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第7章
都市化と人口移動
人口移動
 今日の人口移動に関して特筆すべき変化には、急激な都市化・難民及び避難民の移動、国を越えた移住などがある。人口の流動は、今後も続くかあるいは増大すると考えられるが、これらは開発のパターンに影響を与える。人口移動の多くは、貧困や環境破壊により生じたものである。
 今後数十年間に起こる人口増加は、事実上すべて世界の都市地域に集中するだろう。都市人口増加のペースに雇用やサービスの提供が追いつかず、しばしば貧困を伴う。しかし、同時に都市は社会変化や経済発展の機会を提供する。
 現在は世界人口の2%にすぎないが、1億2,500万人の人々(難民や非公式の移民を含む)が生まれた国以外で生活しており、その数は増え続けている。国際移民は21世紀も引き続き多いものと予想される。比較的産業の発達した地域は、国際移民の純受入国であり続け、今後50年間の年平均増加数は200万人に上ると推計されている19
 
世界の人口の半数が都市部へ集中
●2000年には、29億人が都市部で生活している。これは世界の人口の47%を占めている。
●2030年までに、49億人が都市部で生活するようになると予測され、これは世界の人口の60%を占める。
 
 この人口増加の大部分が開発途上地域の都市部に吸収され、一方農村地帯の人口の増加率は低下するであろう。2007年までに、歴史上初めて都市部の人口が農村部の人口を上回ると予測されている20
 今日のような規模で都市が急速に成長すると、水・電気・下水のような最も基本的なサービスを供給するのに、地方及び各国政府に大きな負担がかかることになる。また環境・天然資源・社会的なつながりや個人の権利が危険にさらされる。不法占拠居住地(スコッターエリア)や過密スラムには、数干万人もの人々が住んでいる。リオデジャネイロの丘の中腹にあるスラム街や、墓地を数万人の人が住居として使用しているカイロの「死者の町」などが例として挙げられる。開発途上国の中には―特にアフリカに顕著に見られるが―この都市の拡大が、都市を基盤とした開発を意味しているのではなく、農村の崩壊を反映している国々もある。
 しかし、同時に都市は社会変化のスピードを速め、人類の発展―特に女性の発展―に新しい道筋を開いてくれる場所でもある。都市は農村に比べ、女性に対し、より多くの就学機会、家族計画及び性行動に関する健康(セクシャルヘルス)を含むリプロダクティブ・ヘルス・サービスの利用機会、正当な賃金を得られる労働などの機会を与えることになる。
 
都市化の傾向
 ラテン・アメリ力及びカリブ海諸国はすでに都市化が非常に進んでおり、今後もヨーロッパ、北アメリカと同様に都市化が進むであろう。アジア、アフリカは都市化が著しく遅れているが、今後急激に都市化が進むと考えられる。
 人口1,000万人あるいはそれを超えるような非常に巨大な大都市圏に居住する人口の世界人口に占める割合はまだ小さく、2000年に4.3%であったものが2030年までに5.2%まで増加すると考えられているにすぎない。一方、100万人以下の小規模な都市に居住する人口が世界人口に占める割合は大きく、2000年の28.5%から2030年には30.6%へ増加すると予測されている23
 東京は世界最大の大都市圏であり、その人口は2,640万人に上る。人口増加はないものの、今後も最大のままであると予想されている。都市の規模として東京に次いで大きいのは、メキシコシティー、ボンベイ、サンパウロ、ニューヨークである。
 
地域毎の都市人口の増加率
出所:World Urbanization Prospects 1999 Revision
 
緊急事態と難民
 武装衝突や自然災害で危険にさらされる大多数は女性と子供たちである。その割合はしばしば70%以上、時には90%以上に及ぶこともある21
 2000年における世界中の難民・帰還民・国内避難民の数は2,230万人に上る22。この10年を振り返ると、1990年では、国連難民高等弁務官(United Nations High Commissioner For Refugees/UNHCR)は約1,500万人の難民の支援活動を行っていた。その後、危機がイラク、旧ユーゴスラビア、ルワンダ、アフリカのグレートレーク地域で連続して勃発した。1990年代半ばに難民の数は最高値に至り、その後次第に減少した。アジアでは、この10年を通じて常に最も多くの難民を迎えており、ヨーロッパだけは難民の増加が続いている。
 国連人口基金(UNFPA)はこれらの弱い立場の人々に対し、緊急時のリプロダクティブ・ヘルス・キットをパッケージとして供給しており、緊急時の優先項目として以下のものを挙げている。
 
●清潔な環境での出産、家族計画の推進、緊急の産科ケアなどを通じた安全な妊娠・出産
●すべての人に対し予防措置の情報を提供するなどの、性行為感染症(STD)とHIV/AIDSの予防
●思春期の健康
●性的暴力、男性から女性への暴力の廃絶、そのためのカウンセラーの訓練
 
国連人口基金はまた、迅速な評価、男性用女性用コンドーム及び避妊具の提供、ヘルス・ワーカーの訓練、器具や医薬品の提供、調査とデータ分析の実行、リプロダクティブ・ヘルスと難民・避難民の権利の徹底なども行っている。
 UNHCRや多くのNGOの協力を受けて実行されているリプロダクティブ・ヘルス支援は、アルバニア、アンゴラ、エルサルバドル、エリトリア、エチオピア、ケニア、コソボ、モーリタニアをはじめとする、武装衝突や自然災害に見舞われた地域で行われている。
 
人口移動はより多くの国とより多くの人を巻き込んでいく
 出生した国以外で生活する人は、1億2,500万人を超えるが、その半数は開発途上国に住んでいる。国内移動に比べれば少ないものの、国際人口移動(国際移民)も増加している。国際人口移動には、一生その国に暮らすつもりの(永住を目的とした)移住と一時的な出稼ぎ移住(数十年にわたる長期のものになることもあるが)の双方が含まれる。他に難民や非公式移民の移住も含まれる。
 現在、より多くの国が、増え続ける国際人口移動を受け入れるようになってきている。受入数や各国の人口に占める割合の面からみても、1965年以来国際移民を受け入れる国はさらに多様化し、30万人以上の大量の国際移民を受け入れている国の数、あるいは受け入れた国際移民の割合が全人口の15%を超える国の数が増大している24
 女性の人口移動は、家族再統合政策(ファミリー・リユニオン・ポリシー)とあいまって、雇用やその他の理由によりますます増加するであろう。現在、国際人口移動数の半数近くを占めているのは女性である。しかし、女性の人口移動の場合、その女性の多くは社会的地位が低く、低賃金の製造業やサービス業に就くことが多く、特に搾取や、性的なものを含めた虐待を受けやすい。
 国際人口移動の動機となる要因には以下のものが挙げられる。
 
●自身と家族のためのより良い生活の追求
●地域間及び地域内の所得格差
●移民送出国及び移民受入国の労働政策と人口移動政策
●政治的な紛争(これは人口を国内で移動させるのみならず、国境を越えた人口移動へと追いやることになる)
●農地・森林・牧草地の喪失を含む環境悪化(「環境難民」の大多数は海外ではなく都市へと移動する)
●「頭脳流出」、つまり高学歴の開発途上国の若者が、先進国の労働力の不足を補完するために移動すること
 
 受入国の多くで、産業とインフラの一部は移動労働力によって形成され、維持されている。人口移動の経済効果は二面性があり、1つは労働力の後発開発地域から先進国への移動であり、もう1つは送金という形での先進国から後発開発地域への資金の移動である。
 
解決法と今後の方向
 人口増加を抑え、国家間及び国内の不平等を減らし、経済成長及び雇用創出を促進し、持続可能な開発を推進することは、都市への人口移動、及び国内外における人口移動を駆り立てる圧力を軽減させる手段である。具体的な戦略としては、経済的な機会の増加、農業生産の維持と改善、及び医療・保健や教育の提供のための努力などが含まれる。これらと同様に重要な戦略として、「政治的な紛争の解決」、「人権侵害の終焉」、さらに「良い行政の促進」がある。
 

19 UN Population Division,World Population Prospects The 2000 Revision
20 United Nations,World Urbanization Prospects 1999 Revision
21 UNHCR 2000
22 このUNHCRが「対象としている人口」は、その依拠する統計の入手が難しく、現在起こっている事象により大幅に変化する可能性がある。
23 United Nations, World Urbanization Prospects 1999 Revision
24 United Nations.“International Migration 1965−96:An Overview”,Population and Development Review,Vol.24,No.3,1998年9月







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