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2003/01/06 毎日新聞朝刊
[グローバル・アイ]マクドナルド販売不振 転機迎える米国流基準
石郷岡建
 
 「マック」の愛称で知られるハンバーガー販売の「日本マクドナルド」社は今年国内3890店舗のうち176店を閉鎖する。BSE(牛海綿状脳症、いわゆる狂牛病)騒ぎ以来ハンバーガーの売り上げが落ち、「59円バーガー」の安売り戦略も思うような効果を上げなかったためという。
 実をいうと、マクドナルドの売り上げが落ちたのは、日本だけではない。米ニューズウィーク誌によれば、世界各地の閉鎖店は01年163店、02年175店と増加し、米マクドナルド社は昨年、65年の上場以来初の赤字決算となった。
 マクドナルドは米国の豊かさの象徴で、世界各地の米国化現象とグローバリゼーションの象徴だった。だから、反グローバリズム運動から攻撃の対象とされ、爆弾テロの被害にあった。
 そのマクドナルドの躍進に陰りが出た。もっとも、マックの不振は、コーヒー・チェーン店「スターバックス」などの出現が理由で、「グローバリゼーションの終焉(しゅうえん)」を意味するものではないとの説明もある。
 それでも、「マックの危機」は世界を覆っていた米国流基準に転機が訪れたことを、何やら示唆しているような気がしてならない。
 ヘラルド・トリビューン紙が昨年世界44カ国で行った調査によると、米国に好感情を持つ人々の割合が大幅に減少している。米国が巨大な援助を注ぎ込んでいるエジプトでは親米感情をあらわした人はわずか6%。さらに、この2年間の継続調査によると、27カ国中19カ国で、米国を好ましいと思う人の数が減った。
 軍事的には、米国は世界最強国家であり、米国にかなう国はない。米国の意思は世界各地に届き、米国はいまや「領土拡張を伴わない新帝国」と呼ばれる。
 米政府高官は「米国は今日、ほぼ帝国的役割を演じている」とさえ発言した。
 ブッシュ大統領は、米国に刃向かう者は容赦せず、事実上、有無をいわせずに鉄拳をふるうとした「先制攻撃戦略論」を発表した。そして、世界はそれに反論もできない状態だ。
 もっとも、ブッシュ政権の姿勢は少しずつ変化している。イラクに加え、北朝鮮問題が急浮上するにつれ、帝国的な単独行動主義から国際協調路線へと微妙に立場を変えている。建前は別として、一国主義の限界は感じ始めているようだ。
 それでも、ブッシュ大統領は新年早々「イラクの報いの日(最後の審判)がやってくる」と発言した。そして、米国がイラク攻撃を決意すれば、多分、米国の動きは誰も止められない。
 しかし、イラク戦争の始まりは、世界の米国に対する見方を決定的に変える可能性がある。米国の地位と力は決して盤石ではない。(外信部編集委員)
 
 
 
 
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