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 日本の社会は歴史的にみてもユニークな社会です。いかにヒトと情報の流れ、モノの流れを阻害するかというのが、歴史的な国土作りでありましたから、大井川に橋を架けないとか、できるだけたくさん関所を設けてヒトとモノの流れを阻害するということが、地域を守るという国家戦略でした。ですから、モビリティということに関して日本は元々非常に下手な国だったと思います。
 先進国の中でいろんなモビリティの比較をしているのですが、アメリカはいくつ空港があるか分からないくらい、日本のおそらく数十倍くらい空港がありまして、個人で飛行機を持っている人の数はケタ違いに多い。アメリカでは主要企業でビジネスジェットを持っていない企業は少ないのではないかと思いますが、日本では主要企業でビジネスジェットを持っている企業は未だに非常に少ない。ですから、都心から離れた空港にあまり文句がでないのかもしれません。IBMが世界の子会社の会議を東京で開くといった場合に、世界各地の子会社の人達が「ビジネスジェットで乗り入れる空港はどこだと、成田か羽田か」と聞いたら、「成田と羽田はいっぱいなので新千歳空港におりてくれ」、「新千歳というのは千葉県にあるのか」と聞いたら、「北海道にある」と言われた途端、「じゃあ香港でやります」と国際会議が香港に移ったという話があるくらいです。
 
会場風景
 
 高速道路も、よくオランダと九州が似ているという話がありますが、高速道路のネットワークそのものもケタ違いですが、高速道路でお金をとられるという意識もあまりないのが欧米諸国です。100km、200kmはその日のうちに遊びにいく距離のような感じがします。テキサスに行った時に、ロデオを見に行こうと言われて、車で10分、20分でいける所にあるのだろうと思いましたら、150km先のところ、それを車で1時間くらい高速道路で行くのです。日本では往復するだけで高速料金、なかなか高いのですが、欧米ではそういう利用の仕方もあるのだなと思いました。
 ですからモビリティの変化というのが、新しいビジネスの多くを生み出してきているわけです。通信なども郵便から始まり電話になって、ラジオになってテレビになる。そして今、パソコンや携帯電話を活用したインターネットを利用しているわけです。これは基本的には情報のモビリティをいかに高めるかということでした。この仕組みを作り上げるのが日本は大変下手である。携帯電話を作る能力はおそらく世界で最も高い国、軽薄短小な製品をつくるのが得意な国なのに、今や携帯電話の市場で日本の企業のマーケットというのは、ごくわずかになってしまっている。これはDocomo方式という世界のどこも使っていない方式にこだわったということもありますし、携帯電話の認可が非常に遅れた、普及が遅れた。未だに携帯電話の普及率、全世界で較べると確か上位20位には入っていないはずです。一方、世界で最も普及率の高かった、いち早く携帯電話の社会制度を作り上げた人口500万人のフィンランドでは、世界No1のノキアが立ち上がっていったわけであります。
 そういったモビリティをめぐる社会制度とインフラ整備と、それを使う機器産業とが連動して、いち早く世界のモデルになるようなものを作り上げていくというのが資本主義の発展で、日本はそれを作り上げていくのが大変下手な国です。未来に向けてのハイモビリティという観点が、日本は非常に歴史的に弱くて、そのツケをずっと払ってきている。航空も言わずもがなですし、鉄道の話は、恐らくは世界で線路を二回引き直している国は日本だけではないか。ヨーロッパに行きますと電車が走っているところは標準軌ですので、TGVを簡単に走らせることが出来る社会資本があるわけです。日本は狭軌で引いてしまいましたので、二回社会資本整備をしている、明治維新を二回やってるわけですから、これはたまりません。
 空港ももうほとんど作らないという話なのですが、世界に冠たる航空ネット網があるのかと。確かに福岡〜羽田は世界第二位の旅客数で、新千歳〜羽田が世界第一位の旅客数。世界第一位と世界第二位はこの日本にあるにもかかわらず、日本は今や航空機を一機も作ることが出来ない航空機産業後進国になっているわけです。何とか小型機を作りたいという話で、三菱重工あたりがチャレンジするという話を聞いておりますが、小型機の需要はことごとくないわけです。なぜならば羽田空港が容量限界、福岡空港が容量限界でジャンボを飛ばすしかありません。ということで近距離便にジャンボをたくさん飛ばしているという、いびつなネットワークになってしまった。欧米で大型飛行機というと、B767どまりです。ジャンボを国内線で使ってるところは日本だけと言ってもほぼ間違いないと思います。
 ともかく世界のモビリティの仕組みと非常にずれたやり方を、我々はしてきましたので、そのつけを大いに払っているということであります。
 そういったモビリティの変化が国の政策として非常に重要なのですが、上手くこれを産業化に結びつけることが出来ないでいる。今、情報化というのも、いち早く機器産業だとかコンテンツを作り上げるということと、世界市場と密接に結びついているわけですね。ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line=非対称デジタル伝送方式)がいち早く普及した韓国の仕組みが、アメリカでいま新しい対戦型ゲームで普及しはじめている。マーケットが先に生まれてしまうわけなんです。日本の場合にはISDN(Integrated Services Digital Network=総合デジタル通信サービス網)というよくわからない、世界に通用しない仕組みでやってしまっている。私の所でも二重投資をしなくてはならなかった。そういう問題があるということです。
 人口・人口構造の変化でいえば、2007年くらいから日本の人口は減ってきますし、高齢化が進むのも事実ですし、それと産業構造の変化が同時に進みますし、グローバリゼーションで輸入の増大というのが起こってくると、2015、2030、2050年の人口分布、地域の産業構造、これは大体どうなっているかということは大枠で理解するということは十分できるわけです。
 そうすると、そういうところの残されてくるネットワークをきちんと強固にしておくということが、社会整備においても重要になってくるのではないかという気がします。今までの、人口は増えていく、工業用地が足りない、工業設備が足りない、農業用地は増えていく、住宅が足りないという時代とは反転する。国土計画、地域計画ではまだこの点に対する認識が足りないし、事実を正確に把握しようということも行われていないということです。
 農業用地がどういうふうに減るのかということを、せめてブロック別でもいいから出してくれないかと言うと、それすら出せないと言うのですね。それを出してしまうと、例えば北海道の○○町は50年後に農業用地が半分になると出た途端、北海道の農業予算はいずれは半分に、3分の1に減らされるのではないかと、現時点で見えてしまうわけですから、そんなことは出来ないと、既得権益の守りあいになる。だったら、むしろ、九州・山口経済連合会のようなところが同じ議論をした方がいいのではないかということで、今までは財界の役割もどちらかといえば、地方自治体が作った計画にのって一緒にやるという話をしてきたんですが、もはやこれから先は生き残っていく地域をどうするのか、生き残っていく産業を更に伸ばすにはどうしたらいいのか、そのために阻害要因になってるモビリティ条件は何か、およびビジネス環境を良くするためにはどうしたらいいのかという、在外の視点から問題を突きつけていくように変えていった方がいいと申し上げて、少しそういう形になってきたかなと思います。
 







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