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2003/04/09 産経新聞朝刊
【主張】イラク戦争 独仏の豹変が教えるもの
 
 ブッシュ米大統領とブレア英首相は、イラク戦後復興のあり方などを中心に会談し、イラク国民本位と国連重視などの基本方針で合意した。世界の目は早くもイラク戦後に移ってきたが、イラク戦争と国際問題を見るうえでの重要な動きが、イラク攻撃に強く反対してきた独仏で起きている。
 ドイツの公共放送ZDFによると、シュレーダー首相は四日、同テレビのインタビューに答え、「米英軍の早期の勝利を望む」と述べた。昨秋のドイツ総選挙以来、一貫して示してきたイラク攻撃反対路線を大きく転換したものであった。
 一方、フランスはすでに指摘したようにドビルパン外相が一日、「(イラク戦争では)フランスはわれわれの同盟国、米英の側にある」と述べ、ドイツに先立ち米英支持を打ち出した。
 両国のこうした「豹変(ひょうへん)」は、イラク戦後の復興事業で孤立したり、取り残されることのないようにという計算ともみられるが、まずは老獪(ろうかい)な「古い欧州」(仏独を指してラムズフェルド国防長官が述べた批判の言葉)の面目躍如といったところだ。実際、ドイツはイラク開戦後、クウェートに生物・化学兵器対応部隊を派遣してもいた。
 仏独露中などの戦前のイラク攻撃反対が、決して平和や正義の論理に基づいたものではなく、いかに自国や自党派の政治経済的利益を確保するかという政治的思惑が中心だったことを示すものでもある。
 ドイツでは、シュレーダー首相の与党、社会民主党(SPD)の人気が落ち、二月の二州の州議会選挙でSPDが大敗し、米英支持を打ち出していた最大野党のキリスト教民主同盟(CDU)が両州議会で第一党になるという国内事情もあった。
 日本国内では反米的立場に立つ陣営からイラク戦開始前、「日本政府は仏独に学べ」といった意見が声高に叫ばれた。もし、日本政府がそれに従って仏独と同じ道を歩んでいたらどうなっていたか。米欧同盟ほどには成熟していない日米同盟は、修復不能なまでに傷ついていたことだろう。それにより、日本の安全保障上のリスクや負担は、計り知れないものになるところだった。イラク復興事業でも賢明かつ巧妙な取り組みが求められる。
 
 
 
 
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