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2003/06/10 読売新聞朝刊
[社説]イラク新法 「武器基準」の見直しを忘れるな
 
 国際貢献をためらってはならない。だが、このまま、安心して送り出せるだろうか。
 政府・与党が、イラク復興協力の一環として、自衛隊の派遣を目的とした特別措置法案を、今国会に提出することになった。
 国連は、加盟国に対し、復興への協力を促している。原油の90%近くを中東に依存している日本にとって、イラクの復興と安定は、極めて重要である。
 米国からも、自衛隊の役割への期待が伝えられている。イラク戦争で米国を支持した日本が、自衛隊を派遣し、復興に積極的に協力するのは、当然である。
 イラクの当面の最重要課題は、米英軍などが担っている治安の確保だ。復興を急ぐうえでも、安全が前提となる。自衛隊に求められているのは、そうした治安維持活動への後方支援である。
 その際、一つ、大きな懸念が残されている。武器の使用基準の問題だ。
 政府の法案要綱によると、国連平和維持活動(PKO)協力法と同様、正当防衛や緊急避難など、自衛の場合に限って使用が認められている。
 戦闘終結宣言が出され、自衛隊の活動も非戦闘地域に限定される、などがその理由だ。米英軍への物資補給のほか、イラク被災民支援などの活動に大きな危険はないと見ているのだろう。
 だが、現地では、米兵が武力攻撃を受けるケースがなお見られる。非戦闘地域の後方支援とはいえ、そうした可能性も織り込んでおかなければならない。
 国連は、PKO実施にあたり、任務遂行を妨げる武力攻撃に対する武器の使用を認めている。それが国際基準である。イラク復興に参加する各国の軍隊も、当然、この基準を準用することになる。
 自衛隊だけが独自基準で行動すれば、他国の部隊を守ることができない、といった事態も考えられる。各国に負担をかけることになれば、日本への不信感だけを高めることにもなりかねない。
 基準を早急に見直し、新法案に盛り込むべきだ。民主、公明、自由三党の幹事長は、国際基準並みに緩和すべきだとの考えを示している。自民党を含め主要政党の歩調はそろっているはずだ。
 政府・与党が見直しを避けたのは、国会審議の混乱を懸念したのだろうが、早期合意の余地は十分にある。
 内閣法制局は、基準の緩和が憲法で禁じる武力行使につながる恐れがある、としているが、国際共同行動における武器使用と、武力行使とは次元が異なる。
 国際的な責任を果たすためにも、十全の準備を整えたうえで、自衛隊を送り出す、それが政治の責任である。
 
 
 
 
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