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私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/05/02 産経新聞朝刊
【平成の考現学 久保紘之】イラク戦争終結
■ネオコンを利した「突っ張り」
 ブッシュ米大統領は、二日午前、米空母エイブラハム・リンカーン艦上で「主要な戦闘作戦は終了した」と、イラク戦争の事実上の終結宣言を行うという。
 何だか、「戦後イラクの民主化構想は日本占領方式で」という開戦直後の発言といい、ミズーリ米戦艦上の降伏調印式を連想させる終結宣言といい、はじめから終わりまで“ニッポンづくし”の演出だなぁ、などと思いながら、ふっと、ブッシュのアメリカにとって今度のイラク戦争の“最大の功労者(武勲第一等)”は、一体だれかな?と考えた。
 不真面目だ、という謗(そし)りを恐れずに言えば、その該当者はいま死んでいるのか生きているのか消息不明のサダム・フセイン以外に、ちょっと思い付かない。
 「結局、これほど短い時間で、これほど費用をかけずに、すべての人びとにこれほど多くのサービスを提供できた人物が、サダム・フセイン以外に存在しただろうか?彼はイスラエルの安全を強化し、アメリカ製兵器の栄光を確実なものとし、ゴルバチョフ(旧ソ連大統領)に政治的チャンスを与え、イランとシーア派イスラム教徒を国際社会に復帰させ、国連を立て直した、等々。それも無償で。というのも、血を流したのはほとんどイラクだけだからだ。これほど見事な男を想像できるだろうか?」
 これは湾岸戦争のとき話題になったフランスの哲学者J・ボードリヤール(『湾岸戦争は起こらなかった』紀伊國屋書店)の戦争総括である。
 この総括の中で多少主語を入れ替えたり、国連の立て直しを「アメリカがかねて望んだ破綻」くらいに手直しすれば、そのままイラク戦争の総括として通用するだろう。
 そこではポスト冷戦、9・11同時多発テロ以降の世界史的秩序の大再編期におけるサダムの担った(担わされた)役回りの大きさが浮き彫りになってくるはずである。
 もし、イラク戦争がなければ、つまり、もしサダムが自らの無能力を悟ってバカな突っ張りなどせず、国連安保理の勧めに応じて全面的に大量破壊兵器の査察に応じていれば、恐らくブッシュ大統領やそれを後押しするラムズフェルド国防長官ら、いわゆるネオコン・グループは「政治的挫折(一頓挫)」を余儀なくされたはずなのだから。
 サダムの無謀な突っ張りのおかげで「サダム後のイラク」を拠点に中東諸国全体をアメリカ民主主義で教化するというブッシュ・ネオコン構想はタイム・テーブルに乗り、石油利権は確保、仏独などEU、ロシア、中国には睨みを利かせ、北朝鮮はおののき、イスラエルの安全は一見、盤石であるかのように見え始めた。
 それにしても、なぜサダムは湾岸戦争で“身の程”を骨身に染みて知ったはずなのに今回また性懲りもなく突っ張り通して、自滅したのか?
 「(アメリカのような)技術のケタはずれの力強さは、かえって敵の現実の力を過大評価してしまう。いちばん滑稽なのはイスラムの方も、自分の無能力を信じていないことだ。この構図においては自分の無能力を信じていない方が自分の力強さを信じていない方よりも強いのである」とボードリヤールは分析する。
 恐らく、北朝鮮とアメリカの関係も似たようなものだろう。しかし、その分析はあくまで湾岸戦争の場合。「9・11」後のアメリカは、はっきりと彼我の実力の差を見極めた上で、予防的先制攻撃の権利などの「新国家安全保障戦略」を打ち出しているのである。
 もちろん、イラクにだってその位の分別のある人物はいただろう。たとえば、フセイン旧政権の首脳で何となく消息の気に掛かる人物がひとりいる。
 圧倒的な電子情報戦を仕掛ける米軍に対抗して「イラク軍と偉大なるイラク国民よ、我々の勝利は確実だ」などと、悠揚迫らぬ態度で、よくもこうぬけぬけと嘘で塗り固めた、勇ましい“大本営発表”が続けられたものだ、と奇妙な人気のあった旧政権のスポークスマン・サハフ情報相である。
 面白いことに、サハフ情報相のその後の消息が気になっていたのは、筆者ばかりではなくて、米国のCBSやNBCの人気娯楽番組には、なんと「サハフのそっくりさん」が登場、「サダム像を引き倒したのは、きれいに磨くためだ」などと“サハフ節”を披露して喝采を浴びているというのである。
 ともあれ“判官びいき”は日本人の専売特許かと思っていたら、この件に関する限り、アメリカ人の方がはるか上を行くのには、いささか驚いた。
 実のところ、サハフ氏がどのような経歴の持ち主なのか、それ以上の情報の持ち合わせはない。が、その風貌から醸し出されるイメージには、どこか日本浪曼派の保田與重郎の「滅びの美学」と響き合うものが、あった。
 北朝鮮の核兵器保持宣言に右往左往している“お取り込み中”の日本人に、こんなことを言えば、「北朝鮮とリンケージしているイラクに“判官びいき”だって?」と、目を剥(む)かれること必定だろう。何しろ「アメリカと戦争した、かつての日本のような貧乏クジだけは金輪際引かない」というのが、日本人の戦後五十八年の到達点なのだから。
 しかし、せめて引かれ者に石を投げたりツバを吐きかけたりするような言動だけは避けてほしいものだ。
(編集特別委員)
 
 
 
 
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