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2002/11/01 毎日新聞朝刊
[発信箱]世界秩序は国連か米国か
中井良則
 
 国連安保理のイラク決議案が大詰めを迎えた。決まろうとしているのはイラクの明日だけではない。世界史を方向づける意味がある。
 ブッシュ米政権は安保理決議があろうがなかろうが、イラク攻撃に踏み出すだろう。決議なしなら「国連がかかわらない米国単独の先制攻撃」が世界で初めて始まる。攻撃に成功すれば2番目、3番目の標的国を米国が勝手に選ぶ構図ができてしまう。帝国としての米国に拍車がかかる。国連の威信も機能も損なわれ、攻撃に協力すべきか日本を含めて多くの国は判断できない。
 決議ありなら、内容次第で、湾岸戦争のような「国連の承認下での武力行使」という体裁は整う。イラクに査察受け入れの最後のチャンスを与えるので、もし大量破壊兵器を廃棄すれば、米国は攻撃理由を失いフセイン体制が生き残るどんでん返しが起こりうる。
 「米英案はイラク戦争を法的に正当化するものだ。査察条件を厳しくし、イラクが拒否するよう挑発する。『重大な決議違反』という表現を盛り込み、追加決議なしで米単独の戦争開始を可能にしようと狙う。今の案なら、仏露中が棄権し、採択に必要な9カ国の賛成は集まらない」。ニューヨークで国連外交を分析する地球政策フォーラム、ジェームズ・ポールさんの見方だ。決議を採択するためには米国が譲歩するしかない。
 米国の学者の間で署名が進む「イラク侵略反対の公開書簡」は「国連憲章によれば、自衛権を除き、安保理だけが戦争開始の法的権限を持つ」と説く。世界秩序維持の権威は国連か、米国かの分岐点にある。
(外信部)
 
 
 
 
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