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私はこう考える【イラク戦争について】

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 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/03/27 読売新聞朝刊
「米」一極主導の世界で影響力確保へ 寄り添う「英」、抵抗する「仏」(解説)
 
 英国とフランスは、イラク戦争に対照的な姿勢を取りながら、米国一極主導の世界における自国の位置を模索している。
(解説部 波津博明)
 
 イラク戦争に対して、米国と行動をともにした英国と、最後まで抵抗したフランスの姿勢は、一八〇度逆に見える。その背景には、イラクの危険性に対する認識の違いと並んで、唯一の超大国米国への対応戦術の相違もある。英国が米国と一心同体というわけではない。
 英フィナンシャル・タイムズ紙は、同時テロ以来、英仏の課題はいかに米国を抑制するかだったとし、イラク問題でもブレア英首相の本音は戦争回避だったと見る。「しかし、ブレア氏はそれを公言はできない。そんなことをすれば、ブッシュ氏に対する影響力を失うからだ」
 ブレア首相は開戦を控えた十八日の議会討論で、まさにそこに言及した。反戦派議員に対し、「今英軍を撤退させて、(米国の)単独行動主義を増長させてもいいのか」と、二度もくり返して迫ったのだ。反戦派には米単独主義への警戒感が強いから、ブレア氏はこうした論理で説得を試みたともいえる。ただ、これが英国の対米姿勢の一端を示していることも確かだ。ブッシュ大統領が聞いたら、いい気はしなかっただろう。
 
 最近のブレア氏には、米国という主人につき従いながら、後ろから必死に国際的枠組みというマントをはおらせようとする従者のようなイメージがある。それだけに、ラムズフェルド米国防長官の「英国なしでも(戦争は)可能だ」との発言が英国民に与えた衝撃はひとしおだった。そこまでいわれても米国と組むのか、との声も出た。
 しかし米国との二人三脚という路線は、基本的には、一九五六年のスエズ動乱以来続く英国の対米姿勢の延長なのである。
 スエズ動乱ではエジプトのスエズ運河国有化に対し、英仏は、利権確保のためイスラエルとともに出兵したが、予想外の米ソの一致した撤兵要求を受け、これに屈した。
 英仏は衝撃を受け、米国が自動的に味方になるとは限らないこと、米国の力が抵抗不能なほど圧倒的であることを思い知った。以後、両国の安全保障戦略は別の道をたどる。
 英国は歴史的文化的共通性を背景に、米国に寄り添いながら、米国への影響力を確保する戦略を取り、一方フランスは独自の核戦力を保有、六六年には北大西洋条約機構(NATO)の軍事機構から脱退して、対米自主姿勢を確立する。
 九一年の湾岸戦争では、ミッテラン仏大統領は武力行使の期限ぎりぎりに、イラク軍のクウェート撤退後にパレスチナ問題を討議する国際会議を開く、という独自提案を安保理で行った。公平な提案によってフセイン大統領のメンツを立てながら、平和解決を図る試みだったが、非公式協議で米国に反対されると、あっさりあきらめ、米英とともに参戦した。若干の抵抗で存在を誇示するが、最後は米国に従うというわけだ。
 
 しかし今回は、湾岸戦争パターンにならなかった。当時も米単独の作戦は十分可能だったが、冷戦後の世界秩序構築を考えていた当時のブッシュ大統領は、米の主導権を国際的な枠組みを通じて貫こうとし、国際社会の支持取り付けに努力した。枠組みがあれば、その中でフランスが一定の独自性を発揮することも可能だ。
 しかし単独主義を貫く現ブッシュ政権は、どんな枠組みを作るつもりなのかわからない。だからこそ英国は米国に従いつつ今後の枠組み形成に参与したいと思い、フランスは、国連という枠をあくまで掲げて抵抗を貫いた、ともいえよう。
 今後の焦点の一つは、戦争終結後にある。ブレア首相は、戦後の行政機構を国連主導で創設し、パレスチナ問題の解決努力を強めることを主張している。米国の単独主義を事後に修復する試みだろう。
 しかし、ブッシュ政権は当面、戦後の国連関与は考えておらず、中東和平で積極姿勢を取る可能性もあまりない。米欧修復どころか、戦後別の対立が起きる可能性もあるのだ。
 
 
 
 
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