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2003/04/18 産経新聞朝刊
【社説検証】イラク戦争 産経新聞 国連幻想から新たな国際協調体制へ
 
<<安易な反戦は偽善となる>>
 今回の「人間の盾」運動は、安易な平和主義がいかに無力で、独裁者に利用されるだけで、問題の解決にはむしろ妨げになるということを示したといえよう。仮に動機が善意からであっても、無責任な善意は偽善に終わりかねないことを知るべきだ。
 イラクには「人間の盾」活動に参加している日本人がいまなお六、七人残っているという。そのわずかな人たちのためにも、日本の外務省は邦人保護の任務のため、税金を使い、職員が危険を冒さなければならないという現実を忘れるべきではない。(3月7日)
<<独裁者の高笑い許すな>>
 米国が描くイラク攻撃は、支配地域に君臨する残忍な独裁者から武器を取り上げ、周辺国家への侵略や国際テロリストへの武器横流しを阻止することにある。相手が独裁者であっても、国連決議に従って武装解除していれば、とっくに解決していたはずである。しかし、フランスに率いられた過剰な「反戦」唱和のおかげで、イラクや北朝鮮の独裁者が政治的に息を吹き返しつつあり、両国やテロリストたちの高笑いが聞こえてくるようだ。
 仏独は米国がいう欧州至上主義の古い世界にしがみつき、テロとテロ支援国家をそのままに、これと対峙する米国の後ろから外交上の砲弾を浴びせてしまったのだ。その罪は決して軽くはない。
 フセイン政権がこれまで、常任理事国のロシア、フランス、中国にイラク原油の優先的な配分を持ちかけ、国連の「経済制裁」を緩和するよう懐柔してきたことも想起すべきだ。三カ国はまた伝統的にイラク向け武器輸出国であり、「反戦」の名を借りてイラク攻撃に反対するほど身ぎれいではない。三カ国の「時間がかかっても政治解決を」との表明は、俗耳に入りやすいが笑うのはイラクの独裁者である。(3月14日)
<<妥当な独裁排除の決断>>
 ブッシュ大統領の最後通告は、支配地域に君臨する残忍な独裁者には容赦せず、彼に従うイラク軍に対してはすべての武器を捨てるよう呼びかけた。一方で通告は、自由を求めるイラク国民に対しては支持を表明し、新生イラクの建設のために経済支援するとの妥当な内容だった。
 こうした米国の決断に小泉純一郎首相が十八日、説明が不十分ながらブッシュ政権の決断を明確に支持する方針を示したことは高く評価できる。特に、首相が「日米関係の信頼性をそこなうものは国益に反する」と指摘したことは、核武装を目論むもう一つの独裁国家、北朝鮮を目の前にする日本にとって、いかに重要であるかを示唆している。(3月19日)
<<12年戦争終焉の始まり>>
 最初の一撃は巡航ミサイルの発射からスタートしたが、実はこの戦争が始まったのは、一九九〇年八月のイラクによるクウェート侵略からであった。その意味で三月二十日のDデーは、長い「十二年戦争」の終わりの始まりである。
 米国はいま、三十五カ国以上の支援を得て戦端を開いた。「フセイン排除」にはコストと危険が伴う。しかし不作為によって、より多くの人々が死の危険にさらされることを考えればやむを得ぬ兵力投入であろう。日本は難題である戦後処理を含め、対米支援に全力をあげるべきである。(3月21日)
<<誤爆の犠牲と戦争の本質>>
 バグダッド北部の住宅地にある市場が現地時間の二十六日午前、爆撃され、最低十五人が死亡、数十人が負傷したという。
 「民間人の犠牲者が出ないよう最大限の努力をしている」と強調してきた米政府にとっても痛手であり、徹底した原因調査が望まれる。
 戦闘の過程で民間人が巻き込まれる誤爆は極力起きないよう努力するのは当然だ。一方で、戦争である以上、予想外の最悪の事態が起き得ることも常に覚悟しておく必要がある。その場合でも、フセイン政権側を利する過剰な感情的反応は絶対に避けるべきなのである。(3月28日)
<<国連幻想から覚醒のとき>>
 イラク戦争に際して、国連の中枢である安全保障理事会の安全保障面での機能不全が露呈した。
 国連加盟は戦後日本の悲願だったためか、日本には国連を現実以上に理想化し、美化し、正義の府とみる幻想がいまだに根強い。米英によるイラク攻撃は国連安保理の武力容認の新決議を得なかったから正当性がない−という議論も多分にこの国連幻想、国連信仰に基づいている。
 今回、日本は、イラク問題の最終場面で国連中心の国際協調主義と日米同盟の両立をはかることができなくなる場面に遭遇し、日米同盟を選択した。当然であった。北朝鮮の核脅威など日本の将来にわたる安全保障を、国連安保理に委ねることはできなかったからである。
 イラク戦争を機に、国連改革論議が再び高まることを期待するが、日本としては国連への重視の姿勢を維持しつつ、幻想は抱かずに、国連の利用できる機能は活用していくという現実的な「国連活用主義」の視点を持つことが重要だ。(3月31日)
<<独仏の豹変が教えるもの>>
 ドイツの公共放送ZDFによると、シュレーダー首相は四日、同テレビのインタビューに答え、「米英軍の早期の勝利を望む」と述べた。
 一方、フランスはすでに指摘したようにドビルパン外相が一日、「(イラク戦争では)フランスはわれわれの同盟国、米英の側にある」と述べ、ドイツに先立ち米英支持を打ち出した。
 両国のこうした「豹変」は、イラク戦後の復興事業で孤立したり、取り残されることのないようにという計算ともみられるが、まずは老獪な「古い欧州」(仏独を指してラムズフェルド国防長官が述べた批判の言葉)の面目躍如といったところだ。
 日本国内では反米的立場に立つ陣営からイラク戦開始前、「日本政府は仏独に学べ」といった意見が声高に叫ばれた。もし、日本政府がそれに従って仏独と同じ道を歩んでいたらどうなっていたか。米欧同盟ほどには成熟していない日米同盟は、修復不能なまでに傷ついていたことだろう。それにより、日本の安全保障上のリスクや負担は、計り知れないものになるところだった。(4月9日)
<<12年戦争の終結に価値>>
 イラク戦争の終結は、フセイン政権が一九九〇年八月のクウェート侵略から始まった湾岸戦争と、この政権がその後の計十七にものぼる国連安保理決議を無視してきた長い「十二年戦争」を終わらせる意味がある。
 日本は北朝鮮の核兵器など死活的な課題があるだけに、米国が背を向けたままの国連にすべてを委ねることはできなくなる。
 米英主導のイラク戦後処理を支援しつつ、新たな国際協調体制の道を探らねばならない。(4月10日)
 
【その他の主な産経主張】
「許されない『時間かせぎ』」 1月22日
「戦争回避はイラクの責任」 1月29日
「支持できる決意と冷静さ」  1月30日
「適切な同盟のあり方示す」 2月 2日
「イラクに残り時間はない」 2月 7日
「米は最後まで調整怠るな」 2月12日
「責任果たさなかったイラク」 2月15日
「対米支持を主体的に示せ」 2月16日
「独裁者を利する反戦主義」 2月19日
「政府は進んで支持説明を」 2月26日
「期限付き修正案支持する」 3月 9日
「同盟国との連帯強める時」 3月22日
「速やかに降伏を決断せよ」 3月23日
「今から戦後復興の備えを」 3月24日
「新法づくりへ環境整備を」 3月25日
「国会論戦は大局観に立て」 3月26日
「戦場の真実を見極めよう」 3月27日
「『早期降伏』が最善の選択」 4月 3日
「やはり軸足移した仏外交」 4月 4日
「非道の独裁者との戦いだ」 4月 5日
「迅速な制圧で人心つかめ」 4月 6日
「早期決着への前進を歓迎」 4月 8日
 
 
 
 
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