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2003/03/29 毎日新聞朝刊
検証・小泉政権とイラク戦争 「シラクは硬い。話が違う」−−首相、説得できず激怒
◇米に同調
 2月18日午後8時。小泉純一郎首相は、フランスのシラク大統領から電話を受けた。17日の欧州連合(EU)首脳会議の内容を説明する大統領。話題はイラク攻撃をめぐる国連安保理の動向に移った。
 米英が新決議を断念して攻撃するのか、決議採択で安保理が結束できるのか。国際協調と日米同盟の両立こそ国益と信じた首相は「米と仏の問題ではない。イラクと国際社会の問題だ」と説き、歩み寄りを必死に求めた。だが、大統領は「フランスにはフランスの国益がある。査察強化・継続による武装解除が必要だ」と耳を貸さなかった。
 電話を切った首相の口調が一変した。「シラクの態度はとても硬い。話が違う。外務省はまだ変わることがあり得ると言っていたじゃないか」。外務省の西田恒夫総合外交政策局長や安藤裕康中東アフリカ局長らに声を荒らげる首相。首相は読み違いを悟り、日本と仏の距離を肌で感じた。
 2月末。首相執務室で福田康夫官房長官と副長官3人が首相を囲んだ。新決議不採択の場合に備えて対応を協議するのが主眼だった。「新決議がなくても米国の武力行使を支持する」。小泉首相は出席者に告げた。「国際協調」より「日米同盟」を優先する宣言だった。
 今月20日。新決議がないままイラク戦争が始まり、日本は攻撃支持を表明した。「日米同盟の強い信頼のきずなを基盤に、日本国民の安全確保に十分努力しなければならない」。首相は同盟重視を強調した。この夜、竹内行夫外務事務次官の自宅の電話が鳴った。アーミテージ米国務副長官からだった。「ありがとう。それだけ言いたかった」
 イラク戦争の大義とは何か。日本外交はもがき苦しんだ末、米支持で旗幟(きし)を鮮明にした。(13面に特集)
 
 
 
 
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