日本財団 図書館


Kyushu Transport Colloquium
第5回 九州運輸コロキアム
グローバル経済化における九州の地域戦略
九州大学大学院経済学研究院教授
山崎 朗 氏
 
日時 平成14年11月21日(木)
場所 ホテルセントラーザ博多(福岡市博多区)
主催 (財)九州運輸振興センター
 
■まえおき
 ただいまご紹介いただきました山崎でございます。私自身、港湾、空港関連の委員や東九州自動車道の活性化の座長もさせていただいているのですが、私の専門は交通経済やロジスティクスではなく、地域産業振興政策に近く、それについて、アメリカのハーバード大学のマイケル・ポーター教授が「グローバル時代だからこそ地域戦略が重要になる」というパラドックス、「クラスター戦略」を提唱しています。
 これは、世界中から注目を浴びていまして、日本でもクラスター計画が経済産業省を中心に19地域指定されています。
 九州の方も半導体と環境産業のクラスター計画を推進するということで、3年前に(財)九州地域産業活性化センターでやった「九州地域戦略的産業創出可能性調査」の座長として参加しました。
 基本的には地域の産業振興をどうするかということに大きな関心を持っているということで、経済産業省を中心として、様々な研究会や委員会に参加しております。
 
■1. 未来を読み解く3つの視点
 未来を読み解く3つの視点と書いてありますが、実はアメリカの有名な経営学者、ドラッカーも似たようなことを言っています。長期の計画を立てるときにどうしても不確定な要素がたくさんあります。将来の技術革新がどう進むのかとか、よくわからないところがあるんです。それでもある程度わかるものがあります。それが「モビリティの変化」です。
 二番目と三番目は「産業構造の変化」と「人口・人口構造の変化」です。これは過去のいろいろな推定値をみても著しく外したということはありません。もちろん、出生率が落ちて外してきた経緯はあります。特に旧厚生省の人口問題研究所の予測はかなり外れている。日本大学の人口研究所はかなりの確率でいい数字を予測しているから出来ないことはないと思うのですが、いろんな政治的なことがあって、やや甘めの数字を出してきているということもあろうかと思います。
 それが産業構造の変化というと、ある程度正確にわかるわけです。これは小学生でも知っている「ペティ・クラークの法則」というのがありまして、第一次産業の就業者比率は急速に減っていく。第二次産業、主として建設業と製造業、この就業者はあるところまでは相対的に増えるのだけれども、ある段階までいくと、これも減っていく。そして増えるのは第三次産業だけである。これは先進国のどこをみても、これを覆した国、地域はない。
 これは、理屈をつければつかないことはないわけです。食料品は、生産性が上がっても人間の胃袋は決まっているわけですから、自動車を2台購入する人はいても、どんぶり飯を2杯食うようになる人はいないわけです。
 当然、胃袋が決まって生産性が上がれば、少ない農地、少ない農家で耕せるようになってしまい、さらに輸入も増えるということもあって、急速に第一次産業の就業者比率が下がっていくわけです。ですから、農村の活性化というのは農業では出来ず、第三次産業をどのくらい抱え込むかが勝負であることはハッキリしているわけです。
 この産業構造の変化ですが、(社)九州・山口経済連合会の資料によると、第一次産業就業率は日本では5.5%ぐらいだったと思いますが、イギリスでは既に1.7%まで落ちています。イギリス並みになるかというのは国土条件が違うので単純には言えないのですが、まず、それに向かって近づいていくという覚悟を持たざるをえないのかなと思います。そうすると、貿易の自由化案等の外的条件によっても変わりますが、ハッキリしてるのは農村人口は放っておいても半分以下になっていくことがある程度予想できるということです。
 
 
 第二次産業の方も、日本の場合は経済産業省においてすらモノづくりにこだわっているのですが、モノづくりそのものは相対的に減っていくというのが産業構造の高度化であるのに、それを「空洞化」という言葉で押し留めようとしています。日本の政策は、押し留めようというものがあまりにも多くて、変化を促進するという政策に乏しかった点は否めないと思います。
 石炭産業でも、衰退して石油産業に変わってきて、これは大きな流れとしていたしかたないんですが、何とかして石炭産業を維持しなければならない、農業を何とかして維持しなければならない、モノづくりを維持しなければならないと、世の中の流れに竿を差す政策を打ち続けてきている。結果的にそれは何も維持できていないわけであります。海外からの輸入品との価格差を縮められる魔法があるのでしたら残せるのですけれども。
 
 
 結局、それは高い石炭を全部、電力会社に買ってもらって、電力料金は高くなって、高い発電料は全部製造業や生活のコストを高めてしまう。何かを守っているようで、結局最も競争力のある所に全部付加してしまう、このことが、日本の構造問題になってきているのではないか。これから先のあり方というのは、転換・衰退していくものをストップをかけるのではなくて、転換そのものをいち早くスムーズに進めていくかという戦略への変換が必要になってくるのではないかと考えているわけです。
 二次産業の建設業におきましても、これも間違いなくGDPに占める比率が、特に土木関係は先進国の二倍ぐらい高いということで、これも公共事業を抑えて、ゆっくりと先進国並みの比率に抑えていこうという方針になっていますので、今後大幅に減るのではないかと思います。
 産業構造の変化は土地利用の変化を必然的に伴うわけです。第一次産業の就業者が減る。日本の場合、特に中山間地が多く、大規模農業ができない、ヨーロッパ並みの生産性にあげられる所が非常に少ないという国土上の問題を元々抱えております。
 ということもあり、農業に使う土地はずっと減り続けているわけです。ところが、国の方で国土利用計画という計画がありまして、私も参加したんですが、その時初めて国土利用計画をじっくり眺めてびっくりしたんです。第一次から第四次国土利用計画まであるのですが、必ず農業用地が増えることになっているのです。農業用地は減り続けているのに、計画の中ではまた増える。第三次ではまたここから増える。現実では誰が見ても減っていくのに、計画では常に増える。常に増えるから諌早のような干拓事業が必要という論理になってしまう。だから、農水省の公共事業は相当必要であるという議論が国土利用計画上からも出てきてしまう。
 それから、工業用地も減っているんですね。工業用地も増えていくという計画できているのですが、どう考えてもこれから工業用地は減っていく。工業用地が減っていくと、地域振興のために作った工業団地の運命そのものが変わらざるをえない。あるいは工業団地がいらなくなる。これは、10年、20年前から誰が見たってわかることなんですけれども、それが農業用地も工業用地も増えるなんて変な話をしているので、非常に無駄な社会資本整備が行われている。
 結局増えるのは、都市への人口集中です。これは第三次産業の特色でありまして、第三次産業というのは基本的にサービス業です。サービス業というのは、こういう形で人々がこうして集まってface to faceでコミュニケーションをとる。あるいはもっと直接的に人間がふれあう。医療行為だとか福祉サービスだとかがそうです。人間がふれあうということが求められてくる。そうなると人間の移動を最も節約するためには、人間は都市に集まるという以外、選択肢はないわけです。インターネット時代だから都市なんか必要ないだろうという極論をいう方がいらっしゃいますが、人口はいま都市に集まっているわけです。これをマイケル・ポーターもクラスター(cluster=群れ)と呼んでいます。グローバル化が進んだら、どこで生産してもいいじゃないか、どこで研究開発しても同じだろう、インターネットがあるんだから。にもかかわらず医療機器産業はボストンにますます集まり、インターネットがらみのコンテンツ産業はシリコンバレーに集まる。特定地域に集中するという傾向がより明確になっているということであります。
 これはハッキリ言えば第三次産業化という流れ、サービス経済化の流れ、サービスというものが持っている性格が、限られた地域への人口集中を促進してしまう。ヒトとモノについては急速にモビリティの条件が変わってきたわけです。モビリティの変化という視点は未来を読み解く視点として重要です。
 結局、資本主義社会の発展は、蒸気機関を使った鉄道や船から始まるわけで、そのことにより、ヒトとモノを大量に輸送できるようになりました。ヒトとモノを大量に輸送できることによって大量生産できるようになり、大量生産できることによって初めて大企業が存在できる。大企業が存在できるということは株式制度が必要となる。そうした様々な社会制度、金融制度の改革が必要になってくる。大量に移動するということは保険制度が必要になってきて、海上火災保険という海上から始まった損害保険の制度が生まれてくるようになった。それから次なる時代は主としてトラックや乗用車やバスのような自動車です。自動車になってくると道路の整備に入ってくるわけでありまして、大量の公共事業、主として道路が必要になってくるわけです。
 







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION