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1. ブラジル(サンパウロ)
サンパウロ地下鉄会社
Ms. Maria Beatriz Pestana Barbosa
サンパウロにおける交通の現状
 都市化の速度は遅くなったものの、市街地の隙間も埋まり、以前からの市街地では人口密度が上昇していくであろう。東南部や西部では、経済活動は依然として鉄道や道路に沿って集中しており、仕事がほとんどない地域も存在している。そのため、その地域は、労働者が帰って寝るだけの場所になってしまう。その典型的な例が、インフラが最も未整備な東部である。高所得層は伝統的に南西部に集中しているが、現在は1987年と比べて、その集中度は弱まっている。車両台数はここ数年で急増し、その結果としての交通渋滞により、一日一人当たりの移動回数は減少した(1987年の1.32回から1997年の1.21回へ)。特に低所得者にその傾向が強い。高所得者の方が移動回数が多い。自動車による移動回数を考慮すると、低所得者の6倍以上である。サンパウロ都市圏の7つの地域のうち、3地域(西部、東南部、東部)は、私的交通が公共交通を凌駕している。残りの4地域では、公共交通の割合の方が高く、サンパウロ都市圏で最も自家用車の台数の多いサンパウロ市でも公共交通が優勢なのは興味深い。バスはそれほど利用されてるわけではないものの、主要な公共交通手段であることは変わりなく、サンパウロ都市圏の公共交通による移動の75%を占めている。通勤移動数の61%は、サービス地区に向かうものであり、第三次産業が優勢な都市であることを如実に示している。通勤移動数の17%は工場労働者が占めており、工場がサンパウロ都市圏で減少していることが伺える。
 
私的交通の快適性
 
公共交通による移動は、私的交通による移動に比べて、費用は約2倍であり、速度は2.3倍遅い。
 
 私的交通の方が快適なため、次の結果を招いている。
 
公共交通による移動が減少し、私的交通による移動が増え、自動車による移動の半分は私的交通による移動になっている。
自動車所有率の増加にもかかわらず、平均移動回数は減少している。
必ずしも合法化されていないバンの相乗による移動が増加し(1987年の2万本から1997年の20万本)、バスによる移動の減少の一要因になっている。
 
 現在の交通のあり方は低所得者層に厳しいものになっている。最低賃金10よりも低い世帯の状況は次の通りである。
 
移動する機会が少ない(低所得者層のモービリティは高所得者層に比べて2.3遅い)。
移動にかける時間が長い(高所得者層よりも32%長い)。
高い交通費を払っている(低所得者層の1移動当たりの費用は、高所得者層に比べて約25%高い)。
都市の設備・サービスをあまり利用できていない(高所得者層の8分の1)。
 
So Paulo Metropolitan Region
Socioeconomic and transport indicators
1967−1997
  Reference 1967 1977 1987 1997
Population (x 1,000) 7097 10273 14248 16792
Growth rate (% a.a.) 3.77 3.33 1.66
Average monthly income per household (MW)(4) 4.7 6.9 10.5 14
_ (US$)(1) 925 1493 923 1520
Total employment rate (x 1,000) 3960 5647 6959
Total School admittance (x 1,000) 1088 2523 3676 5011
Local daily motorized trips (x 1,000) 7163 15758 18750 20620
Local daily public transport trips (x 1,000) 4894 9759 10455 10472
Local daily automobile trips (x 1,000) 2293 6240 8295 10148
Percentage of public transport in modal split (%) 68.1 61 55.76 50.79
Automobile fleet (x 1,000) 493 1384 2014 3095
Mobility rate(2) (%) 1.01 1.53 1.32 1.23
Motorization rate (%)(3) 70 135 141 184
(1) Dollar as to October 1997
(2) Mobility rate: number of motorized trips per inhabitants    
(3) motorization rate: number of cars per 1,000 inhabitants
(4) Minimum wage
Source: O/D survey    
 
サンパウロ地下鉄の構造
 1960年代半ば、サンパウロ地下鉄の初めての調査を担当したドイツのコンソーシアムHochtief-Montreal-Deconsult(HMD)は、1号線(青線)の駅の基本建設指針を作成した後、基本地下鉄網の整備を手がけることになった。第1段階のプロジェクトは、基本的にHMDチームに属するブラジル人建築家により契約がなされた。1号線(青線)の構造は、地下鉄を基本とし、他の交通機関との連絡は行わないというドイツの考え方を踏襲していた。
 
 したがって、都市部周辺との連絡は重要なことではなかった。そのため、都心部の地下鉄という構造様式が選択された。地下鉄の構造様式の転機となったのが、タイルセ駅プロジェクトであった。サンパウロ都市圏公社(Sao Paulo Metropolitan Company)の建築家チームが手がけた初めての仕事であり、HMDコンソーシアムが提示した標準との決定的な決別であった。
 
 1号線(青線)の北部区間に最近(1998年)設置された駅については、バスターミナルを併設し、当初の地下鉄実施計画が想定したように、利用者を沿線住民に限定するのではなく、複数の交通機関と連携して地域全体を対象とすることが計画された。
 
 都市環境に関しては、3号線(赤線)は先進的な取り組みを行っている。下水管を併設しただけでなく、サンパウロの東部地域の道路交通網とも密接な連携が図られている。市内バスや長距離バスと地下鉄の連絡を行うBarra Funda複合輸送ターミナルのように、複合的な構造にすることにより、様々な交通機関をまとめる役割を強化しているのが、3号線の特徴となっている。
 
 パウリスタ通り(サンパウロ市の象徴)地域の2号線(緑線)の建設は、環境や都市の対する負荷を最小限にし、付近の交通や歩行者の流れを大きく阻害しないようにして実施された。そのため、地上の活動を阻害したり、質を下げたりしないようにして地下を掘る工法が必要となった。
 
 2号線(緑線)で採用された構造様式を決定したのが、土木技術であった。1998年、2号線(緑線)の西側区間のSumare駅は、Dr Annaldo通りの立体交差の下に位置しており、その外壁はガラス板でできており、周辺の景観の中で際だつパノラマウインドになっている。
 
サンパウロ都市圏における公共交通の将来計画:2020年総合都市交通計画(Pitu 2020)
 Pitu 2020は次の2つの柱からなる。
 
1. 都市圏交通新線、新バスターミナル、計画サブシステムとの連絡駅の建設、既存線の延伸と新軌道の建設、新しい信号システムと列車制御システムの整備などにつながる様々なプロジェクトからなる(地下鉄)セクターの投資方針。
2. 財政投資を抑えるが、新サブシステムの運行とその相互接続を重視する、運輸交通の管理と運賃の方針。
 
鉄道
 鉄道網の目標は次の通りである。
 
副都心とサンパウロを結ぶ。
これまで(10億レアル/年)よりも地下鉄線の整備のスピードを速める。
既設軌道上でサンパウロ都市圏を縦断する長距離列車を共同運行し、カンピナス、ソロカーバ、サン・ジョゼ・ドス・カンポスなど近隣の商工業の中心地を結ぶ。
相互乗り入れ。地上線と地下鉄の共通区間の共用軌道を利用して、CPTMの列車システムを整備し、都市圏の周辺地域まで乗り入れる。
Congonhas、Guarulhos、Campo de Marteの各空港を結ぶ空港特別列車
 
 都市鉄道網構想は次の事項を基準とする。
 
Pituの第1フェーズに対する確定投資額を考慮すること
市システムを含む交通機関補完機能を総合システムに加えること
地方中心都市と副都心を結ぶこと
都市居住の新しい方向性を導くこと
交通需要の高い地域を優先し、大量輸送鉄道交通を活用して大気汚染を防止すること
大量輸送交通としての鉄道軌道の利用を高めること
貨物鉄道サービスを分離し、市内を横断しないようにすること
道路交通システムを十分に活用して、少ない車両でサービスの質を維持すること
公害の出さない燃料の使用を促進すること
空港と大量輸送鉄道網を高水準のサービスで結ぶこと
自動車の利用者が公共交通を利用するように、特別サービスや接続の便宜を図ること
 
道路交通
 道路交通は次のことを目標とする。
 
需要が依然として高く、今後も変わる可能性が低いことから、バスを優先すること
サンパウロ市内で中規模輸送システム、すなわちタイヤ式軽量車両(LVT)と鉄道と連絡する専用ルートを導入するとともに、広域都心ゾーンにはマイクロバスを運行すること
道路の加工(溝または準溝)を加えた専用システムを整備し、地下鉄に先行するシステムの今後の導入に備えること
地域の各交通機関を連携・統合するバスターミナル
 
道路インフラ
 Pitu2020は、道路輸送量の増加、道路の断絶の解消、踏切の廃止を通じて都市圏道路システムの拡大を想定している。相互乗り入れや公共交通の統合により、都市圏内外の統合を促進することも目指している。
 
 以上の基本的なインフラの他にPitu 2020が提案しているのは、Rodoanel道路の完成、環状ルートの活用した優先交通環状線の実現である。これは、サンパウロ市内の道路網は放射状になる傾向があるが、これを緩和することを目指したものである。
 
統合ターミナル
 Pitu2020は、現行とは異なる車による移動を想定したインフラを計画している。主要回廊、地下鉄駅、地上線の駅、中規模輸送システムなどの近くに駐車場を整備し、自動車の利用者が公共交通を利用して都心部へ行けるようにする、自動車と公共交通の統合を提案している。
 
交通運輸行政
 自動車の利用を規制し、公共交通の利用を促進する政策を提案し、交通困難がすでに見られる地域の渋滞を緩和する。
 
交通制御システムの常時活用と改善
専用駐車スペースを民間の駐車スペースで代用、カーブでの駐車の禁止
市中心部の駐車料金について参考最低額を決めるとともに、できれば公共交通投資にリンクさせること
あらかじめ決めた日、時間帯には、広域都心ゾーンへの進入を有料にすること
適切なバス運行スケジュールを実現するための日常的な取り組み
マイクロバスによる循環路線の整備による、広域都心ゾーンへのアクセスの向上
 
補足的な取り組み
交通と都市環境に対する総合的な取り組み
公共交通周囲の都市環境に関する取り組み、境界線地域の整備、余暇活動等に公共交通を活用
ターミナルおよびマイクロバス回廊の景観美化
 
交通システム管理のための提言
 
新プログラム(都市交通局が活用している「inspector user」等)や、料金、補助調査などを通じた交通システムの業績監視
車の流れのパンクチュエーション・システムや公共交通利用者測量による都市圏道路網の管理、移動時間により以前に設定したルート、中規模輸送システムおよび大量輸送システム利用者数の計測等
 
制度面・政治面に関する提言
共同管理システムを伴う政府統合
政府と民間部門の連携
利用者のニーズと利用可能な技術に基づいた新サービスの提供を伴う交通商品の柔軟性
定期的な見直し、プロジェクト選別、評価システム、実施フォローアップを伴う立案プロセスの確立
システム・ファイナンシングの規制メカニズムに関する研究







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