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2003/05/11 読売新聞朝刊
[社説]対イラク制裁 安保理は早期解除の実現に動け
 
 復興への障害は、一日も早く取り除かねばならない。
 米国、英国、スペインの三か国が、イラクに対する経済制裁を解除する新決議案を、国連安全保障理事会に提出した。
 安保理は、この案を土台に合意の形成を図り、早急に制裁を解除すべきだ。イラク国民の利益を最優先する立場から、早期に決議を採択するよう求めたい。
 イラク制裁は、一九九〇年にクウェートを侵略した直後、安保理が決議して以来、十三年近く続いている。湾岸戦争の停戦決議は、制裁解除の条件として大量破壊兵器の廃棄を義務づけている。しかし、フセイン政権の崩壊で、制裁継続の実質的意味は、もはや失われた。
 イラクでは、米国の指導下で、月内発足を目標に、イラク人による暫定政府作りが進んでいる。国家再建には、財源確保と国際支援が不可欠だ。
 新決議案は、制裁解除とともに、食糧など人道支援物資の購入に限り石油輸出を認めた「石油・食糧交換計画」の廃止をうたっている。最大の収入源である石油輸出の自由化と、用途制限の撤廃によって復興に弾みがつくに違いない。
 開戦前、イラクへの武力行使容認決議案をめぐり米英と鋭く対立した仏独露も、新決議案に、強硬な反対姿勢はとっていない。シラク仏大統領は「建設的な精神で討議する用意」を表明した。シュレーダー独首相も「現実的な解決策を探る」と述べている。
 だが、開戦をめぐって生じた亀裂が残る以上、協議には曲折も予想される。
 新決議案は、米英中心の占領軍に、戦後統治の権限と責任を与えている。国連の役割については、「重要」としながらも、人道支援などに限定し、主導権はあくまでも米英が握る形だ。仏露が拒否権を行使する可能性は小さいとしても、修正を求める動きに出てくるだろう。
 石油や天然ガスの売却益については、当面、イラク中央銀行に設けるイラク支援基金に入れ、その支出は米英の指示による、としている。利害が錯綜(さくそう)する中、基金管理のあり方も論議となろう。
 イラク復興には、国際社会の幅広い協力が必要だ。急務となっている治安回復では、米軍と多国籍軍が、イラクを三分割して分担する構想が進んでいる。イラクの対外債務の軽減など解決すべき課題も少なくない。
 イラク戦争で米国を支持した日本としても、積極的に復興支援を進める責任がある。インフラ整備や医療、輸送など、ただちに活動できる能力を持つのは自衛隊だ。派遣を可能にするための新法の制定を急がなければならない。
 
 
 
 
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