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2003/02/16 読売新聞朝刊
国連イラク査察団追加報告 仏、戦争回避へ綱渡り
 
 【パリ=池村俊郎】十四日の国連イラク査察団追加報告を受けて、「性急な戦争突入より査察強化」を呼びかけてきたフランスの主張に対し、安保理理事国の支持が急速に高まってきた。巨大な軍事力を背景に「知恵と力」を備えた米国外交に対して、「巧妙さと説得力」で対抗する仏外交の粘り腰が成果を上げてきたともいえるが、今後、イラク危機を戦争なしでくぐり抜けられるのか、仏首脳にとっての試練も続く。
 十五日の仏新聞各紙は「平和にチャンス」「査察団、平和に軍配」――などと一面に大見出しを掲げ、まるで、イラク戦争の回避が決まったような報道ぶりだった。仏ラジオはドビルパン外相の演説に安保理議場で拍手がわいたことを繰り返し放送した。
 安保理では来月一日に再度の査察報告を求める方向にある。フランスは査察に関する安保理会合を来月十四日に開き、その時点で安保理全体の意向を探る方針だが、軍事作戦のスケジュールをにらむ米国がそこまで譲歩するかどうかわからない。
 仏政府は査察団の十四日の報告次第で、武力行使容認の新決議案へと議論が一気に進むことを警戒していた。現時点で武力行使の判断を迫られれば、仏には「棄権か反対」の選択しかなく、対米関係をさらに悪化させる覚悟が必要だったからだ。
 だが、米英両国は、週明けにも武力行使容認の決議案を提案する動きを見せる。仏側は「まだ戦争しか手段がない事態ではない」と主張し、水面下で抵抗する方針だ。ただ、採択ずみの決議1441で「武力行使が可能」と当初から主張している米国を、抑制できる保証はない。十四日の安保理で予想以上の十二か国が査察継続に理解を示したことが、仏側の手にした一番の説得材料ということになる。
 「武力行使を含め、いまの安保理に新決議案を出せば、棄権、反対さらには拒否権まで乱れ飛び、国連の威信が地に落ちる」と仏外交筋はいう。実際、査察強化のための仏提案を決議1441の範囲に収め、新決議案としなかったのも、米英との正面対決を避けるためだ。
 「いつでも武力行使に突っ走れる米国に現時点で新決議案を出されれば、わが方も追い込まれるし、逆に米国の威信を傷つけても、喜ぶのはフセイン・イラク大統領だけで、国際社会が得るものはない」というのが仏側の本音でもある。
 一方で仏外交専門家の多くが「査察の効果は米軍事力の圧力があるおかげ」と冷静に指摘する。査察強化で大量破壊兵器廃棄が可能と主張する仏独両国にも、危機の本質というべきフセイン体制の危険性を取り除く上で、米国の軍事的圧力に代わるものはいまの所ない。仏外交も厳しい綱渡りを続けているのが現実だ。
 
<仏案の骨子>
 仏提案のイラク査察強化のための提案骨子。
一、 会計、文書解読の専門家を含め査察団要員を最大三百五十人まで増加
二、 疑わしい施設監視のため、国連警護要員増派
三、 機密情報を一括調整する専従事務局をニューヨークなどに設置し、五―十人の分析官を配置
四、 イラクへ流入する物資を監視するため、「移動税関」の設置
五、 上空からの監視を強化するため、飛行禁止区域を、イラク上空全域に拡大
六、 イラク当局との調整を図るため、「常駐調整官」をバグダッドに派遣
 
 
 
 
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