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航空貨物分野での九州における地方空港活用に関する調査研究概要
―長崎空港における活用方策―
(財)空港環境整備協会助成事業
 
1. 全国的な航空貨物需要動向
(1)航空需要の拡大と東アジアの成長 (中長期の展望)
・世界経済の低迷が今後も予測されるが、全般的な国際航空貨物はややぺースダウンしつつも増加基調が続くことが予測される。
・アジア太平洋間の航空需要は相対的に高い成長性が予測されているが、とりわけ中国を中心とした東アジア地域の需要増大が期待されている。
 
(2)近年の国際航空貨物情勢 (短期的な展望)
・全国的に国際航空貨物の荷動きは前年割れしている。その最大の理由は、IT関連需要の減少であり、半導体やコンピュータ関連製品・部品の輸出入量の低迷である。
・輸入は1割減程度(対前年比、重量べース)にとどまっているが、輸出の低迷は大きく、2001年6〜8月以降は前年対比で約3割減(同)となっている。
・航空貨物の主要品目である半導体の生産出荷量は、世界規模の景気低迷による個人消費の落ち込みと米国同時多発テロの影響による世界経済の停滞によって調整が急激に進展しており、2003年以降とならないと回復が期待できない情勢にある。
 
(3)国際航空貨物の取扱傾向
・国際航空貨物の主要品目である半導体製品は、その多くが航空輸送を利用している。
・半導体メーカーおよび電気機器メーカーの多くは東アジア、東南アジアに生産・組立拠点を有し、SCMネットワークに組み込まれて日本における生産拠点・物流拠点との連携を深めている。また、競争の激化もあり、今後、いっそうの物流効率化(リードタイム短縮、コスト削減等)が求められていくことが想定される。
・これまで航空利用がほとんどであった切り花や生鮮魚介類等の鮮度を要求する品目などの一部において、海上コンテナによる温度管理の向上等から割安な海上輸送を利用する傾向もでている。景気低迷による企業の低コスト化により、こうした傾向は一層強まるものと考えられる。
 
2. 地方空港における国際航空貨物の動向
(1)地方空港における最近の国際航空路線形成の特徴
・現在、わが国の24空港において国際線が定期運航している。特に、ソウル路線を有する空港は22空港、上海路線は10空港となっており、近年も次々と新しい路線開設が相次いでいる。
・最近の路線開設・増便化は主に東アジア路線であり、とりわけ韓国と中国に集中している。一方、欧米路線は、関西空港を始め航空需要の落ち込みから、休止・撤退するエアラインが増えている。
 
(2)地方空港における国際航空貨物取扱い見通し
・平成12年末から顕著となったIT不況を契機に、日本経済全般の景気低迷もあり、国際航空物流は全国的に大きく後退している。とりわけ、地方空港においては、製造業の工場を始めとする海外移転の急速な進展により、貨物取扱量を大きく減らしている。こうした傾向はわが国産業・経済の構造変化とともに、しばらくの間は続くものと予想される。90年代に活発化した地方空港の国際化のなかで、FAZを中心とする国際物流活性化による地域振興は大きな転換点を迎えている。
・地方空港が堅調に国際航空貨物の取扱量を増加させていた背景は、混雑空港である成田空港からオーバーフローした発着貨物の補完的な役割を、消費地・生産地の近傍の地方空港が担ってきたことにあるが、景気低迷に伴う貨物需要自体の落ち込みにより滞貨はほとんどなくなり、成田空港の利便性が高まっている。2002年4月には平行滑走路の供用も開始されて大幅な増便となり、成田空港への貨物の一極集中がさらに進展するものと予測されている。
・こうしたなかで、地方空港ではほとんどの空港で前年対比2〜3割減の取扱量となっている。
・成田空港のベリーのキャパシティに余裕が生じるとともに、国際航空貨物需要自体の落ち込みにより、地方空港におけるフレーターのチャーター運航が成立しない状況となり、全国的にチャーター実績が激減している。
・今後当面は、地方空港における国際航空貨物の取扱いに関しては極めて厳しい状況が続くと考えられる。
 
3. 長崎空港活性化の方向性
(1)長崎空港の特徴
・長崎空港は他の地方空港と比較して、次のような特徴を有している。
〈長崎空港の優位性・特徴〉
・地勢的に東アジアに近い立地条件
・地域の中国等の歴史的な結びつき
・背後圏にある豊富な観光資源と食材等の特色ある物産の存在
・大型機が就航できる空港施設(3000m滑走路)、余裕あるターミナル用地
・整備された国際貨物施設
・24時間運用可能な海上立地
 
・長崎県は、中国、韓国、台湾を始めとする東アジア地域と地理的に近いうえ、歴史的にも深い関係を有しており、また、魅力的な観光資源にも恵まれている。今後、東アジア地域の人々の海外観光が爆発的に増加することが確実となっている中、長崎空港は、九州における国際観光のゲートウェイとして、東アジア地域との観光交流を軸とした航空ネットワーク発展の潜在力を有している。
・また、3000m滑走路や国際貨物施設等、空港機能も整備されており、国際観光客の集客力を高めていくことができれば、便の多頻度化、機材の大型化や新規路線の開拓が可能となり、航空貨物分野における長崎空港の利便性向上が期待できる。
 
(2)長崎空港の貨物利用に係る問題点
・長崎空港では、同空港を発着地とするべースカーゴの定着がなく、スポット的な貨物がほとんどで、長崎空港を利用する必然性が低い(他空港で代替できる)ことから、安定的な貨物利用が実現していない。
・さらに、中国東方航空などの航空会社や本邦フォワーダーにおいても、荷主にPRできるメリット(リードタイム、コストの両面から)を感じておらず、積極的な営業展開が行われていない。
・現在、長崎空港において運航している国際線(上海路線とソウル路線)に係る課題をとりまとめると左記のとおりとなる。
〈現状〉
・便数が少なく、ダイヤも旅客優先の運航パターンである
・機材が小規模でULDを利用できない(バルクのみ)
・定時性(欠航・遅延)に対する信頼性と代替性に欠ける
・競争がないため、運賃が硬直化している 等
〈課題〉
・荷主の生産出荷サイクル、調達サイクルに対応していない
・貨物形態・荷量が制限される。また、規模の経済性に劣る
・フォワーダーにとってリスクが高い
・コストメリットが薄い 等
 
(3)長崎空港における活性化方策
・全国的に国際航空貨物需要が低迷するなかで、直ちに貨物取扱量の増加を期待することは難しい状況にある。
・そこで、基礎需要の掘り起こしを行うとともに、中・長期的な視点に立って、長崎空港の特性や優位性を生かした長崎空港独自の特色ある空港活用を考えていく必要がある。
 
これまで(90年代の状況)
・成田空港や福岡空港における滞貨状態があった平成10〜11年当時は、運賃よりもリードタイムを死守するといった面から、地方空港が活用されていた
・中国との輸送については、定期路線(ベリー)に開設が少ないため、需要地へのキャパシティが不足しており、地方空港へのフレーターチャーターが需要をカバーする上で不可欠な状況にあった
現在の環境
・景気の低迷により、貨物量自体が大きく減少(成田空港で前年対比1割減、地方空港で前年対比2〜3割減)
・多くの地方空港で中国路線が充実
・成田空港の並行滑走路供用開始(2002年4月)によりアジア路線が増大(予定)
課題
・地方空港全般でのフレーターの伸び悩み
・既往方策の限界(運賃・コスト面での優位性は低下。効果の薄い支援・助成策)
長崎空港の優位性・特徴
・地勢的に東アジアに近い立地条件
・地域の中国等の歴史的な結びつき
・背後圏にある豊富な観光資源と食材等の特色ある物産の存在
・大型機が就航できる空港施設(3000m滑走路)、余裕あるターミナル用地
 
・整備された国際貨物施設
・24時間運用可能な海上立地
航空物流を取り巻く動向や変化
・成田空港への一極集中加速と地方空港間の競争激化
・緩やかな景気回復(2003年以降)
・中国をはじめとする東アジアにおける航空貨物需要の増大、アジアとのネットワーク拡大
・わが国製造業の中国進出の拡大(生産拠点・出荷拠点の中国移転)
・整備された国際貨物施設
・24時間運用可能な海上立地
方向性〈長崎空港独白の特色ある空港活用〉
・貨客両面からの基礎需要の掘り起こし
例・・ベリーの活用、成田空港との接続利便の向上 など
・長崎空港の特性や優位性を生かし中・長期的な視点での需要開拓
例・・独自路線の誘致、東アジアをターゲットとした輸送モデルの構築 など







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