日本財団 図書館


重点課題とその対応
 IT革命の恩恵を最大限享受しうる21世紀型交通社会実現のための前提となる課題を整理するとともに、公共交通を中心として、今後の交通情報化政策がとるべき具体的な方向性及びその実現のための方策を提示する。
 
○IT革命の恩恵を最大限享受しうる21世紀型交通社会実現のための前提となる課題
・ITインフラの整備の重要性
 高度情報化社会の実現のためには、光ファイバー網等の情報インフラの整備が不可欠である。そのためには交通インフラにおける光ファイバー収容空間ネットワークの整備・開放によるFTTH(ファイバー・ツー・ザ・ホーム)の支援も重要である。
 
・モバイル情報端末に係る技術開発
 交通の情報化においてモバイル情報端末に係る技術開発は前提条件である。
 
・情報セキュリティ対策
 交通の安全は、交通にとっての最重要課題であるので、交通機関にITが活用されている今日、ITシステムヘのサイバーテロ攻撃にそなえることが重要である。
 
・プライバシーの保護
 情報セキュリティとともにITの弱点とされているのがプライバシー保護の問題である。交通分野においても、さまざまな個人情報が交換される機会があることから、その取り扱いには十分な配慮が必要である。
 
・デジタルデバイド対策
 IT革命の進展に伴い、ITの恩恵を受けられる層と受けられない層との間で格差(デジタルデバイド)が生じる可能性があることから、その回避のために交通は、さまざまな面で配慮していくことが必要である。
 
・インターオペラビリティの確保
 ITの活用による効果を最大限に引き出すためには、事業者間のインターオペラビリティ(異なるシステム間における相互運用性)を確保することが不可欠であり、その実効ある連携を支援するような方策とそれを推し進めるリーダーシップの発揮が重要である。
 
■交通における位置情報活用の将来像
(拡大画面:77KB)
 
○今後の交通情報化の具体的な方向性及びその実現のための方策
〈交通の改善〉
・ITSの推進
 ITS(Intelligent Transport System)は、最先端の情報通信技術を用いて人と道路と車両を一体のシステムとして構築するものであって、高度な道路利用、運転や歩行等道路利用における負荷の軽減を可能とし、道路交通の安全性、輸送効率、快適性の飛躍的向上を実現するものである。
 関係官公庁と民間とが一体となって取り組む国家プロジェクトであるITSの推進により、交通のさまざまな分野において、ITが積極的に活用され、その成果が利用者に共有されるユビキタスな交通社会となることが期待される。
 
・公共交通の利便性の向上
 公共交通の利便性を大きく向上させるためには、情報提供の充実、乗車券システムの高度化、IT利用環境の整備が重要である。
 
・ITの活用による交通需要の調整
 都市部等においては、空間制約から交通の供給面での拡大が難しくなってきている中で、交通の需要に働きかけることで、交通の改善を図ろうとする施策の方向性が追求されている。
 
・位置情報との組み合わせによる人間生活のサポート
 位置情報の提供が交通サービスと結びついて、国民生活にさまざまな利便を提供し得るものであることは疑いようのないところである。交通の分野においても位置情報の利用可能性を大いに追及していくべきであろう。
 
・ITを活用した新しい輸送形態の出現
 バス、タクシーといった従来の公共交通の形態を越えて、当該地域の交通事情に、より適合した新しい形態の交通モードが出現することが期待される。
 
・移動過程を楽しみ、知識を創発する交通
 ITの活用により、交通ターミナルにおける情報デポの設置や無線LAN利用環境の整備といった、新しい交通のあり方を志向していくことが望まれる。
 
〈社会の要請への対応〉
・高齢者・身体障害者等の移動制約者対策の充実
 ITは、さまざまな形で高齢者・身体障害者等の移動制約者の移動円滑化のために貢献することができる。
 
・環境にやさしい交通の実現
 ITの活用により、CO2、NOx排出量の削減に貢献できる。
 
・交通の安全性の向上
 交通の安全性の向上を図るためには、ASV(先進安全自動車)の開発・普及、ATC(自動列車制御装置)の高度化等、ITを活用したさまざまな取組が極めて効果的である。
 
・観光事業、旅行業の新たな展開
 IT革命は、多様な観光情報の提供を容易にし、国民の観光の機会を拡大するとともに、インターネットの特徴である双方向の情報交換により旅行者の需要に的確に対応した商品の開発が進むなど、新しい観光事業の展開に道を開いていくものと考えられる。
 
・物流の革新
 交通の中でも、物流はIT革命によって最も大きな革新を遂げつつある分野であるといわれている。
 
・電子政府の実現
 電子政府の実現により、国民とその生活に深いかかわりをもつ政府との間の各種の手続が電子化されることは、真にITリタラシーを備えた「世界最先端のIT国家」の実現にとっても大きな意義を有するものである。特に交通という視点から見ると、従来それらの諸手続のために関係機関との間で必要とされた交通の量を削減することになり、社会システムの効率化に大きく寄与するものである。
 
まとめ
 長らく交通政策の基本目標は、人とモノの安全、確実、快適な移動の確保にあるとされてきた。しかし、人々の交通への要求が一層多様化する21世紀においては、移動制約者への移動手段の提供や電子マネー機能搭載ICカード乗車券などに見られるように、交通も従来の交通の枠を越え、福祉や金融など他の分野と積極的に連携し、融合して多様な国民のニーズをかなえていくことが求められるようになっている。ITは、まさにこのような交通の新しい方向性を先導するものであり、その向かう先にはこれまで考えてもいなかったような新しい世界が広がっている。その意味からも、交通と情報通信は今後ますます密接かつ一体的に論じていく必要があり、そうした考え方に立って、官民一体となった交通情報政策の展開が求められている。
 
■SPT(Simplifying Passenger Travel)
(拡大画面:90KB)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION