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2003/03/23 産経新聞朝刊
【イラク戦争】フセイン政権 崩れ行く権力基盤 交信内容・米の手中
 
 【ワシントン=近藤豊和】米軍のピンポイント爆撃でイラクのサダム・フセイン政権指導層が死亡したとの報道がしきりに流れ、イラク軍の通信機能の一部が米軍に握られたのに加え、指揮命令機能まで寸断されている可能性が強まった。イラク陸軍第五十一歩兵師団が米軍に集団投降してきたことも“サダムの軍”の弱体化を物語っており、独裁権力基盤の一角が崩れ始めている。
◆サダム軍・機能不全
 現地時間二十日早朝の第一次限定空爆で死亡したと米テレビが伝えた三首脳のうちラマダン副大統領はバース党が政権を握った当初から、最高決定機関、革命指導評議会(RCC)の評議会員を務め、経済閣僚などを歴任して、一九九一年に副大統領の座に就いた。
 イブラヒムRCC副議長は革命前からフセイン大統領の同志で、反体制派の大量処刑を主導して大統領の腹心となり、現戦時体制下で北部軍管区司令官に任命された。
 アリ・ハッサン・マジド元国防相は大統領のいとこでRCC評議会員。八八年のクルド人に対する化学兵器攻撃を指揮、「ケミカル(化学)・アリ」の異名がある。九〇年にイラクがクウェートを占領した際の総督で、今は南部軍管区司令官。
 いずれも軍の作戦や政権基本方針決定の主要メンバーで、死亡したとすれば軍指揮系統が機能不全に陥るのは確実だ。
 米NBCテレビなどによると、問題の空爆に結び付いたフセイン政権首脳集結の情報は、米中央情報局(CIA)が「アジズ副首相亡命」のうわさを流し、その後の副首相の動向を通信傍受や監視活動などで追跡した結果、得られたものだった。
 アジズ副首相は亡命を否定、サダム・フセイン大統領への忠誠心を示すためバグダッド市内で記者会見を行った。そこから副首相の動きを追ったCIAは必ず大統領と連絡し接触すると読み、網を張っていたという。
 こうした情報が米軍に把握されていることは、イラク軍の交信内容が完全に米軍に傍受されていることの証左で、軍にとって致命的な状況だ。
 米国防総省によると、今回のイラク戦では、米陸軍情報保安司令部(INSCOM)所属の情報支援活動部隊(ISA)が広範な通信傍受活動を展開しているという。
 一方、米軍は精密誘導弾によるイラク軍施設などへの正確な爆撃でイラク軍に心理的圧力をかける作戦を「衝撃と畏怖(いふ)」と呼び、この作戦がイラク軍将兵の投降となって効果を発揮しつつあると分析している。
 ラムズフェルド米国防長官も二十一日の記者会見で「イラク政権は統治能力を次第に失っている。軍の戦況把握能力や指揮作戦伝達が極端に低下している」と述べた。
 米戦略国際研究所(CSIS)の報告書によると、イラク軍の将兵数は湾岸戦争当時(一九九一年)の百万人を大きく下回り、現在、三十八万九千人で、戦車も二千二百−二千六百両とほぼ半減している。このため、今回の開戦を前に“にわか徴兵”まで行ったという。
 精鋭部隊の特別共和国防衛隊(一個師団)や共和国防衛隊(六個師団)はバグダッドやフセイン大統領の故郷、ティクリートの防衛に当たっており、徹底抵抗する可能性もあるが、共和国防衛隊幹部も投降の意思を伝えてきているとされる。
 イラク陸軍第五十一歩兵師団の多くは空腹にあえぐTシャツ姿の“雑兵”で「イラク領内に入って二時間で八千人が投降してきた」という米海兵隊幹部の話はイラク軍弱体化を象徴している。
 
 
 
 
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