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2002/12/30 毎日新聞朝刊
[民主帝国アメリカン・パワー]第1部 イラクとの戦い/1 大統領、予想外の決断
◇「パウエルにやらせよう」−−国連査察か、単独軍事行動か
 史上例のない強大さで自由と民主主義を推進する米国は、世界をどう変えていくのか。「民主帝国」の現状と狙いを長期連載で分析する。(2、3面にクローズアップ、6、7面に関連記事)
 流れを変えたのは、ブッシュ大統領の「パウエルにチャンスを与えよう」のひと言だった。対イラク単独軍事行動に傾いていた米政府は、8月に開いた国家安全保障会議(NSC)で国連決議採択をめざす方向に転じた。
 NSCは大統領の休暇中の8月16日に開かれた。議題は、対イラク査察を強化する決議を国連安保理に採択させ、国際的な支持を得られるかどうかだった。このころ、国連の枠組みを重視するパウエル国務長官は、単独軍事行動に傾くラムズフェルド国防長官に対して圧倒的な劣勢にあった。
 だが、結果は意外なものになった。米政府高官が毎日新聞に証言する。「テレビを通じた会議で、パウエル長官は『新決議は可能です』と主張し、ラムズフェルド長官は『そんなことは不可能だ』と反論した。2人の論戦をテキサス州の別荘で見守っていた大統領は最終的にパウエル氏を支持した。大統領は『よし、やってみよう。うまくいくだろう』と言った」
■背景にコストと再選
 大統領の決断の背景には、コストと再選戦略をめぐる働きかけがあった。パウエル長官は大統領が長期休暇に入る前日(8月5日)、単独の軍事行動の戦費や戦後処理は高くつくと大統領を説得した。議会筋は、選挙参謀のローブ大統領上級顧問が「武力を使わずイラクを武装解除すれば、04年の大統領再選は間違いない」と助言したことが大統領の心を動かした、と毎日新聞に明かした。
 だが、16日のNSC後も政府内の不協和音は続いた。同月26日、チェイニー副大統領がテネシー州ナッシュビルで「国連査察は(イラクの武装解除を)保証しない」と講演。立腹した大統領は、直後に「もうやめておけ。パウエルにチャンスを与えよう」と副大統領をたしなめた。チェイニー氏が29日、テキサス州サンアントニオで行った講演は、テネシー州での内容とほぼ同じだが、強い国連批判はなかった。
 9月12日、国連で演説した大統領は、対イラク新決議を求める意向を正式に表明した。だが、国連査察が始まった現在も米軍のペルシャ湾岸への増派は続き、米・イラクの対立が緩和したわけではない。イラクを敵視する大統領の「原点」ともいえるのが、1月の「悪の枢軸」演説だった。
■イラクこそ第1の悪
 同時多発テロから3カ月後の昨年12月、大統領執務室にスピーチライター十数人が招集された。デービッド・フラム氏(42)もその一人。テロ後初の一般教書演説(1月29日)を控えたブッシュ大統領が命じた。「我々がどんな戦争をしているのか。普通の人が理解できる表現がほしいんだ」
 フラム氏によれば、草稿づくりの課題は「イラクに強硬姿勢を取るとすれば、どんな表現が適当か」だった。イラクに続き1月中旬にイランが、最後に北朝鮮が敵対国に加えられた。つまり、「悪の枢軸」の中でも、イラクこそ第1の「悪」であり、この時点で「強硬姿勢」が既に検討されていた。
 フラム氏は、この3国を「憎悪の枢軸」と呼ぶことを提案した。「第二次大戦の日独伊枢軸には民主的な価値観への憎悪があった。『テロとの戦争』も民主体制と専制体制の戦いだ」と同氏は毎日新聞に語っている。
 大統領は演説草稿の余白に指示を入れて返送し、10回以上も書き換え作業が続いた。ある日、ホワイトハウスからフラム氏宅に届いたファクスには、太い黒ペンで「枢軸」に大きな丸がつけられていた。フラム氏は「大統領は、よほどこの表現(枢軸)が気にいったようだった」と振り返る。
 大統領はさらに、「憎悪」(HATRED)を「悪」(EVIL)と書き換えるよう指示した。民主的体制を憎む国を「悪」と指弾した背景として、キリスト教的な「善悪の対立」という概念を好む大統領の心情を指摘する人が多い。
 「悪の枢軸」という言葉は、こうして誕生した。
(「民主帝国」取材班)=つづく(次回から3面に掲載)
 
 ■写真説明
 パワー誇示 キャンプデービッドの山荘に向かうため、ホワイトハウスを離れるブッシュ大統領の乗ったヘリコプター=ワシントンで21日、加古信志写すパワー誇示
 
 
 
 
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