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6. 防食工事
6.1 防食の目的
 船舶に使用されている金属は海水という苛酷な環境におかれている。海塩粒子の影響がある大気中に曝されている配管類や電装機器等、海水に浸漬した船体外板、プロペラ等はもちろん鋼とアルミニウムなど異なった金属で構成されている部材表面には電位差が生じ、電位の低い陽極部が腐食する。この腐食速度は0.1〜0.3mm/年以上の大きなもので、局部的に腐食が集中する場合には孔食となり破孔し漏水事故等につながる。このような事故を防止するために腐食対策として塗装や電気防食あるいは異種金属接触防止などの対策が必要となる。
6.2.1 腐食要因
 アルミニウム合金製船舶に使用されているアルミニウム合金は耐食性に優れている材料であるが、アルミニウム金属自体はイオン化傾向が大きく、使用方法を間違えると大きな腐食を起こすことになる。
 アルミニウム合金の主な腐食発生形態は以下の通りである。
 アルミニウム合金はpH4〜8.5の範囲で塩素イオンC1の影響のない環境では耐食性のある金属であるが、アルカリ性側ではpH9を超えるとA102として溶出し腐食が増大する。また、塩素イオンCLを含む水環境中で孔食という局部腐食を起こしやすい。
 アルミニウム合金相互あるいはアルミニウム合金と非金属の接触面にすき間が存在すると、すき間の内外で溶存酸素の濃度差ができ、この結果電位の差が発生し酸素濃度の小さいすき間の内部で腐食が発生する。
 図3.6.1に示すように、鉄とアルミニウム合金という二つの異なる金属を電気的に接続して溶液中においておくと、両金属の間には電位差が生じるので、この組合わせの場合には電位の低いアルミニウム合金が腐食する。
 
図3.6.1 異種金属接触腐食によるアルミニウム合金の腐食
 
 上記の腐食を防止するための基本的な考え方は次の通りである。
(1)アルミニウム合金表面を腐食環境から遮断する。(塗装)
(2)異種金属同士を絶縁する。(絶縁)
(3)アルミニウム合金表面の電位差をなくする。(電気防食)
 以下に各腐食対策について概要を説明する。
 金属が腐食するには酸素と水が必要であり、この腐食要因から金属を遮断することにより腐食を防止する方法が塗装である。
 アルミニウムは軟質のため、表面に傷がつかないようにして塗装作業を行う必要がある。また、上塗りの防汚塗料に銅イオンが入っているとアルミニウム合金は腐食を受けやすいので、銅成分を含まない有機型防汚塗料が使用される。
 金属同士を接合する場合のように異種金属接触腐食が発生する可能性のある場合には各金属同士が接触しないようにする。
 アルミニウム合金の腐食は表面に生ずる電位差に起因する局部電池作用によるものであるから、この電位差を無くしてやれば腐食が停止する。電気防食とは防食対象であるアルミニウム合金の表面に直流電流を流して腐食を防止する方法である。図3.6.2に電気防食の概念図を示す。
 
図3.6.2 電気防食概念図
 
 電気防食には防食電流の供給方法により流電陽極方式と外部電源方式がある。流電陽極方式は異種金属間の電位差を利用して防食電流を流すもので、アルミニウム合金の防食には亜鉛合金陽極、アルミニウム合金陽極が使用される。外部電源方式は直流電源装置と不溶性の電極を使用し、防食対象と電極の間に電圧をかけて防食電流を流すものである。
 アルミニウム合金は酸性でもアルカリ性でも溶解する両性金属であるため、過防食にするとアルミニウム合金表面はpHが上昇してアルカリ腐食を起こす。また、電気防食の主目的は孔食を防止することであるから、防食電流は小さな電流でよい。したがって、アルミニウム合金製船舶に対しては流電陽極方式が採用されている。
(1)金属同士を接合する場合の防食
 海塩粒子の影響を受けやすい場所、水を使用する区域(トイレ、浴室、賄室等)および機関室床下等水の影響を受けやすい場所、その他湿気が多い場所において、アルミニウム合金と鉄鋼あるいはアルミニウム合金同士を接続する場合には、異種金属接触腐食あるいはすき間腐食等の対策を行うことが必要である。
 対策方法は、金属同士の接合面および接合部材(ボルト類)との接合面に絶縁材を挿入し、ステンレス製(SUS316)ボルトで固定した後、接合面および周囲をシール材で被覆する。この場合ボルトにシールテープを巻くか、ボルトを腐食防止剤でコーティングすると防食に有効である。
 その一例を図3.6.3に示す。
 
図3.6.3 金属同士を接合する場合の防食法
 
 アルミニウム合金とゴム、プラスチック、木材等が接触する場合には、アルミニウム合金のすき間腐食防止のために接触面を十分に塗装する。ねじ等で固定した場合にはその周囲をシール材で被覆すること。
 その一例を図3.6.4に示す。
 
図3.6.4 金属と非金属を接合する場合の防食
 
 アルミニウム合金製船舶の没水部は、銅合金製プロペラと一体化しており、異種金属接触腐食によりアルミニウム合金が腐食する。この腐食対策として一般的には塗装と電気防食の併用が行われる。電気防食は、亜鉛陽極あるいはアルミニウム合金陽極を使用する流電陽極方式で行う。
 流電陽極の取付け方法を図3.6.5に示す。
 
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図3.6.5 没水部に流電陽極を取付けた例
 
 流電陽極を取付けた後は船体電位を測定し、海水塩化銀照合電極基準で、−850mV〜−1000mVの範囲にあるように維持管理を行う必要がある。この電位範囲であれば、ビニル系、塩化ゴム系塗料でも劣化・剥離は生じないし、アルカリ腐食も発生しない。船体電位の測定法を図3.6.6に示す。
 
図3.6.6 船体電位の測定法
 
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図3.6.7







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