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2003/04/08 産経新聞朝刊
【主張】イラク戦争 早期決着への前進を歓迎
 
 米地上軍の迅速な首都攻略は、大統領宮殿など象徴的な建物を相次いで占拠することで、イラク軍に対してこれ以上の抵抗が無駄であることを見せつけた。米軍の柔軟な戦術は市民の犠牲を少なくするよう配慮され、イラク国民のフセイン政権に対する支持は急落している。戦局が早期終結への道に入ったことを歓迎したい。
 米戦車部隊はフセイン政権のシンボルである共和国宮殿を管理下におき、一気に独裁政権の自壊を誘った。現地の米軍司令官が、「宮殿に星条旗を立てるつもりはない」と語り、米軍の目的がフセイン政権排除にあって、イラク占領ではないことを示したのは妥当だった。
 米英軍はこれまでも、道路、橋、通信など民間人の生活にかかわる都市インフラは攻撃せず、米地上軍がバグダッドに進攻しても、市民が自由に自動車を走らせる模様が現地から報告されている。米国はすでに、戦後処理に向けた計画を着々と準備しており、大勢は決したといえる。
 イラクのサハフ情報相は、「米軍を壊滅した」などと兵士や国民を鼓舞する姿勢を示した。しかし、イラク軍の抵抗が続くとしても、激しい空爆で士気が落ちており、散発的で組織だったものにはなりにくい。米中央軍司令部のソープ報道官は「言葉の戦争は終わった。事実を認識すべきだ」と呼びかけ、フセイン政権がこれ以上の流血を避けるよう求めた。
 米軍は当初、地上部隊が首都を包囲し、市民の首都脱出を待ってじっくりと攻めるものと考えられていた。しかし、第三歩兵師団の戦車が前日、「偵察目的」でバグダッド市内に入ったものの、抵抗が少なく、一気に象徴的な建物を占拠して政権の瓦解を狙った。一部に懸念があった泥沼の市街戦を巧みに回避したとみることができる。
 米国主導の「イラクの自由作戦」は、同盟軍として英国、オーストラリアが合流して兵力二十八万人が参戦し、市民の犠牲を少なくするために大量の精密誘導兵器を駆使した稀有(けう)な戦争だった。米英軍は戦闘の中で戦術上の失敗、誤爆などがあったものの、国際世論の行方に神経を使いながら、比較的短期にバグダッド攻略ができたことを評価する。
 
 
 
 
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