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Kyushu Transport Colloquium
第3回 九州運輸コロキアム
まちづくりと連携した交通バリアフリーについて
(株)UFJ総合研究所 国土・地域政策部 主任研究員
原田 昌彦氏
 
日時・・・平成14年7月3日
場所・・・ホテルセントラーザ博多(福岡市博多区)
主催・・・(財)九州運輸振興センター
後援・・・九州運輸局、JR九州
 
■「交通バリアフリー法」の概要
 今日は「まちづくりに連携したバリアフリー」ということでご説明をしたいと思います。
 まず、「交通バリアフリー法」の概要ですが、2つの大きな柱があり、ひとつが「交通ターミナル及び車両のバリアフリー化」で、駅やバス停、港湾、空港等、公共交通事業者に対してバリアフリー化を義務づけているもの、もうひとつが「重点整備地区における面的なバリアフリー化」で、市町村主体で基本構想を作り推進するものです。
 もう少し詳しく見ると(図1)、前者は、新設の旅客施設・車両等を基準に適合する義務が課せられ、既存のものの改善については努力義務という形になっています。
 後者は、市町村が基本構想をつくり、公共交通事業者あるいは道路管理者等のおのおのがそれに基づいて計画を策定、バリアフリー化を連携して推進することに対して、各種の支援措置が用意されているという内容です。
 ここでこの法律の守備範囲ですが、この法律の名前(正式名称=「高齢者、身体障害者等の交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」)が表しているように、その対象が「身体の機能上の制限を受ける者」となっています。また、対象となる交通機関も乗合型の公共交通で、面的整備の対象は重点整備地区を作り、そこを重点的、一体的にやっていこうという形になっているなど、厳密に特定されています。
 そうすると、例えば対象者では外国人など身体以外で制約があるような方は含まれず、交通機関についてもタクシーとか、いわゆる(身障者向け等の)スペシャルトランスポートと言われるようなもの、さらには自家用車等も対象外となります。
 それから、バリアフリー法の内容というのは、既存の施設とか交通機関での移動の円滑化をするということですが、そもそも移動手段が確保されない方が存在するわけで、例えばバスが走っていても(身体的な理由等で)普通のバスに乗れない方がいたり、あるいは特に過疎地だとモータリゼーションの影響で公共交通自体が不便になっているのでマイカーしか使えない。そもそもバリアフリー化の前に移動手段がないという方もいらっしゃいます。
 ですから、広い意味で移動の円滑化、つまり高齢者、身障者等を含め全ての方が移動しやすい環境を作っていくとなると、この法律の対象外まで広げる必要があると考えられます。
 
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図1 交通バリアフリー法の概要
 
 一方、市町村が作成する基本構想ですが、一般的な作成手順を見ると、市町村だけでは困難ということで、まず協議会等を設置して推進体制を作ります。
 次に、対象となる旅客施設の選定で、基本的には1日の利用者が5千人以上というのが目安ですが、それに該当する駅や港、バスターミナル、空港等を選定します。
 そして、選定された旅客施設を中心とした重点整備地区を画定し、具体的にどういう事業をやるのかを検討し、いろいろな他の分野との連携事項等を検討したうえで、国土交通大臣に提出するという段取りになっています。
 
■バリアフリーな街づくりの実現に向けた交通施設整備・交通サービス提供方策
 次に、国土交通省の委託で実施した調査の成果「バリアフリーな街づくりに資する交通施設整備計画に関する調査報告書」についてご説明します。
 この調査の基本的な問題意識ですが、単体の交通施設あるいは交通手段のみならず、一連の移動経路、つまりドア・ツー・ドアのシームレスな継ぎ目のないバリアフリー化を考えるということで、まちづくりと連携する視点が入っています。
 また、その際には移動手段の提供まで含めて検討し、さらに、高齢者が引きこもりになるか否かが地域社会の活動の活発さでかなり違ってくるという傾向があるので、最終的には交通だけではなく地域コミュニティとか地域社会まで踏み込むべきだろうという考え方でやっております。
 今日ご紹介するのは、ひとつがアンケート調査で、もうひとつが事例調査の結果です。
(1)アンケート調査の結果
 アンケート調査は、都市の特性でどれだけ違うのか見るために、「大都市周辺都市(東京都多摩市)」と「地方中枢・中核都市(静岡県静岡市)」、「地方中心都市(山形県酒田市)」の3箇所の身体障害者、高齢者、一般の方を対象に実施しました。一般については、介護保険の対象となっている40才ぐらいからということで実施しました。
 それで、ここ(図2)で示しているのは、年齢とか身体属性によって外出傾向が大きく異なるという結果が出てきていることです。年齢が上がるほど、ほぼ毎日外出するという人が減少し、週に1回とか月に数回とかという割合が増加するということで、外出頻度が減っています。
 身体障害者の方は、だいたい65〜74才ぐらいの方と同じ程度の外出頻度になっています。
 
■利用者ニーズの把握
 ・年齢・身体属性と外出回数
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図2 年齢・身体属性と外出回数
 
 次は、歩行障害の状況と外出回数で、これも車椅子を使用したり、一人で移動できなくなってくると、外出の頻度が減少しています。聴覚や視覚についても同様で、やはり、制約が大きいほど外出が不活発になるということがわかります。
 自家用車の有無も、やはり非所有者のほうが、所有者よりも外出の回数が少ないという傾向があり、運転免許の保有状況で見ても、自分で運転できる方のほうが活発で、免許のない方は相対的に外出が少ない結果となっています。
 また、外出時の利用交通手段ですが、若い方の約45%が自分で運転する自家用車ですが、年齢が上がるほど減っていきます。一方で年齢が上がっていくと、歩いて行ける範囲しか外出しない方とか、バスで外出される方が増えているという傾向があります。
 
■利用者ニーズの把握
・都市別にみた外出時の利用交通手段
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図3 都市別にみた外出時の利用交通手段
 
 それから、地域によってもかなり利用手段が違っています。東京近郊の多摩市だと、電車・バスの比率が高くなっていますが、静岡市や酒田市になると、自家用車が増加しています。静岡市だと鉄道は少ないながらもバスはそれなりに頑張っているわけですが、酒田市ではもっぱら自家用車と自転車と徒歩に頼っているという状況です(図3)。
 次に、バリアフリー化にあたって重要なことは何かと聞いたところ、やはり第一義的には段差の解消など、物理的な障害を無くしてほしいという回答が多くなっていますが、これに続いて多いのは、ボランティア等の人的な支援や一般の方の理解です。それから料金の補助、サービス水準の向上もほぼ同率で挙げられています(図4)。
 
■利用者ニーズの把握
・バリアフリー化にあたって重要なこと
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図4 バリアフリー化にあたって重要なこと
 
 バリアフリー化をすれば、外出の少ない方の外出が増えるかという意向を聞くと、特に車椅子を利用されている方に、「外出を増やしたい」という回答が多くなっており、外出が少ないというのは、したいけれど制約があり、バリアフリー化が実現すればもっと外出をしたいという傾向が出ています。







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