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2003/04/05 毎日新聞朝刊
[社説]米国と欧州 しこり残す世界観の違い
<イラク戦争と世界>
 イラク戦争は国連安保理の新決議への対応をめぐり米欧が結束できないまま始まった。
 欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)の本部のあるブリュッセルで3日行われたパウエル米国務長官と欧州諸国の外相との協議でも、戦後のイラク復興について米国主導か、国連主導かで両者の溝は埋まらなかった。ただ、国連関与では一致したほか、欧州側に対米協調を模索する動きもみられる。
 イラク復興の過程で米仏対立に代表される米欧間のしこりは表面上はいずれ修復が迫られる。フランス主催の主要8カ国首脳会議(G8サミット)は6月に迫っている。しかし、この間の経緯で、根っこのところで米欧の世界秩序のとらえ方の違いが鮮明になってきた。このことは、今後の世界に影響を及ぼし、長い目でみれば歴史的意味が大きいかもしれない。
 米欧亀裂の背景には、米国の単独行動主義に対して、多極間の協調を目指す欧州側の反発がある。地球温暖化防止の京都議定書、核実験全面禁止条約(CTBT)、国際刑事裁判所(ICC)などへの米国の拒否姿勢はEU諸国とは正反対の立場だ。欧州側からみれば、国際協定に縛られたくない米国の勝手な行動と映る。
 イラク開戦に至る経過でも、米国の単独行動主義を抑えたいという欧州や中露の思惑が、フランスをして最後まで米国の止め役を演じさせたといえないか。イラクの大量破壊兵器疑惑への対応でも、米仏では脅威の感じ方の切迫度が違った。各国の利害も交錯した。
 今後の修復作業はNATOとEUでは多少異なりそうだ。ソ連の脅威から解放された欧州において、軍事同盟としてのNATOは試練の時期にある。99年に採択した新戦略概念では国際テロリズムやNATO域外の紛争にも軍事力行使を辞さないことを確認したが、今回は同盟国トルコの防衛策ですら一致できなかった。01年の米国主導のアフガニスタン攻撃ではNATOの出番はなかった。米欧ともにNATOに距離を置きだしたとみるのは早計だろうか。
 イラク戦争ではEUも分裂し、共通外交安保政策は看板倒れになった。ただ先月末、EU緊急展開部隊がマケドニアの停戦監視業務をNATOに代わって引き継ぎ、EUによる欧州安保の第一歩となったことは注目に値する。
 米国を盟主とする軍事同盟のNATOと違って、ヒト、モノ、カネの自由な移動を保障するEUは、日常の経済・社会に密着した機構である。加盟15カ国中12カ国は通貨主権を放棄してまで単一通貨ユーロの導入を実現した。このEUの中軸をなすのが仏独だ。
 イラク開戦では仏独と対立した英国が戦後復興では国連重視を説いている。米欧亀裂、EU分裂の修復に英国が果たす役割に期待がかかる。戦後の世界秩序をめぐる米欧の綱引きも英知と協調精神を発揮して克服すべきである。
 
 
 
 
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