日本財団 図書館


海外運輸 2002年2・3月/4・5月
 
<トピックス>
1. ブルガリアの「ソフィア地下鉄拡張計画」(円借款)について
 我が国政府は、ブルガリア共和国政府に対し、「ソフィア地下鉄拡張計画」のために128億9,400万円を限度とする円借款を供与することとし、このための書簡の交換が2月4日行われた。
 
「ソフィア地下鉄拡張計画」
(供与限度額:128億9,400万円)
 ソフィア市の既存地下鉄路線(現第1から7駅)を延長することにより、交通渋滞緩和および交通システムの効率化を図るもの。ソフィア市は、第7から16駅区間の延長を計画しており、うち円借款対象区間は、ソフィア市が経験のないシールド工法を必要とする市の中心部に位置し、首都中枢機能が集中する第7から9駅区間を対象とする。残りの区間については市の負担により建設される予定である。
 
本件円借款の意義
 ブルガリアは、我が国との関係を「相互信頼の関係」と位置づけ、我が国をEU(欧州連合)諸国や米国とともに重要な国として政治、経済、文化等のあらゆる分野において、二国間関係の発展に努めている。
 ブルガリアは、南東欧地域の安定なしに繁栄はないとの立場から、コソボ問題への対応を含め、南東欧地域の平和と安定のために積極的に尽力しており、同国の発展および安定は、同地域の平和に大きく貢献する。
 自動車数の増加による交通渋滞および市内交通システムの老朽化の問題を抱えるソフィア市は、地下鉄を中核とした市内公共交通システムの再構築を最大の政策課題としており、本案件は同市の都市機能の充実を図るとともに、地下鉄事業に係る経営改革支援にも大きく資するものである。
 
 円借款の供与条件は次のとおりである。
(1)金利:年2.2%(コンサルタント部分については1.8%)
(2)償還期間:30年(10年の据置期間を含む)
(3)調達条件:一般アンタイド
 
 今回の円借款の供与により、これまでに我が国がブルガリアに対して供与した円借款の総額は、400億7,400万円となる。
 
2. インドの「デリー高速輸送システム建設計画(III)」(円借款)について
 我が国政府は、インド政府に対し、継続案件である「シマドリ石炭火力発電所建設計画(III)」および「デリー高速輸送システム建設計画(III)」について、総額561億3,200万円までの円借款を供与することとし、このための書簡の交換が、2月12日行われた。
 平成10年5月のインドによる核実験実施以降、我が国はODA(政府開発援助)大綱に基づく対インド経済措置の一部として新規円借款を停止したが、核実験実施以前の目印政府間の合意取決めにより既に実施中の継続案件については、経済措置の対象としておらず、追加的資金需要が生じる場合には、「ケース・バイ・ケースかつ限定的に円借款実施の可否を判断する」こととしていた。
 これら継続案件である「シマドリ石炭火力発電所建設計画」および「デリー高速輸送システム建設計画」については、既に追加的資金需要が発生しており、これらに対する円借款を継続実施しなければ、これまで供与された円借款により行われてきた工事等が無駄になり、ひいてはこれらの計画に関与している本邦企業等にも大きな損害を与えるおそれがあることに鑑み、これらの計画の継続実施のため、早急に第III期分の追加的円借款を供与する必要性が生じている。
 今回円借款を供与する2案件はいずれも1996年度に第I期分として、2001年度に第II期分として供与した円借款資金により既に工事が実施されている継続案件である。第I期分および第II期分の資金のみでは近日中に資金不足により工事が中断し、これまで行ってきた工事等(我が国からの借款供与)が無駄になり、これら計画に関与している企業等にも大きな損害を与えるおそれがあることから、本計画を完成させるため、今般円借款を継続実施することとしたものである。
 
 なお、今般の円借款の供与対象案件のうち運輸関連案件の概要は次のとおりである。
 
「デリー高速輸送システム建設計画(III)」
(供与限度額:286億5,900万円)
 
事業の背景と必要性
 インドでは近年、産業構造の高度化に伴い、大都市へ人口が集中したほか、自家用車の普及が急速に進んだため、大都市の交通混雑が激化し、公共交通機関の整備の遅れが問題となっている。また、自家用車の増加に伴い、排気ガス等による交通公害の発生などの環境問題が深刻になっているが、今後も自動車の増加は避けられず、環境保全対策の検討が急務となっている。本事業が実施されるデリー市において、鉄道は従来から長距離輸送に重点が置かれてきたことから、郊外と市の中心部を結ぶ近距離鉄道や市内の鉄道網の整備が不充分である。そのため、交通手段はバスや自家用車に頼らざるを得ない状況となっており、増加する自家用車のため道路は慢性的な渋滞におちいっている。かかる状況下、交通混雑を緩和すると共に環境への負担が少なく、時間に正確で効率的な大量高速輸送システム構築が必要とされている。
 
事業の目的と概要
 本事業は同国の首都デリー市に、地下鉄及び高架・地上鉄道による総延長約198km大量高速輸送システム計画のうち今回52km分を建設することにより、交通混雑の緩和と交通公害減少を通じた都市環境の改善を図ることを目的とするものである。交通混雑の緩和と排気ガスなど都市交通公害減少に寄与し、デリー市の都市機能を向上させる上で、大きな役割を果たすことが期待される。
 
 円借款の供与条件は次のとおりである。
(1)金利:年1.8%
(2)償還期間:30年(10年の据置期間を含む)
(3)調達条件:一般アンタイド
 
3. フィリピンの「次世代航空保安システム整備計画」他の円借款について
 我が国政府は、フィリピン共和国政府に対し、724億8,700万円までの第25次および特別円借款を供与することとし、このための書簡の交換が3月26日に行われた。
 今次円借款においては、我が国の対フィリピン国別援助計画(1999年8月策定)に言及されている4つの重点分野(持続的成長のための経済体質の強化および成長制約的要因の克服、格差の是正;貧困緩和と地域格差の是正、環境保全および防災対策、人材育成および制度作り)における支援を行うこととしている。
 
 なお、今般の円借款の供与対象案件のうち運輸関連案件の概要は次のとおりである。
 
通常円借款
「次世代航空保安システム整備計画」
(供与限度額:220億4,900万円)
 
 フィリピンでは、航空輸送の国内全輸送に占める割合はまだ相対的に小さいものの、堅調に増加している(1991〜1998年平均増加率:旅客4.7%、貨物12.5%)。航空輸送は、そのスピード・定時性・快適性等から経済発展の条件のひとつとして認識されており、7,000以上の島々からなる同国では、経済成長・所得向上に伴い、旅客・貨物両面において益々重要な役割を担うと見込まれている。
 フィリピンの航空保安については、比政府は従来から施設の近代化に努めてきたものの、必ずしも国際標準(国際民間航空機関(ICAO)の標準)を満たしていない。航空輸送にとって安全性の確保は最も根源的な必要要件であり、アロヨ政権の掲げるフィリピン中期開発計画(2001〜2004年)でも、航空保安および通信施設の近代化、防災能力の向上を政策目標としている。中でも航空管制については、現在、ICAOの主導により世界各国において2010年までに衛星を主体としたものへ移行がすすめられており、これに対応すべく、同中期開発計画においては、次世代航空保安システム(新CNS/ATM)への移行が目標として掲げられている。今後、一層の需要増大が見込まれるフィリピンの航空輸送の安全性を国際標準に高めるためにも、ICAOの提唱する衛星主体の航空管制(新CNS/ATM)の整備を推進していく必要がある。
 本計画は、ICAO基準に則ってフィリピン全土の新CNS/ATMを整備することにより、通信・航法・監視の各システムの強化・改善、および航空交通管理の自動化(含気象システム)を実現し、フィリピンの航空運輸システムの安全性・信頼性・効率性の向上を図ることを目的としている。借款資金は、資機材調達(建設・設置工事含む)およびコンサルティング・サービス(調達補助、施行監理、運営支援等)に充当される。
 
特別円借款
「海難救助・海上汚染防止システム増強計画」
(供与限度額:93億5,600万円)
 
 フィリピンは、7,000以上の島々から構成される島嶼国家という地勢的特徴から、その経済活動や社会生活を海上輸送に大きく依存しており、国内旅客、貨物輸送に占める内航海運の割合がそれぞれ約76%(2000年:道路除)、約46%(2000年:道路含)と、内航海運の果たす役割が相対的に大きい。また、フィリピン近海は、国際的に重要なシンガポール・マラッカ海峡を経由し欧州・中近東と日本・韓国等の北東アジア地域とを結ぶ主要航路上の中間に位置しており、東アジア地域の国際貨物船(特に燃料用タンカー)の多くが運航行する世界有数の輻輳海域となっている。
 海上交通量の増加に伴い、油濁事故を含む海難事故の発生率も高く、これら海難防止および海難が発生した際の救助システムの整備が急務となっている。同国は、船舶の運航数が多いこともあり、1996年〜2000年に年平均110件の海難事故が発生している(事故の通報があったもののみ。未通報の軽微な事故は含まれない)。
 しかしながら、同国における海難救助対策および設備が不十分であるため、その約4割に対してしか救助活動を実施できていない。また、多様な海洋資源を有するフィリピンにとって油濁事故も大きなリスクの一つであるが、油濁事故が1989年〜1998年に年平均10件報告されているのに対し、これらも設備・制度の未整備により迅速かつ適切な対応が極めて困難な状況となっている。
 上記の現状を踏まえ、フィリピンの海運セクターにおいて海上の安全確保、事故時の対応、海洋環境保護維持、および海難・油濁事故対策は最も重要な課題であるといえる。
 本計画は、同国の主要な海難事故・海上汚染事故発生海域の拠点近くの港に油濁回収機能を有する防災船(多目的対応船)7隻を調達し・配備することにより、海難・海上汚染油濁事故防止および同事故への対策を強化し、海上交通の安全性向上、ひいては海上物流の効率化に寄与することを目的としている。
 借款資金は油濁回収機能を有する防災船(多目的対応船)の調達、およびコンサルティング・サービス(基本設計、調達補助、防災船乗組員のトレーニング等)に充当される。
 
借款金額及び条件
案件名 金額
(百万円)
金利(%) 償還期間(年)/据置期間(年) 調達条件
本体 コンサルティング・サービス 本体 コンサルティング・サービス 本体 コンサルティング・サービス
次世代航空保安システム整備計画 22,049 2.2 1.8 30/10 30/10 一般アンタイド 一般アンタイド
海難救助・海上汚染防止システム増強計画 9,356 0.95 0.95 40/10 40/10 日本タイド 二国間タイド
 
4. ヴィエトナムの「タンソンニャット国際空港ターミナル建設計画」(特別円借款)について
 我が国政府は、ヴィエトナム社会主義共和国政府に対し、同国の経済社会開発および市場経済化努力を支援するため、総額675億1,000万円までの円借款を供与することとし、このための書簡の交換が3月28日に行われた。
 今回のヴィエトナムに対する円借款は、2000年6月に策定された対ヴィエトナム国別援助計画や2001年8月に両国間で行われた経済協力政策協議の結果等に基づき、運輸・電力分野における経済社会インフラ整備のため「オモン火力発電所およびメコンデルタ送変電網建設計画(第二期)」、「ハイヴァントンネル建設計画(第三期)」、「紅河橋建設計画(第二期)」、「サイゴン東西ハイウェイ建設計画(第二期)」、「タンソンニャット国際空港ターミナル建設計画」を対象とした。
 
 なお、今般の円借款の供与対象案件のうち運輸関連案件の概要は次のとおりである。
 
特別円借款
「タンソンニャット国際空港ターミナル建設計画」
(供与限度額:227億6,800万円)
 
 ヴィエトナムにおいては、1986年以降の市場経済化に伴う経済成長、輸出・外国投資の増加を背景として、航空輸送量は旅客・貨物とも堅調に増加している。ヴィエトナムの経済の中心都市であるホーチミン市に位置するタンソンニャット国際空港は、同国の国際航空旅客数のシェアの75%以上を占め、ホーチミン市のみならずヴィエトナムのゲートウェイ空港として重要な役割を担っており、その航空需要は今後ますます増加すると見込まれる。
 ヴィエトナム航空当局は航空需要の増加に対応するため、90年以降継続してタンソンニャット国際空港のターミナル整備を行ってきており、2000年時点での旅客取扱能力は国際・国内線合わせて年間500万人となっている。しかしながら2003年には旅客数が509万人となり、現行ターミナルの容量に達すると見込まれる一方で、既存ターミナルの拡張が困難なことから、既存ターミナルを国内線専用とし、新たに国際線旅客ターミナルを建設する必要が生じている。
 本計画は、タンソンニャット国際空港において、新たに国際旅客ターミナルを建設することにより、増加する旅客需要に対応するとともに航空サービスの利便性・効率性を図り、ひいてはホーチミン市及びヴィエトナム全体の持続的な経済社会開発に資することを目的とする。本計画で建設する国際旅客ターミナルビルは、2015年の航空旅客需要に対応するものであり、ターミナルビルに付帯する設備については、将来の追加整備が可能であることを考慮し、2010年までの需要に対応する規模とする。
 借款資金は土木工事、資機材の調達、およびコンサルティング・サービス等に充当される。
 
特徴
 ヴィエトナム経済への景気刺激効果、雇用促進効果及び物流の効率化等民間投資環境の改善効果等を十分に考慮し、1)屋内空間の有効利用に配慮した旅客ターミナルビルの工法、2)信頼性の高い電気設備工事、3)手荷物処理システム、フライトインフォメーションシステム等特殊機器の製造・設備工事等我が国の技術が活かせる案件として特別円借款の対象となったものである。本借款供与により、ヴィエトナム南部のゲートウェイ空港であるタンソンニャット国際空港の旅客取扱能力の拡大、空港施設利用者の利便性及び安全性の向上、ホーチミン市及びヴィエトナム全体の人的・物的な移動促進による社会・経済の発展が期待される。
 
 円借款の供与条件は次のとおりである。
(1) 金利 年0.75%(コンサルタント部分)
      年0.95%(本体部分)
(2) 償還期間 40年(10年間の据置期間を含む)
(3) 調達条件 日本タイド(監査部分を除く)
(4) その他 調達プロセスの公正性、競争性を確保するため、調達手続について借款資金を活用し、第三者機関等による定期的・事後的監査を実施する。
 
 なお、今回の円借款の供与により、我が国のヴィエトナムに対する円借款の総額は、7,363億300万円となる。
 
5. ユーゴスラビアの「ベオグラード市公共輸送力復旧計画」(無償資金協力)について
 我が国政府は、ユーゴスラビア連邦共和国政府に対し、「ベオグラード市公共輸送力復旧計画」の実施に資することを目的として、18億5,000万円を限度とする額の無償資金協力を行うこととし、このための書簡の交換が、4月12日に行われた。ユーゴスラビアでは、2000年10月、約10年間にわたって南東欧地域最大の不安定要因となってきたミロシェビッチ政権が崩壊し、民主的なコシュトゥーニツァ新政権が誕生、経済改革に着手した。しかしながら、長期にわたる旧ユーゴ紛争および国際社会の経済制裁に加え、1998年のコソボ問題の拡大および1999年のNATO(北大西洋条約機構)による空爆もあり、ユーゴの経済の疲弊は著しい。
 また、同国の首都ベオグラード市では、経済の著しい疲弊が市民生活を圧迫していることに加え、近隣のクロアチア、ボスニア、コソボ等から難民・国内避難民が流入し、難民・国内避難民を含めた一般市民は苦しい生活を余儀なくされている。このため、同市では安価な移動手段であるバス交通の利用が増加しているものの、同市の公共交通機関を運営しているベオグラード市公共輸送公社は、財政難のためバスの新規購入や必要な維持管理も困難な状況にあり、保有するバスの台数は大幅に減少し、現有のバスも老朽化が進んでいる。このため、ベオグラード市のバス交通は公共輸送機関として、最低限必要なサービスを提供することが困難な状況にある。
 このような状況の下、ユーゴスラビア政府はベオグラード市内に多く居住する難民・国内避難民を含む市民の日常の足であるバス交通の輸送力、特に利用者が集中する市街地の8路線の輸送力を確保することを目的とした「ベオグラード市公共輸送力復旧計画」を策定し、この計画を実施するためのバスの購入に必要な資金につき、我が国政府に対し無償資金協力を要請してきたものである。
 コシュトゥーニツァ政権誕生後、国際社会は同国の民主化、国際社会への復帰に向けた努力を支援することを表明し、昨年6月には支援国会合が開催された。今回の無償資金協力は同会合において我が国が表明した、最大で5000万ドルの無償資金協力からなる支援パッケージの一環として供与するものである。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION