日本財団 図書館


平成14年度物流講演会
厳しい時代を生き抜くためのリーガルマインド
東京弁護士会所属 弁護士
阿部 三夫氏
 
日時・・・平成14年11月13日
場所・・・熊本センターホテル
主催・・・(財)九州運輸振興センター (社)熊本県トラック協会
 
第1 はじめに〜会社法改正ラッシュ
 ご紹介いただきました弁護士の阿部でございます。
 本日のテーマは後で考えますと、大変羊頭狗肉の感じがして、ちょっと、内心、忸怩たるものが、こざいます。
 また、先程、今日お見えになってる皆様方のどういう業界からお見えになってるのか伺いましたところ、それこそいろんな運輸関係の方、多種多様な方がお見えになってると伺いました。
 実は今日のお話の元になる原稿は、日本倉庫協会の機関誌に載せた原稿が元になっておりまして、ということは、倉庫を念頭においた作文がベースになってるわけです。そういうことで、やや話が偏る面があるかもしれませんが、ひとつご容赦いただきたいと思います。
 最近、会社法、商法のうち商法会社編、会社法の改正がめまぐるしく行われています。この5年ほど逆のぼってみましても、平成9年には会社の合併の簡素化、簡単に合併できるような改正。それから、役員、職員に、やる気を起こさせるためのストック・オプションの制度。
 平成11年には、株式交換制度、あるいは株式移転制度という、それまで全くなかった仕組みが作られております。これは比較的最近の銀行の統合などでも、こういう仕組みが使われているようでございます。
 平成12年には、会社分割制度というものが作られております。これは従来は営業譲渡とか合併とか、既存の仕組みだけではうまくいかないというもののために、新たに会社分割制度という制度を作ったものでございます。
 それから、去年は3回にわたって改正が行われております。
 最初は6月末に公布されて、10月から施行されてるやつで、金庫株の解禁、要するに自己株式の取得を自由化するということです。今までは額面株式制度が結構多かったと思うんですが、それを廃止するという、かなり抜本的な改正だと思います。それから株式の併合とか分割を自由化した。
 2回目の改正は、主として新株式発行についての規制の緩和です。それから会社関係の電子化。
 
平成9年改正: 合併の簡易化
ストック・オプション制度
平成11年改正: 株式交換・株式移転制度
平成12年改正: 会社分割制度
平成13年改正 (6月29日公布、10月1日施行)
金庫株の解禁
額面株式の廃止
株式の併合・分割の自由
単元株制度の創設
その他 法定準備金の減少等
平成13年改正 (11月28日公布、14年4月1日施行)
新株発行規制の見直し(緩和)
種類株制度の改正
新株予約権の発行手続の改正
新株予約権付社債
会社関係書類の電子化
その他
平成13年改正 (12月12日公布、14年5月1日施行)
監査役の機能の強化(任期・社外・意見陳述権等)
取締役・監査役の責任軽減
株主代表訴訟制度の見直し
平成14年改正 (5月29日公布)
種類株主の取締役等の選解任権
重要財産委員会制度
委員会等設置会社
その他 大会社についての連結計算書類の導入等
 
 3回目の平成13年12月12日に公布された改正では、監査役の強化というのが大きな眼目として行われております。任期が3年から4年に延びたとか、社会監査役を何人置かなきゃいかんとか。それから監査役に意見陳述の権利を与えるというような、監査役の機能とか権限を強くするという改正が行われています。一方では、これに相反するとの見方もできるんですが、取締役と監査役の責任を軽減するという制度も併せてなされました。去年でしたか、銀行の取締役が何百億という損害賠償をせよという判決が、裁判所でだされました。そんな判決をだされたら、とてもかなわんということで、一定の年収の6:4:2、社長は6年、一般の役員は4年、社外役員は2年というふうに責任の限度額を定めるという改正が行われております。それに関連しまして、株式代表訴訟についても制限する方向へ改正がなされております。
 で、これが本年の5月1日付けで施行されていますが、本年の5月29日にはさらに改正が行われまして、従来とまったく違う内容が盛り込まれたのは、委員会等設置会社という概念を作りまして、そういう会社では監査役を置かないと。さっき申し上げたように監査役の強化というのは今まで一貫してなされてきたんですが、それとはまったく方向の違う、監査役を置かない。その代わり、取締会の中に3つの委員会を作る。そのうちのひとつが監査委員会、つまり取締が監査をするというアメリカのやり方です。そういう仕組みを会社の選択でとることができるという枠組みを作ったわけです。
 
会場風景
 
 大会社については連結計算書類の導入などの仕組みも行われています。
 それから先程の委員会等設置会社とは違うんですが、重要財産委員会制度、これは一般の会社でもできるんですが、従来取締役会で決めていたことの一部をこの委員会の権限におとすというような改正が行われています。
 このように、この5年をとってみても、めまぐるしく会社法の改正が行われているんですが、この狙いは大きく分けると2つあると思います。いわゆる、グローバリゼーションとか、IT化とか、そういう流れでございます。
 もうひとつはですね、コーポレイトガバナンス、企業統治といいましょうか。このところ、5年、10年、企業の不祥事が相変わらず続いている。これを何とかなくそうと、企業の経営を何とか、透明化あるいは公正化していこうという企業統治、コーポレイトガバナンス、そういう方向からの改正と、大きく分けて2つの流れからの改正だろうと思っております。
 まず、こういう厳しい世の中で、取引を開始する時どうしたらいいかということからお話したいと思います。
 
第2 取引を開始するとき
1. 契約書の作成
・極力契約書を作る
・定型的な書式を作っておく
・必要に応じ期限の利益喪失約款等の規定を設ける
・標準約款で足りる事項については、「標準約款による」旨を明記する
 先ず取引開始の際の留意点ですが、極力、「契約書」を作成することです。契約書はトラブルが発生した時には非常に役に立ちますが、経験上申し上げますと、契約書が不備のケースが少なくありません。契約書が全くないこともあります。取引毎に逐一契約書を作ることは大変ですが、取引の流れはおよそ類似しているので、予め定型的な契約書の書式を作成しておき、取引き毎の特記事項だけをその都度付加させれば良いと思います。倉庫業者には「標準倉庫寄託約款」があり、自動車貨物運送事業者には標準貨物自動車運送約款があるので、標準約款で足りる部分は「標準約款による」と記載すればよく、契約書を作成することは、さほど難しい作業ではありません。ですから、本当に決めておきたいことだけを始めに記載し、後は「標準約款による」とすれば、おそらくA4の紙一枚程度に収まるのではないでしょうか。また、海上貨物運送事業については、内航、外航とも、定型的な契約書式が用意されておりますので、特記事項があれば特約として規定しておけばよいわけです。
 ただし、その場合にも注意すべき事項があります。それは債権の弁済期です。弁済期が来なければ請求はできませんし、後で述べる留置権の行使もできません。そこで、例えば、相手が経営危機に陥った場合には、弁済期の期限の利益を喪失するという「期限の利益喪失約款」を入れておくことが重要です。弁済期の到来していない債権は請求することができませんから、この条項を入れておかないと、相手荷主が経営危機に陥った場合でも「まだ弁済期が到来しない」という事態が生じ、荷主への請求が不可能になります。それどころか留置権の主張すらできません。相手の経営状態が危ない時、危なくなった時には、「期限の利益を失う」という条項を入れておくことが、特に倒産時の対策に非常に有効となります。
 では、通常どのような場合に「期限の利益を失う」ことになるのでしょうか。具体的には、荷主が「保管料あるいは(月締め)運賃の支払いを一回あるいは二回怠った時」(一般的には二回が多い)、「不渡手形・小切手を出した時」、「仮差押・仮処分を受けた時」、「差押えを受けた時」「民事再生・破産・会社更生の申し立てがあった時」などです。このような定型的事項が発生した場合には、「期限の利益を失う」という条項が非常に大事になります。繰り返しますが、この条項がなく弁済期がきていない場合には請求ができないのは当然として、留置権の主張もできないことになります。契約書作成の際はこの条項だけは忘れずに入れておいて下さい。
 
九州運輸局 齋藤海運本部長ごあいさつ







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION