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ブレイクタイム
九州運輸局鹿児島運輸支局長 大瀬 明広
 
「かごしま山ある記」
 鹿児島県の山は、九州最高峰の宮之浦岳や永田岳など2000m級の山から手軽に楽しめる山まで比較的近場に点在しており、ほとんどの山には、中腹または山頂近くまでは林道が通じ、うまく林道を利用すれば日帰りないし1泊の充実した山行きを計画することができる。酒席で同僚のAさんから山歩きの失敗談が語られ、何の弾みかトントン拍子に山歩きが決まった。休日の過ごし方を模索している単身赴任族にとっては、絶好の時間つぶしである。ずいぶん前には大分県の九重山群を歩いたことがあり、機会があれば鹿児島の山も是非歩いてみたいと願っていたのであるが、足の確保ができないために半ば諦めていたところである。いつもアルコールが抜けない身体を健康体に取り戻すチャンスと、張り切ってチャレンジした。目指す山は、鹿児島市の北に位置し、市街地から車で約1時間半のところにあり、わが国で最初に国立公園に指定された霧島屋久国立公園にある韓国岳とならぶ霧島連峰の主峰「高千穂の峰」(1524m)に決定。山頂の天の逆鉾と天孫光臨の伝説で登山客に親しまれている高千穂峰は、東に二つ石、西の御鉢(おはら)の側生火山をかかえるコニーデ型の休火山で、その秀麗な山容は遠方からでもひと目でわかる。
 
 当日は快晴の中、総勢9名で3台の車に分乗し、一路霧島に向け出発。途中、天孫光臨の神話で知られニニギノミコトを祭る霧島神宮で安全祈願を終え、登山口の高千穂河原駐車場に到着。管理事務所の係りから、「登りよりも下りが危険であり、年間4〜5名の登山者がヘリコプターに救助される事故が発生している。」などの注意を受け、快適な山歩きを願いながら山頂に向けて歩き始めた。しばらく石畳の自然歩道を上ると、灌木が多い道からガレ場の急坂になり、登山靴でも土砂が入る難所にさしかかる。一時間弱で御鉢(1186m)の火口縁に着くと展望が開け、中岳などの山々が見わたせる。しばしの休憩となり、行き交う人との「こんにちは」「おつかれさん」「もうすぐですよ」など、山ならではの挨拶に元気を取り戻し、北側のいわゆる馬の背越を通り、御鉢と峰の鞍部、背門丘(せとお)から再び急なガレ場を40分位歩くと目的地の山頂である。
 
親父山
 
 屹立した山頂は思ったより広々とし、霧島神宮の上宮として山小屋がある。山歩きのクライマックスは、なんといっても頂上に立つ瞬間といえるだろう。いままでの苦しかったことや登り終えた充実感など、実にすがすがしい気分が味わえる。山頂からの眺望は抜群であり、そこには見事な360度の大パノラマが広がり、霧島連山のほか桜島や遠くには市房山を望むなど、素晴らしい景色を堪能することができ、筆舌には尽くしがたく山歩き冥利に尽きる。山頂での昼食は、定番のおにぎり弁当に即席ラーメンやコーヒーなどを沸かし、談笑のなかでの食事は豪華レストランのどんなフルコースより美味であり、至福のひとときでもある。長い休憩の後、身支度を整えて下山開始。山歩きのもう一つの楽しみに、下山後の温泉浴がある。 鹿児島県の各山麓には温泉が湧き、汗にまみれた山歩き者にとってはなによりもありがたい。霧島で唯一の天然泥湯で、若い娘さんに人気のある温泉に立ち寄った。少しぬるめであるが、優しい乳白色の硫黄泉に手足を伸ばしてゆったりと浸っていると、疲れた身体を心から癒してくれ、えも言われぬ気分である。同僚のOさん、Hさん、Mさんと、どの顔にもほのかな安堵感が漂っており、山歩きの楽しみを十分満喫できた顔である。心地よい気分での帰路の途中、霊験あらたかな霧島山麓のわき水をお土産に一日を無事終え、感謝、感謝である。
 
ポークたまごおにぎり(おにポー)
フライパンで焼いたポークと卵焼き、サラダの組み合わせ。
 
高千穂の峰
 
 その後、この山歩きに魅了され、開聞岳、韓国岳、宮崎県の扇山・霧立越などを、気心しれた仲間と山頂に立てたことは、その時々に、鹿児島での楽しい想い出である。
 とくに同僚のMさんは、いつも山頂一番乗りでその健脚には驚かされた。またMさんのリクエストによりHさんの奥様がつくられる沖縄の「おにポー」は絶品で、毎回多めにつくられて、同伴した単身赴任者の夕食と翌日の朝食にと気配りをいただき、大変有り難く、ひそかな楽しみでもあった。 山歩きの発案者であるAさんの転勤により少し遠ざかっているが、新緑の頃には再び山歩きを計画したい。
 
高千穂河原
 
 「貴方も、心地よい森林浴とすがすがしい気分が味わえ、ストレスを発散してくれる山歩きをはじめませんか」
 







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