合あるいは貨物列車 |
時速40マイル |
旅客列車 |
|
旧型客車 |
時速45マイル |
新型客車 |
時速50マイル |
以上の時速制限に加え、区間によっては常時速度制限の他、隔週又は毎週の告示、特別通報などで公表される臨時速度制限がある。
鉄道の信号通信システム
信号
スリランカ鉄道の現行の信号装置には、次に示す2つの種類がある。
・ |
操車場および閉塞区間で色灯信号装置を使用する |
・ |
操車場用では機械信号装置を使用し、閉塞区間では、テーブル通票式または通票チケット式のいずれかを採用する |
色灯信号装置には、列車集中制御装置があるものとないものがある。機械信号装置には、連動式と非連動式がある。
踏切保安装置
踏切保安装置は、電動の遮断機と連動した色灯信号装置、または農場型のゲートや遮断機と連動した腕木式信号機である。交通量の少ない踏切については、道路通行者への警報装置はあっても、列車の運転士への警報はない箇所がある。
通信 列車集中制御装置の対象範囲は、コロンボ(マラダーナ)を起点として、本線はWeyangodaまで、沿岸線はパーナドゥラまで、パットナム線はネゴンボまでであり、列車運行用の信号柱式の電話や駅電話があるところでは、通信士を配置している。この範囲では、一般通信用として公衆電話も整備している。
集中制御の色灯信号装置がないところでは、列車運行用にU.H.F/V.H.Fの無線電話が使われている。
この通信装置は、北部州および東部州に属する路線では使用されていない。同じ駅には、単側波帯のトランシーバーも備えられている。駅間の通信は、色灯信号装置のある区間を除き、テーブルタブレット通票回路で行っている。
駅と僻地の間の通信は、必要に応じて、磁石発電機式電話を利用している。
モールス信号を利用した装置は現在使われていない。
鉄道の問題点
スリランカ鉄道は、旅客輸送と貨物輸送の両方を担っている。鉄道はその固有の性質のゆえに、長距離の旅客輸送、重量・体積のある貨物の輸送、交通渋滞を抱える首都郊外の通勤交通に最適な陸上交通手段であることが証明されている。
鉄道は旅客、貨物ともに、道路交通との競合にさらされており、輸送量の低下傾向や支出の増大により、毎年巨額の赤字を出しており、鉄道の財政事情は悪化している。燃料費や部品が値上がりしており、投資に回す資金にも厳しい制約がある。
鉄道の物理的限界により、鉄道に固有の欠陥が表面化するようになった。次の要因により、軌道の整備費が上昇したのである。
・ |
軌道が標準化されていないこと |
・ |
沿岸線のレールが過度に腐食していること |
・ |
山沿いの急カーブ区間やカーブが連続する区間では、レールと車輪の摩耗が激しいこと |
・ |
保守整備の一般的な状況 |
・ |
枕木に利用できるような耐久性のある国産材が不足していること |
軌道の状況により、許容軸重は16.5トンとなっているが、これでは、山岳部の傾斜区間においても輸送の経済性を確保できる2,000馬力以上の機関車を使用することはできない。資金難により製造元の異なる機関車を購入せざるを得なくなっている。適性ではなく、融資限度額に基づいて機関車が選択されているのである。
スリランカ鉄道の分野別の問題点をまとめると次のようになる。
軌道
・アラインメント
急カーブでは常時速度制限を設定せざるを得ないし、車輪やレールの摩耗も激しい。しかし、高速化を目指したカーブの標準化作業は、段階的に実施されているのが実情である。作業の段階で暫定的に建設されたカーブが規格外であると、機関車や貨車は、そのカーブ区間の入口と出口において、激しく振動することになってしまう。
・軌道状況
レールの継ぎ目は、その部分の枕木のバラストの締まりが不十分なため、大きく沈んでしまっている。そのため、継続的なハンマリングが起き、継目板と継目板ボルトの摩耗が激しくなっている。レールの繋ぎ目は大きな衝撃を受ける箇所なので、その枕木のバラストの締まりが不十分だとレールが曲がって戻らなくなってしまう。
ほとんどの区間で使用されているレールは、16.5トンの軸重を支えるには一般に十分なもので、ヤード当たり80ポンド(37kg/m)のレールである。ただし、枕木が不足しているので、通常では使用してはならない枕木が使用され続けている。そのため、水平アラインメント・上部・ラインが弱い、継ぎ目が低いなど、軌道の著しい欠陥を引き起こす。
・バラスト
スリランカ鉄道本線のバラスト区間の70%以上が不適切である。爆発物が不足しているため、最近はバラストを入手するのが困難になっている。バラストの劣化や沈下を防止するため、排水の状態も改善する必要がある。
沿岸線では、レールの腐食も深刻な問題となっている。レールや橋梁のタール処理や永久固定が実施されているところである。
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