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2003/04/12 毎日新聞朝刊
[社説]日本の役割 人道、復興へ国際協調説け
<イラク戦争と世界>
 イラク戦争後の人道、復興支援の在り方について、日本政府は基本原則を打ち出し、英仏独を訪問した川口順子外相らが、各国と意見交換を始めた。
 原則は五つからなる。(1)イラクの主権、領土の一体性確保(2)イラクの体制はイラク国民が決め、国民の手で良い統治を確立(3)国連の十分な関与を通じ、国際協調でイラク人への人道・復興支援を実施すること――が主な柱だ。
 米英の武力行使に対して、日本では、半数以上の国民が反対していた。しかし、政府は「危険な破壊兵器を、危険な独裁者が持った場合の脅威に対処する」(小泉純一郎首相)として支持した。米英軍がフセイン体制を崩壊させた結果、無政府状態が続く。犠牲になっているのは国民である。日本も食糧や医療支援のため、既に表明した1億ドルなど応分に支援することは、人道上当然だと考える。
 政府の掲げる原則のうち「国連の十分な関与を通じた国際協調」はとりわけ重要である。
 武力行使に反対した独仏も、シラク仏大統領が「フセイン独裁政権が崩壊したことに満足している」と述べるなど現況は支持した。だが、戦後復興では国連の関与をめぐって米国と対立が続く。
 米欧の対立を和らげるには、復興を通じて双方が歩み寄ることが大事だ。川口外相は仏独両外相との会談で「国連が中心的役割を果たす」必要性で一致した。3週間で首都を陥落させた米国が、武力を過信し、今後も単独行動主義を強めないよう、米国を支持した小泉首相なら、説得力をもって自制を求められるのではないか。
 政府は当面の対応として、米英軍と共に民生部門を統治する米国防総省の「復興人道支援室」(ORHA)に、顧問を派遣することを検討している。復興がどんな形で進むか、現場で直接情報を集めて、日本が果たすべき役割を探る必要はあるだろう。
 ただORHAは、米英主体で占領政策を進める軍政組織の一部である。占領政策を担当する組織への参加は、他国との「交戦権行使の一部」をなすとする従来の政府見解からは、憲法上疑義がある。宗教や文化も異なるイラク国民が米英の占領政策を穏やかに受け入れるのか、懸念もある。
 ORHAの活動が、いつまでも国連の関与がないまま続けば、占領政策が国際的正当性を欠くことにもなりかねない。政府は慎重に見極めて参加を判断すべきだ。
 政府与党では、イラク支援法案を今国会に提出し、自衛隊を派遣する考えがある。自衛隊は国連平和維持活動(PKO)で実績を積み、一昨年11月からは、アフガニスタンでのテロ組織掃討作戦に、国際協調の下で戦時の後方支援を続けている。いずれも国連決議を踏まえている。イラクへの派遣も同様でなければならない。
 小泉首相は、国際協調体制の再構築に向け、米欧の首脳に直接働きかけを図るべきである。
 
 
 
 
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